日本のバイオマス発電でインドネシアの生物多様性が危機に。貴重な動植物種が生息する「生態系のホットスポットの島」の森林を皆伐し、木質ペレットとして日本向けに輸出(RIEF)
2026-01-18 22:59:19
(写真は、木質ペレット製造のため大手企業が皆伐したインドネシア・スラウェシ島の森林地帯の跡=「地球・人間環境フォーラム」の提供)
ブラジルのアマゾン地帯と並ぶ生物多様性の宝庫として知られるインドネシアの生態系の中でも、哺乳類、鳥類、爬虫類等の貴重な種が生息するスラウェシ島の熱帯雨林が、日本のバイオマス発電用に過剰伐採され、生態系の危機に直面しているとして、同国の専門家が日本政府や業界関係者に対し、警告を発した。インドネシアから呼びかけたのは、インドネシア大学保全生物学教授で環境問題に詳しいジャトナ・スプリアトナ氏。1月13日、リモートで日本向けに講演し、記者会見も実施した。同氏によると、同島の多様な動植物種のうちでも、特に貴重なメガネザルは木に依存して生きているが、開発による森林の皆伐によって絶滅の危機に直面している、と指摘している。
スプリアトナ氏の講演と記者会見は、日本の環境団体「地球・人間環境フォーラム」(東京)がアレンジした。同団体によると、数年前まではインドネシアから日本への木質ペレットの輸出はほとんどなかった。しかし、2023年から増え始め、2025年(1月~10月)は35万㌧と、日本の木質ペレットの輸入量全体の5%占めるようになっているという。このうち7割が、貴重な動植物が数多く生息するスラウェシ島北部のゴロンタロ州で開発・生産されており、すでに多くの森林が皆伐されたとされる。同州の熱帯雨林地帯は69万㌶で、このうち10カ所で伐採が進み、全体の約4割強の合計28万㌶の伐採計画が進められているという。

伐採された木質資源は、木質ペレットに加工され、日本のバイオマス発電用に輸出されている。2023年から開発が増加し始めたのは、それまで日本向けの輸出の中心となってきたベトナム産のペレットの製造事業者による認証偽装が発覚したことと符号する。同国の主要ペレット製造事業者が、日本の経済産業省が運営する再エネ固定価格買取制度(FIT)の品質管理体制が「穴だらけ」であることを見抜き、品質の悪い木質ペレットに、国際的な森林製品の品質保証制度のFSC(森林管理協議会)ラベルを偽造して貼り付け、FITの買い取り価格を実体より高い分類として輸出していたことが発覚。その結果、日本のバイオマス発電事業者は一時的に「ベトナム離れ」を起こし、他の産地として森林資源が豊富なインドネシアでの開発が増えたとみられている。https://rief-jp.org/ct5/148685?ctid=
インドネシアでの森林資源開発の拠点となったスラウェシ島は、手のひらサイズの貴重なメガネザルが10種以上も確認されている。また絶滅危惧種も多く存在し、研究者の間では「生物多様性のホットスポット」とも呼ばれる。生物の進化の謎を解き明かす貴重な土地だという。それが、スプリアトナ氏によると、日本向けの木質ペレット増産のため、森林の伐採が進み、大規模な計画も相次ぎ、動植物への深刻な影響が懸念されているという。同氏は日本の業界に対し、現地の科学者らと話し合いの場を持つべきだと訴えた。特に、他国の森林資源に依存する日本のバイオマス発電のあり方について疑問を投げかけ、産業界に改善を求めている。
同氏は「スラウェシ島での森林伐採は大きな影響を同島の生態系に与えている。メガネザルは木に依存しており、樹木がなくなったら、こうした生物は生きていけなくなる」と懸念を示した。メガネザルは夜行性で小さく、普段、人間の目に触れることは少ないという。このため生息域が伐採工事で破壊されても、誰も気付かないことも多く、「樹木がなくなると、太陽光を遮るものがなくなり、えさもなくなる。森林の皆伐は彼らに大変な影響を及ぼす」と指摘した。

同氏は、森林資源のうち、開発に必要な木だけを切る「択伐」という手法にも触れながら、今後、生態系維持と森林資源の持続的な活用のバランスを確保するため、詳細な調査が不可欠だと訴えた。「正しいやり方で生産しないと生物多様性を損ない、結局、森林資源を劣化させるばかりとなる。持続可能な産業を育成するためにも、生態系保全に知見のある大学や研究者と協力してアドバイスを求めるべきだ」と語った。
インドネシアでは、無秩序な伐採で災害が拡大している可能性も指摘されている。2025年11月には、スマトラ島を襲った豪雨による洪水で死者が1000人を超えた。スマトラ島ではこの数十年、鉱山開発やパーム油用のヤシ農園の開発などで森林の伐採が繰り返されており、スプリアトナ氏は「土壌がぜい弱になって水を保つ機能が失われ、災害が起きる可能性が高まっていた」と指摘する。スラウェシ島もこのままでは同様の災害が発生するとの危惧を示した。https://rief-jp.org/ct7/163227?ctid=
日本向けのバイオマス発電燃料となる木質ペレット製造のために、森林の生態系破壊が大きな課題となっているのは、インドネシアだけではない。同様の問題が米国でも起きており、社会問題化している。米国ではミシシッピ州などの米国南東部の豊かな森林資源を皆伐して輸出用の木質ペレットを製造する生産工場が各地に立地しており、森林が大規模に伐採されているという。製造されたペレットの多くは、日本や欧州向けに輸出されている。
2025年秋には、米国のNGO代表者らも来日し、セミナーや記者会見で「(日本向けの)バイオマス燃料製造事業で、米国の生物多様性が失われているほか、ペレット工場による大気汚染や粉塵公害によって、地域住民の健康被害が発生する等、コミュニティを悩ましている」と訴えた。住民らは日本の国会議員や関係省庁を訪問して、日本政府やエネルギー業界等に対策を求めたが、今に至るも、明確な対応は示されていない。
これらの問題の背景にあるのが、日本政府が推進する燃料資源の海外依存を前提とする旧来型のエネルギー政策だ。経産省や林野庁が推進する木質バイオマスを利用したバイオマス発電は、発電時に二酸化炭素(CO2)が出るが、燃料の樹木が成長する過程で大気中からCO2を吸収していることを考慮し、「差し引き排出ゼロ」になると主張してきた。森林を皆伐しても、その後に植林することで自然資源の回復にもつながるとも強調。主に国内では間伐材の活用などを想定しているとも主張してきた。
だが、実際には、木質ペレットの輸入量が増え続けている。2012年は7.2万㌧だったが、2024年には638万㌧になり、12年間で88倍の計算だ。輸出国はベトナムやカナダ等に加えて、22年から米国が急増。23年からインドネシアも加わった形だ。国内でバイオマス発電所が増設されることから、海外産の木質ペレットへの輸入需要増加の勢いは止まらない。2025年6月時点で、国内のバイオマス発電所の7割が輸入燃料に頼っているという。経産省によると、2024年3月時点で、FITの認定を受けた国内の木質バイオマス発電施設は523か所で、このうち244か所が稼働している。
地球・人間環境フォーラムの鈴嶋克太氏は「日本の木質ペレットへの需要が、スラウェシ島の熱帯林の伐採と森林減少の原因になっている。このまま日本のバイオマス需要が増えれば、他の島でも開発が進む恐れがある。見方を変えれば、日本の政策、企業の行動や方針が変われば、これ以上の破壊を回避することが可能といえる」と述べ、日本政府やエネルギー産業界が旧来のエネルギー輸入依存体制から、自給型エネルギー構造へ転換することの意義を強調している。
同フォーラムは、2025年に、インドネシアから木質ペレットを輸入している阪和興業と、実際に燃料として使っている東京ガスに公開質問状を出し、改善策を求めた。これに対し、阪和興業は「(開発区域以外は)保護地域として指定し、固有種および絶滅危惧種を保全している」などと環境保全や生物多様性の維持に取り組んでいることを強調。https://rief-jp.org/ct7/161957?ctid=
東京ガスは「バイオマス発電は脱炭素化に資する重要な再エネ電源の一つ」との認識を示したうえで、「環境・地域社会への影響等をはじめとした懸念の声があることも認識している」と説明。「(われわれは)合法的・持続可能性を重視しており、インドネシア産についても(環境保全を求めた)FIT制度における事業計画策定ガイドラインを遵守した燃料であることを確認し、調達を行っていると回答したとしている。
(加藤裕則)
https://www.gef.or.jp/news/event/260113sulawesi_biodiversity/

































Research Institute for Environmental Finance