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インド・アダニグループ企業のサステナビリティ・リンク・ボンド、セカンドオピニオン事業者が発行体の石炭火力事業を「見逃し(?)」。「名ばかりサステナビリティ」の懸念。MUFG等も参加(RIEF)

2021-08-05 08:00:04

Adani001キャプチャ

 

   インドの新興財閥アダニ・グループ傘下の企業が発行したサステナビリティ・リンク・ボンド(SLB)の”あいまいさ”が浮上した。同グループの電力会社 (AEML)が7月半ばに発行した3億㌦のSLBをめぐり、セカンドオピニオン業者はAEMLが関わる石炭火力事業については当初のオピニオンで言及せず、債券発行後に修正するという醜態を演じたためだ。同ボンドの引き受け主幹事には三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)とみずほ証券も名を連ねており、日本の投資家もかなり購入したとみられる。

 

 SLBは、調達資金を特定の事業に充当するグリーンボンド等とは異なり、一定のサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPT)を設定し、それを達成すれば優遇金利が得られるというパターンが主だ。調達資金は特定事業に限らず、通常の社債と同様、発行体企業の一般資金として使える。このため、今回の調達資金はAEMLの石炭火力事業にも充当されたことになる。

 

 今回のSLBの発行体はアダニ・エレクトリシティ・ムンバイ(Adani Electricity Mumbai Ltd :AEML)。アダニグループの送電会社であるアダニ・トランスミッションの100%子会社。7月13日に20億㌦のグローバル中期タームノートボンド(GMTN)を発行した。SLBはこの一部として発行された。インドの電力会社がSLBを発行するのは初めてで、応募倍率は9.2倍の人気だった。

 

 引き受け主幹事及び取り扱い証券会社は、Axis Bank、Barclays、Citi、DBS、Deutsche Bank、Emirates NBD Capital、JP Morgan、Standard Charteredの欧米勢のほか、日本のMUFGとみずほ証券も名を連ねた。MUFGは単独でサステナビリティ・ストラクチャリング・アドバイザーを務めた。MUFGが海外企業のSLBでストラクチャリング・アドバイザーを務めたのは初めてと思われる。

 

 AEMLのSLBのKPIは①2027年度までに少なくとも再生可能エネルギー電力の購入比率を60%を達成②2029年度末までに温室効果ガス排出量(Scope 1と同2)を60%削減ーーの2つ。セカンドオピニオンを付与したのはMoody’s GroupのVigio Eiris(V.E)。

 

 V.EがSLB発行時に出したオピニオンは「AEMLはわれわれが問題視する17の活動のうち、石炭等の化石燃料関連産業等の活動のいずれにも関与しているとは思われない(does not appear to be involved in any of the 17 controversial activities screened under our methodology, namely: […] Coal [and the] Fossil Fuels industry)」という内容だった。

 

 しかし、AEMLはインドのムンバイ近くのダハヌで、発電量500MWの石炭火力発電所を操業している。アダニグループ全体も石炭火力事業を展開していることは国際的にもよく知られている。特にグループとして、オーストラリアのクィーンズ州のカーマイケル炭鉱の開発を進め、現在の石炭火力発電量12GWを倍の24GWに拡大を目指しており、グローバルな環境NGOから批判を受けている。

 

アダニグループがオーストラリアで開発を進めるカーマイケル石炭鉱山
アダニグループがオーストラリアで開発を進めるカーマイケル石炭鉱山

 

 グループ全体が石炭火力を柱として化石燃料ビジネスを主導しているにもかかわらず、グループの一部の再エネ電力をシフトさせた子会社のファイナンスを「サステナビリティ連動」と評価するのはどうなのかという指摘が市場関係者からも出ている。しかも今回は、発行体が抱える石炭火力発電事業を、なぜかセカンドオピニオン事業者が「見逃していた」。

 

 V.Eはメディアの指摘を受けて、セカンドピニオンを修正したが、AEMLのサステナビリティ評価自体は一切、修正していない。また、AEMLのSLBに付したKPI達成の条件を満たせなかった場合の「ペナルティ」は年利0.15%でしかなく、しかも2027年までは達成できなくてもペナルティは発動されないという「緩い基準」である点に対しても批判が出ている。

 

 オーストラリアの環境NGOのMarket Forceは「SLBの発行ではグローバルな地球温暖化を回避することはできないことは明瞭。SLBは”チェリーピッキング金融商品”だ(都合のよい根拠だけを並べ立てた自分勝手な商品の意味)」と指摘している。名前は「サステナビリティ」が付くが、実際には気候変動にも地球のサステナビリティにも貢献しない「ウォッシュ」商品の恐れあり、というわけだ。

 

  SLBのフレームワークは、国際資本市場協会(ICMA)が昨年6月に設定した。わが国でも、同基準に準拠した発行がいくつか出ている。また経済産業省は、ICMAがSLBを組み込んだトランジションハンドブックを、同省主導の日本版「トランジションファイナンス」の基本方針に組み込むなどで、炭素集約型の日本産業・企業の移行ファイナンス資金の調達手段に活用する構えだ。

 

 同省が新たに設定した同ファイナンスの金融支援制度の外部評価機関には、V.Eを含め、5社のセカンドオピニオン事業者が指定されている。「名ばかりサステナブルファイナンス」とならないよう、基準の厳格化と、セカンドオピニオン事業者の評価能力をチェックする仕組みが必要と思われる。https://rief-jp.org/ct4/116687?ctid=71

 

https://vigeo-eiris.com/adani-electricity-mumbai-limited-spo/

https://vigeo-eiris.com/wp-content/uploads/2021/07/20210721_SLB_SPO_AEML_Final-Version.pdf

https://www.adanielectricity.com/-/media/1373961AC8F94C2A9502BC50AAA7DB0E.ashx?h=16&thn=1&w=16

https://www.marketforces.org.au/adani-is-doubling-down-on-coal-investors-and-bond-arrangers-must-act/