インドネシアの生物多様性「宝庫」の島の森林を皆伐・製造した木質ペレットを、阪和興業が東京ガス向けのバイオマス発電燃料として輸入。環境NGO等が両社に公開質問状送付(RIEF)
2025-10-30 18:17:43
(写真は、皆伐されたインドネシア・ゴロンタロ州の熱帯雨林森林地帯=「バイオ発電info」のサイトから引用)
アジア等の森林伐採に原料を依存する日本のバイオマス発電事業影響を懸念する非営利機関や環境NGO等が連名で、インドネシアで日本向けバイオマス発電用の木質ペレット製造事業に関わらう日本の阪和興業と東京ガスの2社に対して、公開質問書を送付した。日本向けの木質ペレット輸出ではベトナム産が有名だが、同ペレットは認証偽造等の不正問題が表面化、燃料の爆発・火災問題も頻発したことから、新たにインドネシア産の生産/輸入が増大しているという。しかし、日本等からの急速な需要の集中で、現地では生物多様性豊かで絶滅危惧種・固有種の生息地でもある熱帯林が大量に伐採され、伐採後には固有種ではない早生樹の単一植林に転換され、生物多様性の破壊が進行しているとされる。
急速な森林開発が進んでいるのはインドネシア・ゴロンタロ州スラウェシ島周辺。東南アジアとオーストラリアの境界にある『ウォーレシア・ホットスポット』の一部で、地理的な孤立性から生物多様性が特に高い地域として知られる。島の哺乳類の98%、両生類の80%、鳥類の3分の1が固有種という。
同州は、スラウェシ島北東部のミナハサ半島の半ばに位置する。同半島は東西の長さ600㎞に対し南北の幅はわずか20~80kⅿで、この地域全体が生態系の宝庫として「緑の回廊」を形成している。この環境を形成する森林を伐採(皆伐)して木質ペレットを製造しているのが、現地のBJA(PT. Biomasa Jaya Abadi:BJA)社だ。同社には、日本の阪和興業が20%出資し、生産されたペレットを日本や韓国向けに輸出・販売している。

一方、東京ガスは、同社の100%出資子会社・プロミネットパワーの伏木万葉埠頭バイオマス発電所で、BJA等から輸入したインドネシア産ペレットを燃料として利用しているユーザー企業だ。
インドネシアでの日本向け木質ペレットの生産は急増している。「地球・人間環境フォーラム」等の調べでは、2023~24年にかけて、日本の木質ペレット総輸入量で同国が占める割合は1%から5%にまで増加している。米国等の北米産の減少を補う格好だ。
同フォーラムでは、インドネシアでの実態を調べるため、今年8月、NGOの「熱帯林行動ネットワーク」、およびインドネシアの木質ペレット消費国である韓国のNGO「Solutions for Our Climate(SFOC)とともに、インドネシアのNGO「アウリガ・ヌサンタラ」の協力を得て現地視察を実施した。
その結果、同州のペレット生産事業により、生物多様性豊かで絶滅危惧種・固有種の生息地と重複し、住民の生活を支えてきた熱帯林が伐採され、伐採後に早生樹の単一植林に転換されていることがわかった。このため、同地のペレット事業に関わっている阪和興業と、ペレットを輸入している東京ガスに対して、現地での生物多様性・熱帯林減少に対する対応を確認するとともに、熱帯林保全のための公開要請を行った。
BJAのペレット製造事業に参画している阪和興業に対しては、同社の木材調達方針で「持続可能な社会の実現と地球環境の保全に貢献することを目指して」いることを踏まえ、①熱帯林を伐採して再エネの燃料とするのは、仮に合法であっても森林減少を引き起こし温暖化を促進するため、本事業はこの目的に合致しないと考えるが、どう考えるか②ペレット原料調達エリアの絶滅危惧種の保全にどのように取り組んでいるか③本来、絶滅危惧種や固有種の生息地である天然林では、大規模な伐採を避けるべきーー等の5件を質問。
そのうえで、要請事項として、①木質ペレット生産のための熱帯林の伐採を即時に停止する②」BJAの調達先企業である2社のエネルギー植林について、すでに同社が調達した天然林伐採エリア(早生樹の植林エリア)で、同州の貴重な生態系の回復を図る③BJAに限らず、インドネシア、マレーシアなど熱帯地域からのペレット調達では、土地区分に関わらず、天然林の土地からの原料調達を停止する④熱帯地域の早生樹植林地からの調達では、天然林からの転換および原料混入がないことを確認するデューデリジェンス(DD)とトレーサビリティの確保、情報公開を求めるーー等としている。
一方、木質ペレットユーザー企業の東京ガスに対する質問状では、①(東ガスの)バイオマス燃料調達方針では、バイオマス発電を「脱炭素化に資する重要な再生可能エネルギー電源」としているが、ゴロンタロ州の熱帯林・天然林をペレットの原料とする東ガスの伏木万葉埠頭バイオマス発電所は、本当に脱炭素化に資すると考えるか②調達方針では「天然林の違法伐採による原料調達のバイオマス燃料の調達・使用は行わない」とするが、インドネシアではバイオマス燃料向けの天然林伐採等は合法的とされるため、法令順守に限らず「原生林や天然林の伐採に由来する原料調達の回避」としなければ、生態系や生物多様性への配慮や森林資源の保全にはつながらないと考えるが、どうかーーなど5つの質問を示した。
同社への要請では、①熱帯林・天然林由来の燃料の調達を行わない方針を速やかに策定すること②上記方針の実施に当たっては、現地の法制度上の土地区分や合法性の有無にかかわらず、現に天然林が成立している土地からのペレット調達を停止すること③東ガスの「人権方針」では「人権に対する潜在的および実際の負の影響の特定・評価、リスク防止・軽減措置に努める」「関連するステークホルダーとの対話・協議」という方針をとっていることから、同方針に沿って、燃料調達地域のリスク評価、現地住民との対話を行い、問題のある調達を見直す――等を求めている。
現地でのペレット生産企業BJA が木材を調達している2つのコンセッションエリア(伐採権地域)は、国際自然保護連合(IUCN)レッドリストによると、絶滅危惧種で固有種でもあるローランドアノア(野生のウシ)やスラウェシバビルーサ(イノシシの仲間)の生息地と重複しているという。
これらの木材調達エリアは全体では合計10万haを超し、このうち阪和が出資するBJAに納入されるエリアは3万ha以上(東京都の約7分の1)に達する。これらの熱帯林は皆伐された後、エネルギー植林として早生樹(ガマルウッド)の単一植林に転換している。こうした方法で、2022年以降、すでに3,400haが伐採され、過去1年間だけでも1,000ha以上の熱帯林が失われ、東ガスのバイオマス発電の燃料と化して燃やされているわけだ。
また伐採地の森林は河川上流の集水域で、下流の集落の地域住民にとっては水源の森であると同時に、生活の糧となる様々な非木材林産物(Non Timber Forest Products:NTFP)の採取地域でもある。地域の人々、特に農地を所有していない農民には、ハチミツ、ラタン(籐)、サトウヤシの樹液、薬草、野生鳥獣肉など多様な森の恵みが重要な生活の糧となってきた。それらの場所も、森林とともに「消え」、東ガスのバイオマス発電燃料供給地に転じたことになる。
両社への質問状と要請への対応については、11月10日までに回答を求めている。
(藤井良広)
https://bioenergyinfo.jp/news/251027gorontalo_letter/
https://bioenergyinfo.jp/cms/wp-content/uploads/2025/10/hanwa_gorontalo_pellet_letter_251027.pdf
https://bioenergyinfo.jp/cms/wp-content/uploads/2025/10/tokyogas_gorontalo_pellet_letter_251027.pdf

































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