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マレーシアでの第3回AZEC首脳会合出席の高市首相に、アジア各国の市民団体が「日本で処理できないCO2をCCS事業でアジアに押しつけるな」と「厳しい視線」送る(RIEF)

2025-10-27 04:01:13

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    マレーシア・クアラルンプールで開いた第3回アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)首脳会合に、初めて出席した高市早苗首相に対して、アジアの環境NGOや市民団体は厳しい眼差しを注いだ。日本政府がアジアでの再エネ支援よりも、化石燃料の延命策の水素、アンモニア、CCS等の事業を推進する姿勢は高市政権でも変わらず、むしろこれまでよりも「露骨に推進される」懸念が高いためだ。現地では36の市民団体が、高市首相とASEAN諸国の首脳に対し、「AZECを化石燃料と企業利権の延命手段ではなく、アジア地域の今後のエネルギー移行を加速させる真のプラットフォームにする措置を講じるよう」求める共同声明を発表した。

 

 AZECの下では、2023年3月から2024年10月にかけて、すでに217件の覚書(MoU)が締結されている。このうち67件(約3分の1)は水素、アンモニア、LNGなどの化石燃料技術の「延命」に関連するものだ。だが、それらの技術がいつ実証化されるかは、定かではなく、これらの「延命技術」を活用すると、同技術の成否がわかるまでの間は、石炭、天然ガス火力発電等が継続され、温暖化の抑制は先送りされることになる。

 

 すでに気候変動の激化による影響はアジアでも現実化している。わずか数週間前には壊滅的な台風ブアロイが襲来し、フィリピンとベトナムでは広範囲において家屋等の破壊と多くの死者が出た。にもかかわらず、日本政府は国の内外で、化石燃料の使用を長引かせる行動を継続しているわけだ。

 

ピカチュウも参加して、高市首相の「CCS推進政策」に反対を表明する市民団体
ピカチュウも参加して、高市首相の「CCS推進政策」に反対を表明する市民団体

 

 17日にクアラルンプールで開催されたAZEC閣僚会合では、マレーシアと日本の関係機関の間で、二酸化炭素回収・貯留(CCS)、バイオ燃料、トランジション・ファイナンスを含む7件の新たな覚書が署名された。これらの連携の中で、日本の経済産業省とマレーシア政府は、化石燃料排出継続を前提としたCCS技術に関する政府間の覚書に署名した。

 

 日本の電力会社が石炭・天然ガス火力を引き続き使い続けるため、排出されるCO2を日本国内ではなく、マレーシアなどのアジアに持ち込み、CCSによって処理しようという計画だ。しかし、CCSはこの50年にわたって、一部を除き「失敗の歴史」を積み重ねていると指摘されている。

 

 国際NGOのオイル・チェンジ・インターナショナル(OCI)の調査では、日本政府は、2014年以来これまでの10年超で総額52億㌦(約7900億円)の国費(国民の税金)をCCS事業に投じてきたが、事業の実証化にほど遠く、回収・貯留したとするCO2量はわずか30万㌧だけ。OCIの報告書は「(日本政府は)この排出削減効果の乏しい技術を東南アジア全域で強く推進するとともに、同地域を日本の炭素廃棄物の投棄場に変えようとしている」と強く批判している。https://rief-jp.org/ct7/161503?ctid=72

 

 「Climate Analytics」の報告書によると、アジア諸国が今後CCSの多い経路を採用した場合、2050年までに追加で排出される温室効果ガス(GHG)は累積約250億㌧(CO2換算)に達する可能性があると指摘している。CCSで貯留するよりも多くのGHGが排出され、アジア諸国は現在の石炭・ガス火力起源のGHG排出に加えてCCS起源の排出源に転じるリスクがある。

 

 にもかかわらず、マレーシア等はCCSに関する政府間の覚書に署名している。これは日本政府の補助金をこれらの事業にふんだんに投じると「宣伝」しているためだ。アジアの首脳たちは、日本のCO2でも、その貯留事業が成功すれば、自国のCO2の処理にも使えると踏んでいるようだ。しかし、それはCCS技術が安全に使えるという前提が成り立って初めていえる話だ。現状ではそうした前提は欧米でも実現していない。

 

 日本からの資金導入を重視するアジアの首脳たちとは一線を画して、アジア各地の市民団体は、新しく就任した高市早苗首相に対し、アジアの再エネ移行を阻害し、化石燃料の使用を長引かせることを止めるよう強く求める声明を出した。声明では、「AZECを化石燃料と企業利権の延命手段ではなく、アジア地域の今後のエネルギー移行を加速させる真のプラットフォームにするための措置を講じるよう」として求めている。だが、AZECはすでに「化石燃料延命」の手段と化している。

 

 市民団体の共同声明では、「AZECは、石炭と化石燃料ガスを段階的に廃止するどころか、石炭火力発電所でのアンモニア混焼、ガス火力発電所での水素混焼、CCSなどの、『危険な目くらまし』となる技術を推進している。これらの技術では必要とされる(気候対策の)規模や速度で排出削減を実現できない。そればかりか、各国を長期的な化石燃料依存に縛りつけ、高額なインフラと債務の負担を強い、同時に再生可能エネルギーへの移行を遅らせてしまう」と強い危惧を示している。

 

 しかし、市民団体はAZEC首脳会議に初参加の高市首相に対し、改めて従来の慣行を打破し、日本の豊富な人材・財力と技術的専門知識を、アジアに膨大に潜在する再エネの可能性に振り向けるよう求めた。なぜなら、東南アジアでは再エネの潜在力の99%が未だ未開発であり、同地域は再エネの発電容量を33.8 GWから397.8 GWへ拡大する計画も立てているためだ。現在の再エネ容量の約12倍に相当する。

 

 アジア諸国は脱炭素化への移行に向けて、化石燃料延命のための水素、アンモニア、CCS等という日本流の「延命技術」に身をゆだねるか、地域社会に立脚した再エネ発電を推進するかの選択を迫られているわけだ。声明を出した市民団体は、ASEAN各国政府と日本の新政権に対し、アジア諸国の再エネ発電への移行を支援する方向へAZECを導くための行動を取るよう求めた。

 

 同声明では、次の政策選択を求めている。

①LNG、アンモニア/水素混焼、バイオマス、CCSなどの化石燃料に基づく技術への支援を終了すること。

②公的資金を無償の形で、地域社会に根ざした再エネおよびエネルギー効率化の拡大に振り向けること。

③コミュニティと生態系を尊重し、ASEAN地域が日本企業が排出したCO2や、時代遅れの化石燃料の受け入れ先として利用されないようにすること。

 

 Oil Change Internationalのシニア・ファイナンス・キャンペーナーの有馬牧子氏は「「高市首相は明確な選択を迫られている。化石燃料拡大のためのグリーンウォッシュ手段としてAZECを継続するか、それとも方針転換し、アジアにおける再エネの潜在性の高さを認識することで真のリーダーシップを示すかの選択だ。AZEC下の覚書の3分の1は化石燃料を支えるものであり、これは直ちに終了させるべきだ。日本にはアジアの再エネ移行を支援する資源と責任があり、その出発点は高市首相の政治的意志次第だ」と指摘している。

 

 The Artivist Network(マレーシア)、アジア・ディレクターのAmalen Sathananthar氏は「(最近の)ペトロナス・ガス爆発事故で数百人が負傷した事件等は、われわれにとって警鐘となる出来事だ。にもかかわらず日本はAZECを通じて、マレーシア及び地域全体でさらなるガスインフラ整備を推進している。AZECが資金提供する新たなLNGターミナルやパイプライン拡張のたびに、より多くの地域社会が危険に晒されている。日本はエネルギー移行を掲げるが、AZECを通じてアジアに提供しているのは、すでに私たちの地域社会に害を及ぼしている化石燃料依存の延長線上に過ぎない」と日本政府を批判している。

 

 インドネシアの市民団体「Don’t Gas Indonesia」の 呼びかけ人Muhammad Reza Sahib氏は「日本のAZEC政策は、気候危機を解決するのではなく悪化させる誤った気候変動対策を輸出している。インドネシアではLNGやアンモニア事業が『クリーンエネルギー』と称して売り込まれ、化石燃料依存を固定化し、企業の利益のために地域社会を犠牲にしている。日本は汚染を進歩として偽装するのを止め、正義に基づく、人々を中心にした再エネへの移行を支援すべきだ」としている。

                         (藤井良広)

https://fossilfreejapan.org/joint-statement-global-action-to-stop-japan-from-derailing-asias-energy-transition/