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フランス裁判所。エネルギー大手トタルエナジーズの「カーボンニュートラル宣言」等のウェブでの宣伝は「消費者を誤解させる」として削除指示。日本にも似たエネルギー企業がある(RIEF)

2025-10-24 22:01:05

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  フランス・パリの司法裁判所は23日、トタルエナジーズと子会社が消費者向けウェブサイトで「2050年までにカーボンニュートラルを達成できる」と述べながら、事業では石油・ガス生産を拡大する方針をとってきたことは「消費者を誤解させる」として、グリーンピースなどの環境NGOが、同社を訴えていた訴訟で、原告の言い分を認めて「誤解を招く商業慣行」との判断を示したうえで、一部の主張の撤回を命じた。トタルエナジーズは控訴しないとしている。NGOらは、判決は「気候変動に関する誤情報に対する重要な法的先例となる」と評価している。化石燃料事業を柱としながら、カーボンニュートラルを主張する姿は、日本最大のCO2排出企業のJERAが、カーボンニュートラルを宣言する姿と重なる。

 

 トタルエナジーズに対する訴訟は、2022年3月に、グリーンピースフランスのほか、レザミ・ド・ラ・テール・フランス、ノートル・アフェア・ア・トゥーの3NGOが、法律家団体のクライアントアースの支援を得て、訴訟を起こしていた。訴訟の争点は、トタルが「石油・ガス生産を継続しながらカーボンニュートラルを達成できる」とする主張について「グリーンウォッシュではないか」という点だ。

 

 被告はトタルエナジーズと、その子会社のトタルエネルジーズ・エレクトリシテ・エ・ガズ・フランス(TotalEnergies Electricité et Gaz France)。

 

 同社は、2021年5月から「社会と共に2050年までにネットゼロを達成する」という目標を公に表明し、同社が開発する天然ガスを「温室効果ガス(GHG)排出量が最も少ない化石燃料」と宣伝してきた。また同社は風力発電や太陽光発電による電力生産への投資を強調するため、社名をトタルからトタルエナジーズに変更し、この社名変更という新たなアイデンティティにより、自らを「エネルギー転換の主要プレイヤー」と位置付けるキャンペーンを展開してきた。

 

 しかしIPCC等の科学的知見に基づくと、ネットゼロの達成にはGHG排出量の大幅削減が必要で、新規石油・ガスプロジェクトを追加的に実施できる余地はなく、既存の化石燃料事業も縮小か廃止が不可欠となる。にもかかわらずトタルは、新たに石油やガス等の化石燃料開発を進め、特にウガンダ、モザンビーク、スリナムなどでの開発では、コミュニティ破壊等の問題も引き起こしている。

 

 「ネットゼロ目標」を掲げながら、同社は2024年時点で、化石燃料開発が同社の総エネルギー生産量の97%以上、投資額の約80%を占めているとされる。また今後数年間にわたっても、石油、ガスなどの化石燃料の生産量増加を計画しており、新規・既存の化石燃料事業の縮小・廃止の計画は盛り込まれていない。

 

 そんな中で、原告のNGOらによると、「トタルは風力タービンや太陽光パネルを同社の主要業務であるかのように前面に押し出した広告戦略を展開し、自らの事業の中心である石油・ガス等による汚染活動を世間の目からそらしてきた」と指摘。こうした企業戦略はまさにグリーンウォッシングであり、企業イメージを「グリーン化」するマーケティング戦略だと批判した。

 

 特にトタルが、自らの戦略を擁護する際に好んで用いる論点の一つが、天然ガスを「移行エネルギー」と位置付ける主張だ。同社は常にガスを他の化石燃料より「汚染が少なく」「GHG排出量が低い」選択肢として宣伝している。NGOらは、広告で繰り返し展開される同社の主張は、このエネルギーのライフサイクル全体における真の影響について消費者を誤解させるもの、としている。

 

 天然ガスは化石燃料の一つであることに違いはなく、石炭や石油より、単位当たりのCO2排出量は少ないが、発電等に大量に使用すれば大量にCO2を排出することから、決してクリーンでも低炭素でもない。特に開発時のメタン漏出によるGHG排出量は膨大であり、メタンの地球温暖化係数は平均でCO2の84倍にもなる。

 

 判決では、トタルが「2050年までにカーボンニュートラルを達成する」という宣伝を展開していることについて、「消費者の誤解を招く行為に当たる」として、そのような宣伝を差し止めるよう命じた。宣伝の差し止めは、判決の正式受領日から1カ月以内に実施することを条件としている。

 

 削除対象には、「当社の野心は、エネルギー転換の主要プレイヤーとなりつつ、公共のエネルギー需要を満たし続けることにある」「2050年までに社会と協力してネットゼロ達成に貢献することを目指す」等の表現も含まれる。

 

 トタルは判決後の声明で、控訴については明言せず、同社が展開する企業コミュニケーションに関する主張や、同社に対して、天然ガス・バイオ燃料を「クリーンエネルギー」と偽って宣伝したとするNGOらの批判については、裁判所が退けたと強調した。

 

 また同社は、判決の内容について、トタルエナジーズの主要なフランス消費者向けウェブサイト「totalenergies.fr」およびフランス国内の消費者向け電力・ガス子会社の各サイトにも、掲載することを義務付けられた。

 

 グリーンピースと他の2つの環境NGOは「この判決は、気候変動に関する誤情報に対する重要な法的先例」との意義を強調したたうえで、「気候変動に関する誤情報について主要石油会社に対する世界初の判決」と評価している。

 

 欧州ではこれまでも、2024年3月にオランダのアムステルダム地裁は、KLMオランダ航空のSAF燃料についての広告が「グリーンウォッシュ」にあたり、消費者に誤解を与えるものとして違法であるとの判決を下している。今回の判決については、石油・ガス業界というCO2排出の「本丸」での「ウォッシュ判決」である点で、法律家団体のクライアントアースは、判決を「グリーンウォッシングに対する歴史的勝利」として歓迎している。

                          (藤井良広)

https://www.france24.com/en/live-news/20251023-french-court-convicts-totalenergies-over-misleading-climate-claims

https://www.greenpeace.fr/totalenergies-condamnee-greenwashing/

https://totalenergies.com/fr/actualites/communiques-presse/mise-au-point-totalenergies

https://www.clientearth.org/latest/news/we-re-joining-legal-action-against-total-for-greenwashing/