日仏の環境NGO。日本政府に対し「7次エネルギー基本計画」での石炭火力全廃目標の設定と、3メガバンク等の銀行界には、企業向け融資にも「石炭火力除外」を求める共同提言(RIEF)
2024-11-07 15:30:19
日仏の環境NGOが、先進7カ国会議(G7)の中で唯一、石炭火力廃止を宣言しない日本政府と、同火力を支援し続ける日本の3メガバンクの姿勢を、正面から批判する国際レポートを公表した。G7では「2035年までに電力部門の完全または太宗を脱炭素化する」との合意を行っている。だが、日本政府はそうした合意を無視し、アンモニア混焼やCCS等で石炭火力の延命を進めているとして、年末にまとめる第7次エネルギー基本計画では「石炭火力の段階的全廃の目標年を盛り込むべき」としている。また日本の銀行はこうした政府の姿勢に沿って、2021年からの3年間だけで石炭火力関連企業に235億㌦(約3兆6000億円)を投入する「ブラウン・ファイナンス」を展開し、そのうち約80%は3メガバンクが占めていることに警鐘を鳴らしている。
共同提言を公表したのは、日本の気候ネットワークと、フランスのNGOリクレイム・ファイナンス(Reclaim Finance)。「明確な撤退を示さない日本 ~石炭火力の段階的廃止への抵抗~」と題するレポートを内外に発信した。
レポートは日本政府の気候対策が、G7先進国の中で、政策目標も、排出削減の実績も、依然、石炭等の化石燃料に依存する構造から、唯一、脱却のメドを付けられない状態のままである点を指摘。国レベルで石炭火力を段階的に廃止するための確固たる目標年を定めて、年内にまとめる予定の第7次エネルギー基本計画に盛り込むよう求めている。「石炭火力の段階的廃止のコミットメントは、「2035年までに電力部門の完全または大宗を脱炭素化する」というG7合意を反映したものとしている。
段階的廃止のスケジュールについては、国際エネルギー機関(IEA)の「2050年ネットゼロ排出 (NZE)シナリオのロードマップ(Net Zero by 2050 roadmap)」に示さ れているように、2030 年までに排出削減対策のとられていない (unabated)石炭火力をすべて廃止する必要がある、としている。この際、 排出削減対策はIPCCが定める「排出量の90%以上を回収する策」と定義し、日本の一部の電力会社が想定する「2030年までに石炭火力への水素・アンモニア混焼20%」等は対象外としている。
石炭火力の段階的廃止に際しては、移行による社会経済的影響から労働者と地域経済を守るよう「公正な移行(Just Transition)の措置を図らなければならない」としている。移行に際しては市場のインセンティブを通じて石炭火力発電を支持する政策を止める制度改正を求め、特に現在実施している、発電設備の容量市場と脱炭素電源オークションの対象から石炭火力を直ちに除外するべきとしている。
このほか、省エネ法の火力発電ベンチマーク制度の撤廃も求めている。さらに、日本政府は、石炭火力への水素・アンモニア混焼を進める政策を膨大な補助金を出して推進しているが、直ちにそうした策を中止すべきとしている。「このような(混焼)技術は排出量の削減にはほとんど役に立たず、石炭からの必要な移行を遅らせるだけ」と指摘している。
日本の銀行セクターは、上記の日本政府の石炭火力維持政策に沿う形で、石炭産業への投融資に力を入れており、過去3年間の投融資総額は、中国と米国の銀行に次ぐ世界第3位の規模になっていると指摘。その太宗を占める三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)の3メガバンクの現行の「石炭に関する方針」は、世界の主要銀行に比べて、かなり緩く、石炭火力を延命させる技術関連の事業に対しても「トランジションファイナンス」に含めて資金供給を続けるなど、世界の金融の潮流から外れた取り組みをしていると批判。
そうした取り組みは、銀行自体のリスクを増大させることから、あらゆる形態の資金供給に適用される「包括的な脱石炭方針」の設定を求めている。現状、3メガバンク等は直接的なプロジェクト・ファイナンスを対象に石炭取り組みを設定しているが、本来は日本企業向けの投融資で多いコーポ レートファイナンス(法人融資や資本市場での証券発行など)には同取り組みは適用されていない。大きな「抜け穴」があるのだ。レポートは「石炭関連事業の拡大を続けようとする企業にはいかなる資金提供も行わないようにすべき」としている。
銀行自身がリスク管理で必要となる投融資ポートフォリオを脱炭素化するための移行計画については、銀行として、明確な撤退計画とスケジュールを策定することを求めている。具体的には、電力等の顧客企業に対しては、「1.5℃目標」に沿って、石炭火力の段階的廃止期限を明記した移行 計画を策定するよう働きかけるとともに、投融資先の取り組みの透明性と説明責任を確保するため、進捗状況と成果の定期的な報告を義務付けるよう求めている。
投融資に際しては、持続可能なエネルギー(再エネ等)の取り組みへの資金提供を優先し、2030年までに資金提供の比率を 6:1 (化石燃料関連に1㌦を提供するごとに、6㌦分を持続可能なエネルギー源に振り向ける)ルールの採用を求めている。石炭および化石燃料資産の廃止処置に対しては「公正な移行」策として、厳格なセーフガード策であることを条件に、「段階的廃止」のための制限から除外すべきとしている。
日本政府に対しては、こうした銀行セクターによる石炭開発業者や新規石炭プロジェクトへ の資金提供の停止を義務化することを求めている。銀行に対し、石炭関連事業への資金提供からの明確な撤退スケジュールの設定の義務化や、顧客企業に石炭の段階的廃止計画を要求することを義務付けること等を含むとしている。