HOME8.温暖化・気候変動 |国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)開幕。スウェーデンの環境活動家、グレタ・ツゥーンベリさんは出席しない宣言。「気候正義」を求める若者たちの不満を象徴(RIEF) |

国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)開幕。スウェーデンの環境活動家、グレタ・ツゥーンベリさんは出席しない宣言。「気候正義」を求める若者たちの不満を象徴(RIEF)

2022-11-07 01:06:41

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 エジプトのシャルエルシェイクで国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)が6日、開幕した。1年前の英国グラスゴーでのCOP26では、官民の金融連携が進展する等の盛り上がりをみせたが、今回はロシアのウクライナ侵攻の長期化がエネルギー市場に影を落とし、開催国エジプトの人権弾圧問題も指摘される中で、「気候正義」を求める若者たちの目は一段と厳しさを増している。気候アクティビストの代表、スウェーデンのグレタ・ツゥーンベリさんは参加を見送った。

 

 (写真は、英ロンドンで開いた自著の発表会に出席し、講演するグレタさん。著書の印税はすべて気候変動活動に充当する)

 

 グレタさんはCOP27を前にした10月30日に英ロンドンで開いた自著のキャンペーンイベントで発言。「COPは主に、権力を持つ政治リーダーや人々が、多くのグリーンウォッシング手段をアピールする機会の場として使われている。(気候変動を阻止するための)全体システムの変更には目を向けず、漸進的な進歩を奨励することにとどまっている」と不満を示した。

 

 さらに、「もちろん、われわれ自身が、COPを(変化に向けて)動かすための機会として活用することがなければ、COPは実際には機能しない」と付け加えた。各国の気候対策がロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機を理由として、石炭火力発電の再稼働や天然ガスの供給確保等にシフトし、それを各国の政治リーダーたちが正当化する動きを念頭に、「政治リーダーたちの『お祭り騒ぎ』」と化したCOPとは一線を画する姿勢を示した。

 

グレタさんは19歳になりました
グレタさんは19歳になりました

 

 気候問題だけでなく、エジプトの人権抑圧問題についても批判を向けている。COP開催を前にして、世界86カ国の1400以上の人権団体、NGO、個人等が「COP27におけるエジプトの人権連合」を組織、エジプト政府による政治犯の弾圧・長期拘束事件弾圧政策を厳しく批判する声明を出した。グレタさんも同声明に賛同を表明した。

 

 エジプト政府は、COP27の開催地である紅海沿岸沿いのリゾート地のシャルムエルシェイクでの治安維持を理由として、NGO等のデモ活動等は会議場の近くに用意した一定の区画の中だけで行う規制を設けている。その場所を使ったデモの場合でも、36時間前に主催者に申請を要求する必要がある。さらに海外から参加する活動家の入国ビザ発給も遅れる等の問題も起きている。

 

 これまでのCOP会議では、世界中から集まったNGOや市民団体等が、自由に議論の場を設けたり、抗議デモをして会議の公式参加者に呼びかけるなどの光景が定着していた。グレタさんは「(今回のCOPでは)市民のための自由な空間が極めて限られている」と指摘したうえで、「人権を数多く侵害している国の観光客向けの楽園には行かない」と述べた。

 

 エジプトでは2011年の民主化運動「アラブの春」でムバラク独裁政権が倒れた後、13年には軍の事実上のクーデターが起きて強権体制が復活している。このため国内では住民によるデモは事実上禁じられている。米国務省の人権報告書では、エジプト政府が2万~6万人を政治的な理由で長期拘束していると指摘している。国連人権理事会の専門家も、10月初め、エジプト国内のNGOが当局から嫌がらせや脅迫を受けてきたことを明らかにしている。

 

ゴヤの代表作、「着衣のマヤ」の絵の額縁に手を糊付けして抗議活動をする若者たち
ゴヤの代表作、「着衣のマヤ」等の絵の額縁に手を糊付けして抗議活動をする若者たち=Guardianより

 

 各国政府の気候変動対応等への若者たちの不満、フラストレーションを示す事例が、世界的な名画に対する若者による「攻撃」だ。ゴッホの「ひまわり」へのトマトスープをかけたり(実際の被害は額縁だけ)、モネ、フェルメール等の名画も狙われた。4日にはスペイン・マドリードのプラド美術館でゴヤの名画の額縁に、若者たちが自らの手を糊付けする行動を実施した。

 

 名画を愛する世界中の人々から、若者たちの「方向違いの抗議」に批判の目が集まっている。だが、彼らからすれば、気候変動は着実に進展しているのに、世界の政治リーダーたちは「会議は開くが行動はしない」という行動をとり続け、実質的には何も変えようとしていないと映る。人類が生み出した貴重な名画も、文化も、伝統も、気候変動の激化で無に帰す未来が近づいているのに、「あまりに大人たちは方向違いのところで立ち止まっている」との不満と憤慨に陥っているようだ。この世代間ギャップはさらに拡大し、社会不満・不安はさらに拡大する予感が、エジプトから伝わってくる。

                     (藤井良広)

https://www.bbc.com/news/science-environment-63130705

https://www.theguardian.com/environment/2022/oct/31/greta-thunberg-to-skip-greenwashing-cop27-climate-summit-in-egypt

https://copcivicspace.net/petition/