HOME8.温暖化・気候変動 |南極に「終末をもたらす氷河」出現か(?)。南極西部のスウェイツ氷河の厚さ300mの氷床に亀裂発見。5年以内に崩壊のリスク。最悪の場合、約65cmの海面上昇の可能性も(RIEF) |

南極に「終末をもたらす氷河」出現か(?)。南極西部のスウェイツ氷河の厚さ300mの氷床に亀裂発見。5年以内に崩壊のリスク。最悪の場合、約65cmの海面上昇の可能性も(RIEF)

2021-12-21 01:46:09

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  温暖化の進行によって北極海の海氷が年々、減少している問題と同時に、南極の氷河・氷床の溶融も進んでいる。今年5月に東京都の2倍規模の氷塊が流出し、話題となったが、今回、それより大規模な氷河の溶融リスクが表面化した。新たに南極半島を挟んで反対側にあるスウェイツ氷河で厚さ300mの氷床の上下に亀裂が発見され、5年以内に氷床の崩壊に至る可能性が指摘されている。氷床崩壊が進行して同氷河全体の溶融に至ると、地球全体の海面が平均して65cm上昇する最悪の可能性もあるという。

 

 新たな氷床崩壊のリスクは、先週、米国・ニューオーリンズで開いた米地球物理学連合(AGU)の会合で報告された。5月に巨大な氷塊が流出したロンネ棚氷( Ronne Ice Shelf)とは別に、注目を集めたのが、南極半島を挟んで反対側の南西の付け根の部分にあるアムンゼン海に流出する形のスウェイツ氷河だ。https://rief-jp.org/ct8/114427

 

赤いところが氷床
赤いところがスウェイツ氷床

 

 スウェイツ氷河自体は米フロリダ州とほぼ同規模の広さで、日本の面積の半分ほどの大きさを占める。今も、同氷河から海洋に流れ込む氷床によって、地球の海面上昇に年間平均4%の割合で貢献している。今回、同氷河のうち、3分の1を占めるスウェイツ東部氷床(Thwaites Eastern Ice Shelf:TEIS)の厚さ約300mの氷床の上部と海底下の両方に、亀裂や割れ目が発見され、同氷床が氷河から切り離される可能性が出ていることがわかった。

 

 TEISのうちどれくらいの部分が、どれくらいのスピードで氷河から切り離されるかは、計算によって差があるが、氷床の「決壊」が生じると、5月にロンネ棚氷から切り離された「 A-76」の氷塊の、少なくとも100倍の規模の氷塊が海洋に一気に流出する可能性があるという。そうなると海面上昇への貢献度は年25%に上昇するとみられている。

 

 衛星による観測データでも、同氷床の溶融状況は、1990年代に比べて、かなり早くなっているという。同氷床が海面に接している部分は長さ約46kmに及ぶ。すでに、氷床の表面や下部には新たな亀裂等が見つかっている。氷床の崩壊は、5年以内の可能性があるとする一方で、1年~10年の間のいつか、との見方もある。

 

スウェンツ氷床の変化
衛星観測によるスウェンツ氷床の2015年と21年の変化の推移

 

 観察活動に参加している米オレゴン州立大学の氷河学者、Erin Pettit氏は衛星観測からの知見として「氷床は、ゆっくりと亀裂が広がりつつある自動車のフロントガラスのように見える。緩やかに広がる亀裂(crack)がある日、『バンッ!』と弾けて、無数の破片になるように」と形容している。

 

 海洋中に浮かぶ北極の海氷とは異なり、南極の氷河から流出する氷床は、溶融するとその分、海洋に追加的に水量が注ぎこまれることになる。氷床の崩壊によって溶融ペースが現状より3倍早くなると、短期的には世界の海面上昇を5%引き上げる可能性がある。さらに懸念されるのは、そうした崩壊が続くと、暖かい海洋水が氷床の下部に流入し、最悪のシナリオでは、氷河全体が崩壊して海洋に一気に流出する可能性がある点だ。

 

 そうしたスウェイツ氷河全体の崩壊を引き起こすと、世界の海面上昇は平均65cmにもなる計算だ。仮にそうなると、これまでの南極からの巨大な氷塊の流出等による影響とは比べものにならないインパクトを世界中に及ぼす。研究者たちは「doomsday氷河(世界の終わりを告げる氷河)」と名付けている。

 

 先月のCOP26の会合では、「2050年ネットゼロ」の宣言には合意した。だが、それを実現するための石炭火力の廃止等については先送りされた。実際に、今年もグローバルな石炭需要が史上最高になるなど、実効性のある温暖化対策に手が付いていない状況が続いている。温暖化のスピードを止めない限り、南極やグリーンランドの氷河・氷床の溶融は進み、海面上昇を加速していくのは間違いない。https://rief-jp.org/ct10/120973

 

 https://www.science.org/content/article/ice-shelf-holding-back-keystone-antarctic-glacier-within-years-failure

https://agu.confex.com/agu/fm21/meetingapp.cgi/Paper/978762