米国を襲ったハリケーン・イアンによる被害額1000億㌦乗せの可能性も。年々加速するハリケーンの大型化。温暖化の影響で日本を襲う台風も同様の傾向（RIEF）
2022-10-03 15:33:23
米国のフロリダ州等の南部地域やキューバを襲った大型ハリケーン・イアンは、フロリダ、ノースカロライナ両州だけで死者70人を出したほか、各地で被害を拡大している。被害総額は米国だけで少なくとも280億㌦（4兆円）、最悪の場合は1000億㌦（14兆5000億円）を超えると見込まれている。
（写真は壊滅的な被害を受けた住宅=CNBCから）
各紙の報道によると、災害モデル会社の米Karen Clark & Coの推計では、被害総額は1000億㌦を超えるとしている。このうち、住宅被害は630億㌦とし、保険カバー分を含む。不動産データ分析のCoreLogicの推計では、被害額は280億～470億㌦とはじいている。Enki Researchの災害モデル担当のChuck Watson氏は670億㌦の経済的被害額を見込んでいる。
これまでの米ハリケーン被害で最大の経済的損失を出したとされるのは2005年に米南部を襲ったハリケーン・カトリーナ。死者数は1800人を超え、被害額はいくつかの統計はあるが、最大で1610億㌦（約23兆3000億円）。次いで昨年の死者688人を出したハリケーン・アイダの1450億㌦、2017年のハーヴェイの1250億㌦。2012年に南部地域だけでなく、ニューヨーク等も襲ったハリケーン・サンディの被害額は約700億㌦だった。
今回のハリケーン・イアンで甚大な被害を受けたフロリダ州での住宅やインフラ等の中には、2017年のハリケーン・イルマ（被害総額590億㌦）の来襲からの復興事業が継続中のところも含まれていたという。
ハリケーン被害は住宅の損傷や長期の停電をもたらすだけではない。米南部地域の石油・ガス生産、キューバでのサトウキビ・タバコ農園、米南東部の野菜・果樹農園等にも大きな被害を発生させている。今回はオレンジ農園が壊滅的打撃を受け、オレンジジュースの価格が上昇している。
住宅等の被害額で保険でカバーされているのは30％分だけ。フロリダ州の60％の住宅は洪水保険に加入していないという。さらに住宅再建コストの上昇も大きい。フロリダ州等で被害を受けた住宅の多くが風光明媚な沿岸地域に位置した「ビーチハウス」。不動産バブルの影響ですでにこれらの住宅価格は上昇していた。
被災した住宅を再建する場合、自治体が強化する洪水規制に合致する必要がある。このためEnki ResearchのWatson氏によると、「20万㌦だった住宅の再建に倍の40万㌦が必要になる」としている。保険に入っていたとしても、再建費用には足りないことになる。
ハリケーン被害額の増大は、住宅価格の上昇とインフレの影響も大きい。価格上昇要因を除外した被害地域の土地面積で比較する手法も開発されている。ハリケーンで破壊された土地の面積から経済的損失を推計するもので、ATD（area of total destruction：総破壊領域）と呼ぶ尺度がある。
これに基づいて、1900年から2018年の間にアメリカに上陸した240以上の熱帯暴風雨とハリケーンによって破壊された土地の広さを比較すると、最も有害なハリケーン（467平方マイルを超えるATD）の頻度は、100年間で330％増加した。
一方で、ATDが50平方マイル以下の中程度の嵐の増加率は140％。これらのデータは、この100年でハリケーンの大型化が確実に進んでいることを示している。その要因は気候変動の進展である。特に過去10年でハリケーンの大型化は加速している。太平洋の西岸で日本を襲う台風も、同様の大型化の傾向にあることは間違いないだろう。
Research Institute for Environmental Finance