HOME7.金融NPO |欧州の環境NGO、2グループ。欧州委員会がサステブルファイナンスのタクソノミーに天然ガスと原発を加えたことをEU法違反とし、同委を欧州司法裁判所へ提訴することを公表(RIEF) |

欧州の環境NGO、2グループ。欧州委員会がサステブルファイナンスのタクソノミーに天然ガスと原発を加えたことをEU法違反とし、同委を欧州司法裁判所へ提訴することを公表(RIEF)

2022-09-20 22:08:54

WWF001キャプチャ

 

 欧州の環境NGOが19日、相次いで、先にサステナブルファイナンスのタクソノミーに天然ガスと原発を盛り込んだ法案を提出した欧州委員会を欧州司法裁判所に訴えると発表した。WWF、ClientEarth等の4NGOが共同で、またグリーンピースの各国8団体が別途、提訴する。いずれも、欧州委が欧州議会と同理事会に提案したタクソノミー補完委任法案(CDA)に化石燃料のガスと、使用済み核燃料の両事業を盛り込んだことは、タクソノミー規則(TR)等のEUの気候関連法に違反するほか、パリ協定の目標にも反するとしている。

 

 欧州委のCDAは、すでに今年7月、欧州議会が賛成多数で採択し、各国で構成する欧州理事会も同意している。ただ、原発導入に反対を続けるオーストリアが欧州司法裁判所に提訴方針を打ち出しているほか、今月上旬には、タクソノミー法案の原案を作成した欧州委の専門家委員会「サステナブルファイナンス・プラットフォーム(PSF)」に参加してきた5つのNGOが、両事業を盛り込んだことに抗議してPSFから集団離脱を宣言している。https://rief-jp.org/ct7/128347?ctid=71

 

 今回、欧州委を訴訟提起すると発表したNGO4団体のうち、「 Transport & Environment (T&E)」、「WWF European Policy Office」の2団体は、PSFの集団離脱グループにも参加している。PSF脱退と同時に、訴訟団に転じる形だ。グリーンピースの訴訟団とともに、両NGOグループは欧州委に対し、PSFの提言を無視して、両事業を盛り込んだことは欧州気候法のほか、パリ協定にも抵触するとした点を示した質問状を提出した。

 

 同質問状では、欧州委に対して、22週後までに回答を求められている。NGOらは回答内容が不十分な場合に訴訟に踏み切るとしているが、欧州委がすでにEUとして決定しているCDAを修正することは考えられず、来年2月前後には正式に訴訟提起の手続きがとられるとみられる。

 

 NGO4団体は「天然ガスは欧州のエネルギー安全保障を脅かし、欧州でのエネルギー価格急上昇の要因である強力な化石燃料だ」と指摘。そうしたガスに「サステナブルのラベルを付与することは、EU法違反であるばかりか、地球の温暖化を抑制するためのパリ協定の合意に基づくEUのコミットメントと、義務に反する」と強調している。

 

 一方、グリーンピースの欧州各国8団体も、欧州委がCDAに天然ガスと原発を盛り込んだCDAを議会に提出したことは、タクソノミー規則(TR)に違反すると指摘。原発については、発電中にCO2を出さないことからクリーンエネルギーに分類する向きもあるが、原発の事故リスク、使用済み核廃棄物の最終処理システムの未完了、建設コストの上昇等を指摘。サステナブルファイナンスのタクソノミーには明らかに不適格としている。

 

 欧州委のCDAでは、ガスも原発も、カーボンニュートラル達成までの移行の事業として位置づけている。ガスについては建設に期限を設け、原発についても建設期限と、第4世代原発開発までの技術期限付きとした。しかし、グリーンピース等は、こうした欧州委の条件付き対応自体が、投資家や消費者を欺く「フェイク・グリーン・ラベル」と反発している。https://rief-jp.org/ct5/122095

 Greenpeace EUのサステナブルファイナンス・キャンペーナーのAriadna Rodrigo氏は「欧州委による『フェイク・グリーン・ラベル』の付与は、EUの環境・気候法と不整合だ。天然ガスは、現在の気候・経済混乱の主要因であり、原発は、使用済み核燃料の処分が未完了のままであるほか、原発事故のリスクは大き過ぎて、到底、無視できない」と強調している。

 

 仮に両NGOの訴訟提起が来年2月前後になる場合、訴訟の実際の審理が行われるのは2023年後半になる見通しとされる。すでにEUはガスと原発をタクソノミーに盛り込むCDAについて、欧州議会、同理事会で合意を得ているため、訴訟になった場合でも、欧州司法裁判所が最終判断を示す前に、タクソノミー規定は実施に移されることになる。

 

 NGOらは、そうした状況になった場合に、仮にNGO側が訴訟に勝利すると、「(両事業に対するサステナブルファイナンスが行われていた場合に)欧州委は、それらの事業を実施した金融市場に対してどのように説明するつもりか」と、欧州委に問いかけている。仮にそうなると、欧州委の評判リスクが劣化するだけでなく、投資家等から訴訟を提起される可能性も出てくる。

 

 一方、国として欧州委のCDAをEU法違反として指摘してきたオーストリアは、10月末までに法的準備を整えて、欧州司法裁判所に同委を提訴する方針だという。同国の関係者は「わが国による訴訟は確実に行われる」と説明しているとされる。同国の欧州委提訴に対しては、ルクセンブルクも支援を表明している。https://rief-jp.org/ct5/126462?ctid=76

 

 当初、「脱原発政策」を掲げて、オーストリアに賛同するとみられていたドイツは、ロシアからの天然ガス供給が大幅減少させられた影響で、国内に残る原発3基のうち2基の来年4月までの延長を決めており、訴訟には加わらない見通しだ。https://rief-jp.org/new/128113?ctid=76

 

 ロシアのウクライナ侵攻で、EUの社会経済にとって、天然ガスのウエイトの大きさが改めて注目された一方で、ガスを利用する経済構造がロシア依存からの脱却を遅らせているとの指摘も強まっている。原発についても、使用済み核燃料の最終処分場をEUも用意できていない実情には変わりはなく、「欧州委の原発盛り込みは、科学的合理性を伴わない、政治判断でしかない」との批判への答えは欧州委も出せていない。

https://www.clientearth.org/latest/latest-updates/news/we-ve-started-legal-action-against-the-classification-of-gas-as-sustainable/

https://euobserver.com/green-economy/156082