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USスチールを買収した日本製鉄に対して、USスチールの全米各地の高炉製鉄所周辺の住民団体や環境NGOらが、高炉操業継続による健康被害増大を警告。住民らとの対話求める(RIEF)

2025-06-27 16:38:42

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  日本製鉄は米国のUSスチールの買収に際して、同社の石炭(コークス)使用の高炉の操業を10年間延長すると決めたことで、製鉄所周辺住民の健康被害が継続するとの批判の声が米国内であがっている。米環境団体等の推計では、日鉄の支援により、住民の早期死亡による健康コストは累計で16億㌦から30億㌦、最大で2000件の早期死亡、55万件の喘息症状、およびほぼ12万日の学校欠席日数が増加するとしている。また高炉からのCO2排出による気候変動への影響は、石炭火力発電所26基分以上の排出量に相当するともしている。日鉄は国内での排出削減対策に加えて、米国での対策の強化も求められることになる。

 

 日鉄のUSスチール買収に伴う米国内での高炉操業継続による周辺住民への健康被害が継続する点を問題視するのは、国際的NGOのスチールウォッチ、ブリーズプロジェクト、環境NGOのシェラクラブなど。日鉄はトランプ政権との交渉の結果、USスチールに2028年までに約110億㌦(約1兆6000億円)を新たに投資することを決めた。この支援により、現行の高炉による鉄鋼製造を10年間延長するとしている。

 

 スチールウォッチのアジア担当責任者、ロジャー・スミス(Roger Smith)氏は「日鉄は、すでに寿命を迎えたUSスチールの6基の高炉を改修する合意により、『毒薬』を飲み込んだ。石炭依存型高炉の排出量を一部削減する計画も示しているが、気候リスクに対応するには不十分で、時期も遅すぎる。日鉄の計画は短視眼的取り組みの極みだ。経営陣は、将来の政府や投資家が脱炭素化への圧力を強めることを想定していないようだ」と懸念を示している。

 

 USスチールが直接所有する石炭利用の高炉とコークスの製造工場からの大気汚染は、現行でも年間最大200人の早期死亡、5万5400件の喘息症状、および約1万2000日の労働・学校欠席の原因になっているとしている。最近の研究では、ペンシルベニア州南西部のUSスチール・クレイトンコーク製鉄所周の辺地域では、大気汚染が深刻な日には、喘息患者の生徒による学校での欠席率が80%に達することが指摘されている。

 

 またブリーズ・プロジェクト(Breathe Project)のエグゼクティブ・ディレクター、マシュー・メハリック(Matthew Mehalik)氏は「(日鉄とUSスチールが)公衆衛生と地域再生を不可侵の優先事項として扱うまで、真の進展は実現しない。(USスチールがこれまでにした)約束の破棄が続き、短期的な投資に過度の重点が置かれてきた年月は長過ぎる。これらは地域社会の健康被害と労働力の不安を継続させている。(USスチールは)インディアナ州モントレー・バレーの化石燃料依存型製鉄から、未来に適した化石燃料フリーの先端技術への転換を可能にする根本的な戦略的優先事項に焦点を当てる必要がある」と要請している。

 

 USスチールのインディアナ州にある最大の製鉄所のゲイリー製鉄所周辺の住民らで組織する「ゲイリー責任ある開発を推進する団体(GARD)」の会長、ドリーン・ケアリー(Dorreen Carey)氏は「「GARDとゲイリーに住む人々は、清潔な環境、良い雇用、そして私たちの都市の持続可能な未来を望んでいる。USスチールのゲイリー工場は米国で最大の汚染源の一つ。日鉄がゲイリーの人々にとって良い隣人になりたいのであれば、まず2つのことを始めるべきだ」

 

 「第一に、鉄鋼業界を対象とした新たな厳格な環境保護庁(EPA)の大気汚染規制の免除を請求せず、これらの規制を直ちに実施することだ。第二に、ゲイリー製鉄所の老朽化した高炉を、健康と気候に有害な排出物を削減し、国内およびグローバルな鉄鋼業界で競争力を持つ新たなクリーンな直接還元製鉄(DRI)技術に置き換える約束をすることだ」

 

 USスチールは、製鉄所周辺への健康被害で、これまでも立地自治体から罰金等を科されている。インディアナ州モンバレーの製鉄所の3施設による慢性的な大気汚染の継続では、同社は2020年1月以降、大気汚染の執行措置、罰金、和解金として合計約6400万㌦を支払っている。月平均では月90万㌦を超える金額だ。2025年1月以降、これらの項目で740万㌦を超える罰金を課されている。

 

 また同州のUSスチールの重要な生産拠点であるノースウェスト地区では、同社による1世紀以上にわたる有毒な産業排出物の排出によって、同地区を国内および世界的な汚染の震源地に変えてきた。ここでの製鉄所汚染による健康と環境への悪影響を特定する新たなデータは、もはや無視できないレベルに達している。

 

 同地区でのUSスチールの製鉄所からの多様な汚染物質の影響を監視している市民団体の「ジャスト・トランジション・ノースウェスト・インディアナ」の政策・報道ディレクター、スーザン・トーマス(Susan Thomas)氏は「雇用と健康なコミュニティのどちらかを選ばなければならないという神話は崩れた。日鉄がゲイリー工場でクリーン鋼への投資を行うことは、地域における家族を支える労働組合の雇用と、公衆衛生、経済、環境の著しい改善を保証する莫大な利益をもたらす。われわれは日鉄によるサステナブルでグリーンな鉄鋼生産への転換というこの重要な機会を捉え、コミュニティが望み、そして当然に得るべき繁栄した未来へゲイリーの製鉄所の転換を導くよう求める」としている。


 シエラクラブ・ペンシルベニア州支部の西部ペンシルベニア地域組織者、キヤム・アンサリ(Qiyam Ansari)氏は「トランプ大統領は、日鉄からUSスチールの黄金株を取得することで日鉄がUSスチールの『良い管理者』となることを約束している。しかし、なぜ連邦政府が地域コミュニティや労働者にとって良いか悪いかを決めるのだろうか?われわれの懸念や課題について学ぶ計画はあるのか?実はそのような計画はないのだ」と指摘している。

 

 日鉄は米大統領とUSスチール買収での「ディール」を成功させたが、アンサリ氏は「日鉄もUSスチールも、同社の移行について地域社会や労働者と意味のある対話を交わしていない。これは、これらの企業が引き続き一方的に行動する可能性を示している。同時に、連邦政府と大統領は、この問題について無知なまま放置している」と批判している。

                           (藤井良広)

 

https://www.sierraclub.org/press-releases/2025/06/health-environmental-groups-demand-accountability-following-nippon-steel-us