HOME |ネットゼロを宣言するGFANZ加盟の金融機関、加盟後も化石燃料事業等に多額の投融資。日本勢では化石燃料事業全体の融資で三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が3位に(RIEF) |

ネットゼロを宣言するGFANZ加盟の金融機関、加盟後も化石燃料事業等に多額の投融資。日本勢では化石燃料事業全体の融資で三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が3位に(RIEF)

2023-01-18 00:53:40

GFANZ001キャプチャ

 

  「ネットゼロのためのグラスゴー金融同盟(GFANZ)」に参加している日本勢を含む金融機関が、GFANZ加盟後も、新規の化石燃料関連企業に巨額の資金を投融資していることが、環境シンクタンクの調査で判明した。GFANZ署名銀行が大手化石燃料事業者に供給した資金総額は2700億㌦(約34兆5600億円)に達し、資産運用機関は化石燃料関連事業者の債券・株を総額8470億㌦(約108兆4000億円)保有していた。個別で融資額が一番多かったのは米銀Citigroup。日本勢も三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が3位に入るなど、上位にランクされた。石炭火力事業向けでは、みずほフィナンシャル・グループとMUFGが1位と2位を占めた。

 

 調査は、気候NGOの350.org等のNGOや気候シンクタンクのリクレイム・ファイナンス(Reclaim Finance)が協働でまとめた「火に油を注ぐ:GFANZ署名機関、化石燃料拡大のファイナンスに数百億㌦を供給(Throwing fuel on the fire: GFANZ members provide billions in finance for fossil fuel expansion)」とのレポート。まさにGFANZ署名機関が化石燃料事業へのファイナンスに追加の油を注ぐ形だ、と指摘している。

 

 GFANZは、2021年に英国グラスゴーで開催したCOP26に合わせる形で立ち上がった金融機関の自主的活動で、金融機関が自らネットゼロを宣言する趣旨。前イングランド銀行総裁のマーク・カーニー氏が主導した。傘下に金融業態別の7つのネットゼロ連合を抱える。現在、世界50カ国強の550社を超える金融機関が署名しており、資産規模は約130兆㌦とされる。

 

 GFANZに加盟したすべての金融機関は、加盟時に国連主導の「Race to Zero」イニシアティブに署名している。同イニシアティブでは金融機関等を対象にネットゼロに整合するための基準を定め、2022年6月以降は、新規化石燃料事業への資金提供を終わらせることも新たに基準に盛り込んだ。このため、GFANZ署名機関の間で、「Race to Zero」への参加が必須かどうかで議論が起き、GFANZは、参加は自主的判断としている。

 

 ただ、傘下の業態別セクター等では、国連イニシアチブのパートナーとして、基準の遵守を約束しているところもある。さらに2022年11月にネットゼロに関するハイレベル専門家グループが公表したレポートでは、「信頼性のあるネットゼロ宣言は、化石燃料拡張への資金提供打ち切りを盛り込むべきだ」と指摘している。こうしたGFANZをめぐる議論の一方で、今回の調査では、GFANZ署名機関の「現実の行動」を明らかにしたわけだ。

 

 調査で判明した主な内容としては、傘下の銀行主導の「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」の加盟大手銀行56行が、NZBAに加盟後、化石燃料事業を拡張する大手企業102社に約2700億㌦の資金を供給していた。内訳は、融資134件、引受215件。

 

 資産運用機関が加盟する「ネットゼロ・アセットマネジャーズ・イニシアチブ(NZAM)」の加盟機関最大手58社は、2022年9月時点で、化石燃料開発に関与する主要企業201社の株・債券に少なくとも8470億㌦の投資を行っていた。その一方で、GFANZ加盟以降、新規の化石燃料事業や化石燃料の新規供給に関連する企業向け融資を明確に規制する方針を採用した金融機関は、ごくわずかだった。

 

 全体では、化石燃料開発に関与する世界最大手のエネルギー会社等の合計29社が、レポートが対象としたGFANZ加盟機関161社から融資を受けていた。それらの融資資金は今後、新規の石炭火力発電所や鉱山、港湾などのインフラ設備のほか、新たな油田やガス田、パイプライン、LNGターミナル建設等に充当されるという。ネットゼロを阻害する要因となる。

 

個別銀行の化石燃料関連の融資ランキング
個別銀行の化石燃料関連の融資ランキング

 

 個別金融機関別では、Citigroupが石炭、石油・ガスの両方を合わせて総額305億900万㌦でトップ、Bank of Americaが2位(228億7400万㌦)、次いで日本勢のMUFJが3位 (227億4100万㌦)、みずほが4位(193億1400万㌦)、三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)が7位(115億4200万㌦)と、そろって上位にランクされた。

 

 日本勢の特徴は石炭関連ファイナンスが多い点だ。石炭事業向けのファイナンスだけをみると、みずほが1位、MUFJが2位、SMBCが4位を占めた。日本国内で日本政府が石炭火力発電維持の方針を継続しているほか、アジア市場でも石炭火力事業に取り組んでいるためとみられる。

 

資産運用機関の化石燃料関連企業の保有株・債券総額ランキング
資産運用機関の化石燃料関連企業の保有株・債券総額ランキング

 

 資産運用機関では、米投資会社のブラックロックが石炭開発事業、石油・ガス開発・拡張企業向けの投資を合わせて、総額1908億8700万㌦の保有でトップだった。次いで、同じく米投資会社のバンガードが1840億7100万㌦と僅差で2位につけた。上位9位までが米国勢が占めた。10位に欧州のAmundi Asset Managementが入った。日本勢は16位に野村アセットマネジメントが入ったのが最も高いランク。

 

 リクレイム・ファイナンス設立者兼事務局長のルーシー・ピンソン(Lucie Pinson)氏は気候のために設定した目標を達成し、最悪のシナリオを回避するには、石炭・石油・ガスの新規開発事業を一刻も早く打ち切らなければならない。にもかかわらず、大半の銀行や投資家は現状維持の姿勢を崩していない。カーボンニュートラルの高い目標を掲げたものの、何の制約もないまま化石燃料開発関連の企業を支援し続けている。こうした『グリーンウォッシュ』は、ネットゼロに向けたすべての取り組みの信頼性に疑念を投げかけ、気候のために真剣に取り組んでいる人々の努力を損なうという点で、一層有害だ」と指摘している。

 

 日本の350.org Japanのシニア・キャンペーナー渡辺瑛莉氏は「ネットゼロの目標を掲げながらMUFJや野村アセットマネジメント等は、投融資を通じ、ネットゼロと整合しない新規の石油やガス、石炭開発への支援を続けている。新規化石燃料事業への投融資をやめない限り、日本の金融セクターが気候危機に真剣に取り組んでいるとは見なされない。私たち皆が豊かさを享受していくには、グリーン経済への移行が急務であり、金融セクターはその実現に向け貢献すべきだ」と求めている。

https://reclaimfinance.org/site/wp-content/uploads/2023/01/Throwing-fuel-on-the-fire-GFANZ-financing-of-fossil-fuel-expansion.pdf