英政府のOECD多国籍企業行動指針の窓口。スタンダードチャータード銀行のフィリピンでの石炭火力融資に関する住民団体らの苦情受理。既存の石炭火力による被害救済の必要性認定へ(RIEF)
2025-09-30 01:20:34
(写真は、STBが融資した4つの石炭火力発電所の一つ、マリベレス石炭火力発電所=BankTrackのサイトから引用)
OECDの多国籍企業行動指針の英国政府の窓口(UK NCP)は、内外の市民団体やNGOが英銀スタンダードチャータード銀行(STB)による、フィリピンでの4つ石炭火力発電事業への共同融資への苦情申し立てを受理した。これらの発電所は、CO2排出増大のほか、その他の大気汚染物質、水質汚濁などを長年にわたって排出し続けており、地域住民は生活環境の悪化、健康被害、生計手段の喪失、強制的な土地収用・立ち退き等を強いられてきたとしている。土地権利擁護の活動家が殺害される事件も起きている。UK NCPが市民団体の申し立てを受理したことは、同申し立てにより、さらなる調査の必要性があると認めたことになり、今後、両当事者に対して任意の調停を提案するとみられる。
UK NCPの調停を、当事者のどちらかが拒否した場合、同機関は独自に追加審査を行い、STBがOECDガイドラインに沿った責任ある行動を取ったかどうかを判断する。STBの行動に問題がある場合は是正措置を勧告する。
STBはアジア市場での銀行ビジネスを幅広く展開している。これまでも、アジア各国での石炭火力発電事業への投融資を実施してきた。最近になって、トランプ米政権による反気候政策の「圧力」を受け、国連主導のネットゼロ銀行同盟(NZBA)から多くの主要銀行が脱退した際、 STBのCEOのビル・ウィンターズ(Bill Winters)氏は政治的圧力に屈して気候変動問題に取り組むことを放棄しようとしているライバルの競合銀行に向け、「恥を知れ」と最大級に厳しい表現で非難したことで知られる。https://rief-jp.org/ct6/159513?ctid=

申し立てを行っていたのは、フィリピン気候正義運動(PMCJ)、インクルーシブ・ディベロップメント・インターナショナル(IDI)、リコース、バンクトラックの4団体。フィリピン国内で建設された4つの石炭火力発電所によって、住民や地域社会が被った被害に対する救済を求める内容だ。
4つの石炭火力のうち3つはフィリピン企業サンミゲル社(SMC)が建設したものだ。同社はフィリピンおよび東南アジア最大級の石炭・LNGインフラ開発企業として知られる。4石炭火力は次の通り。▼ザンバレス州マシノック市バニ地区でのマシノック600MW石炭火力発電所拡張計画▼バターン州リマイ市ラマオ地区でのSMCリマイ300MW石炭火力発電所▼西ダバオ州マリタでのSMCマリタ(ダバオ・グリーンフィールド)300MW石炭火力発電所▼SMCとは別の大手電力会社のアボイティス・パワーが買収したマリベレス石炭火力発電所。
今回申し立てた各団体は、2017年に、国際金融公社(IFC)の独立した説明責任メカニズムであるコンプライアンス・アドバイザー・オンブズマン(CAO)にも苦情を申し立てている。CAOの調査によると、フィリピン地元のリサール商業銀行(RCBC)とSTBが、これらの火力発電所建設に共同融資をしたが、その石炭火力の影響によって、地域住民らは、石炭灰による大気汚染・水質汚染による健康被害、石炭灰汚染による生計への影響、立ち退き・移住に伴う影響、地域活動家への脅迫・威嚇、不十分なステークホルダー関与等を受けたことを認めている。
さらにCAOはコンプライアンス調査を実施し、「IFCはRCBCへの投資において、自らの『環境・社会』要件を適切に適用しなかった」ことで、これが「RCBCが『IFCの環境・社会パフォーマンス基準』に沿った運営を要求せずに石炭火力への融資を行った一因となった」と結論づけた。CAO調査は「入手可能な証拠に基づき、RCBCが融資した発電所は、申立書で指摘された通り、地域社会と環境に重大な悪影響を及ぼす可能性が高い」と指摘している。
これを受けてIFCは、自らの石炭火力発電所の環境・社会コンプライアンス上の不備を評価・是正するための「管理行動計画」を実施中だ。IFCは同計画の立案に際して、石炭火力発電事業者、RCBC、および被害の発生に寄与した責任を共有する他の貸し手(STBを含む)の協力を求めたが、STBは要請には応じなかったとされる。CAOが2021年に調査報告書を公表して以来、これらの石炭火力からの被害は続いており、多くの場合、影響は悪化している、と指摘されている。
今回の申し立てに際して、各団体は、STBがこうした対応をとってきたことから、同社はOECD多国籍企業ガイドラインに違反していると主張している。その理由として、①効果的なリスクベースのデューデリジェンスを通じてこれらの地域住民への暴力、悪影響を特定・防止・軽減しなかった②不十分なデューデリジェンスの結果生じた被害の是正に協力しなかった等をあげている。
今回の申し立てによると、STBがRCBCと共同融資した4つの発電所から発生した人権および環境への影響は、石炭火力発電が地域の環境品質と人間の健康に及ぼす既知のリスクと一致している。またCAOの調査では、調査対象となった発電所全体で年間4000万Mt(㌧)のCO2が排出され、2019年のフィリピン全体の排出量の3分の1に相当するとしている。
CO2排出量が多いのは、いずれもこれらの発電所が基準以下の排出量の多い旧来技術を使用していることによる。OECDによれば、「環境への悪影響は、健康・安全、労働者・地域社会への影響、生計手段へのアクセスや土地所有権など、ガイドラインが扱う他の事項と密接に関連していることが多い」としている。実際にこうした悪影響としては、2005年にマシンロック発電所で、グリーンピースの抗議者が発電所の武装警備員にバールで顔を殴られたほか、活動家たちが石で襲撃され、警備員が威嚇射撃を行うなどの「事件」が起きているという。
さらに南のバターン州のリマイ発電所は数十年にわたり石炭火力開発の主要拠点であり、石炭反対運動家に対する深刻な人権侵害が起きているとされる。その典型的な事件が、2016年に起きた著名な反石炭・持続可能エネルギー活動家グロリア・カピタン(Gloria Kapitan)氏の殺害事件だ。同氏はリマイ発電所への反対活動が原因で殺害された。STBがカピタン氏が反対した施設への融資に関与していた事実は、地元で広く報じられた。
こうした経緯から浮かぶ教訓は、銀行は将来の化石燃料関連融資を見直すとともに、過去の自らの投融資についても同様に見直したうえで、投融資者としての責任を明確にする必要があるということだ。将来についてだけ「クリーンな融資」を展開するのではなく、既存の融資を点検し、借り手に対して環境影響の是正を実行させることこそが、貸し手の責任といえる。過去の投融資への責任を封印して、新規事業へのファイナンスの「クリーンさ」を強調するだけだと、実際の影響を被ってきている住民らからは「恥を知れ」の言葉が同行に対して発せられそうだ。
PMCJの法務顧問アーロン・ペドロサ(Aaron Pedrosa) 氏は「今日に至るまで、地域住民は悪化する大気・水質汚染、健康状態の悪化、生計手段の喪失に苦しみ、報復の脅威に直面している。UK CNPの苦情申し立て受理は、直接的・間接的・累積的な被害の是正に向けた一筋の希望の光だ。共同融資機関は、破壊的で有害なプロジェクトへの資金提供という悪影響を及ぼす投資結果について、最終的に責任を問われなければならない。ここにSTBが是正措置を実現する真の機会がある。問題とその責任を認めることから始めなければならない」と指摘している。
(藤井良広)

































Research Institute for Environmental Finance