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神戸市内のど真ん中で、石炭火力発電所を新設する神戸製鋼所の環境アセス訴訟、住民敗訴の判決。「住民に温暖化被害の適格性なし」と驚きの判断。大阪地裁(各紙)

2021-03-16 02:29:41

CO2キャプチャ

 

   大阪地方裁判所は15日、神戸製鋼所が神戸市内で建設中の石炭火力発電所の環境影響評価書(アセスメント)の確定通知の取り消しを、地元住民らが求めた訴訟で、森鍵一裁判長は通知を出した国の判断は「裁量権の範囲を逸脱したとはいえず、違法とはいえない」とし訴えを退けた。判決はさらに「地球温暖化の被害は発電所の近隣住民に限られるわけでなく、住民らは原告として適格でない」とした。本来は、地球に住むすべての住民に原告適格を認めるべきなのに、司法の「脱炭素」意識の欠如が際立った判決といえる。

 

 争点になったのは、神戸製鋼所が関西電力への売電目的で神戸市灘区に増設し、2021年度から順次稼働を予定する石炭火力発電所2基(出力130万㌔㍗)だ。神戸製鋼の同計画をめぐっては、神戸地裁でも周辺住民らが神戸製鋼所や関西電力など3社に建設や稼働の差し止めを求める訴訟が提起されている。

 

 原告側は、神戸製鋼所が2018年5月に出した環境影響評価書を問題視してきた。CO2や微小粒子状物質(PM2・5)の排出による環境への影響評価が不十分な内容だ。だが、評価書を受け取った経済産業省は、評価書の内容が環境の保全へ適正な配慮を行っていると指摘し、評価書の変更は必要がなく「適正」と判断する旨の確定通知を出した。このため、この国の確定通知の違法性を求めて、訴えていた。

 

 原告らは、大量のCO2を出す火力発電所の新設はパリ協定の2℃(1.5℃)目標の達成を目指す日本のCO2削減目標とも整合しないとも主張した。

 

 しかし、判決で裁判長は、PM2.5については評価手法が確立しておらず、一方で浮遊状粒子物質(SPM)の評価が行われているため、本件審査が違法とまでは言えないとした。パリ協定の目標の達成と、石炭火力発電新設が相容れないとの指摘には、石炭火力新設は、2013年の経産省と環境省による「局長級会議とりまとめ」に基づく行政の裁量の範囲内だとして妥当と評価した。

 

 この判決に対して原告らは強く反発している。まず、PM2.5はSPMより粒子が小さく肺の奥深く入り込む大気汚染物質なので、SPMの評価では代替できないと指摘する。先進国の多くが環境アセスでPM2.5を調査等の対象としている点には、判決は触れていない。原告らは「人口密集地での石炭火力発電所建設について、PM2.5をアセスの対象としなくても違法といえないのであれば、環境影響評価法そのものを抜本的に見直さなければならなくなる」と批判している。

 

 裁判長が住民の原告適格を「否定」した点は、驚きしかない。フランスでは今年2月に、環境団体や市民が仏政府に対して、気候変動対策を十分にしていないことを訴え、損害賠償を求める行政訴訟で原告勝訴の判決が出た。このほか、すでにオランダ、アイルランド等で、政府の温暖化対策の不備を認める住民勝利の判決が出ている。気候変動問題で、住民に原告適格があることはグローバルに認められているのが流れだ。

 

 判決が評価した「局長級会議とりまとめ」は、高効率の石炭火力であれば、国のCO2削減目標と整合するとみなして石炭火力発電建設を推進してきた担当局長同士の取り決めであり、法令でも、省令でも、閣議決定事項でもない。国際的には、国連のグテレス事務総長が日本を含む世界中の国に向けて、2030年までに石炭火力発電所を廃止することを重ねて要請している。

 

 国連事務総長の要請は主に日本を念頭に置いたものと判断されている。日本の政治が、行政が、司法が、判断することを要請されているのだ。にもかかわらず、判決は、法的根拠の乏しい「とりまとめ」を盾に、「削減目標の達成の仕方や事業者にどのような環境配慮をさせるかは行政の高度な政策的判断」とした。現実の行政判断は、従来からの石炭火力依存の「政官財のもたれあい構造」という、極めて低レベルのものでしかない。

 

 原告の弁護団は判決後、「脱炭素の世界的潮流と日本のギャップに司法が苦言を呈してほしかった。このままでは日本は国際的信用と競争力を失うのではないか」と懸念を示した。控訴を検討するとしている。

 

https://kobeclimatecase.jp/blog/2021/03/15/judgment_statement20210315/