カリブ海のバハマ、海藻藻場やマングローブ林等の海洋吸収源を、法的認証する「ブルー・カーボンクレジット」整備。クレジット売却資金等は、ハリケーン対策等の適応事業に充当(RIEF)
2022-05-10 12:22:26
中米カリブ海に浮かぶバハマが、豊かな海洋資源を活かした「海洋吸収源」事業を法的に整備する制度化に着手した。海藻藻場や沿岸部のマングローブ林等のCO2吸収力を生かした「ブルー・カーボンクレジット」を法的ルール下で創出し、ネットゼロ目標に向けて急拡大するカーボンクレジット市場で、主要企業やクレジット獲得を求める国等への販売を目指す。「ブルーカーボン」の売却資金等は、毎年、同国に被害を引き起こすハリケーン対策等の気候レジリエント事業に投じる考えという。
同国の首相のフィリップ・デービス氏がこのほど、「ブルーカーボン事業」を実施するための 「 Climate Change and Carbon Market Initiatives Bill, 2022」を議会に提出した。海藻藻場やマングローブ等を活用した自主的カーボンクレジット事業は各地で進められているが、その手続きを法的ルールとして定めた国は現在はない。
同国はクレジット創出が「グリーンウォッシュ」に転じないよう、科学的に吸収力を評価する手順とともに、実際の吸収力を検証するシステムも整備する。このため同国の「カーボンクレジット」は、クレジット創出手法は自主的カーボンクレジットと同様のベンチマーク・クレジット方式だが、法的ルールを根拠とすることで、キャップ&クレジット方式の排出権取引制度と同等の排出削減の信頼性を確保できることにもなる。
法案によると、創出されるブルーカーボンクレジットは、同国の首相官邸に設立する特別環境アドバイザーの責任下で開発される。法制度は、今年11月にエジプトで開催予定の国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)での立ち上げを目指すとしている。すでに同国には国際的な市場関係者からのクレジット購入の打診があり、今後12カ月から18か月後の市場化を見込んでいるという。
同国では、藻場やマングローブ植林等によるCO2の吸収力を科学的に評価するため、年初から、バハマ周辺海域でのエコシステムにおいて、大気中、及び海洋中でCO2の吸収力データを実証評価するための科学的調査を行っている。これまでの学術調査等では、海洋での吸収源は同じ面積での熱帯林による大気中のCO2吸収力よりも、3~5倍の吸収力がある等と指摘されている。
マングローブや藻場等の海洋吸収源は、現状でもグローバルベースで、年間300億㌧相当のカーボンを吸収しているとの試算もある。この吸収量は2021年に化石燃料の燃焼で排出された全CO2排出量に相当する規模だ。
同国は、自国の海域での豊富な藻場の整備を進めるほか、沿岸部でのマングローブ植林事業を増やすことで、海洋のCO2吸収力を高めてクレジットを創出することを目指す。同国の海域には現在4000㎢以上のマングローブ林が点在している。同国の試算では、これらをクレジット化することで少なくとも年間3億㌦のクレジット売却益が見込めるとしている。これらの整備事業については、国としての事業化のほか、民間事業者の投資も誘致する考えだ。
他の海洋等でも、すでに藻場の整備やマングローブ事業等で自主的クレジットを創出し、民間評価事業者の認証を得る事業が展開されている。しかし、そうした自主的な事業の認証・評価に比べ、国の法律に基づくクレジットが創出されると、企業等の買い手の信頼度は高くなるとみられる。法的クレジットとみなされることで、自主的クレジット市場の価格のベースラインとなる可能性もあり、自主的クレジット市場の価格安定につながる期待もある。
https://grist.org/climate/companies-can-soon-start-paying-the-bahamas-to-store-carbon-in-the-ocean/