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国際エネルギー機関(IEA)、「2022年世界エネルギー見通し(WEO)」。ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機は、再エネ転換を加速。化石燃料増と経済成長の連携、終了へ(RIEF)

2022-10-28 19:04:46

 

 国際エネルギー機関(IEA)は「World Energy Outlook(WEO) 2022」を公表した。その中で、ロシアのウクライナ侵攻でグローバルなエネルギー環境が大きく変わり、現状の政策シナリオでも、温室効果ガス(GHG)排出量は2025年前後にピークになると指摘した。ロシアからの化石燃料輸出の減少に伴い、各国で再エネシフト等が加速するとの見方による。石炭火力等の使用は今後2~3年以内に減少し、天然ガス需要は10年後には横ばい、石油は2030年代半ばに減少へ、それぞれ転じると推計している。

 

 今回の「WEO2022」での最大の課題は、ロシアのエネルギー供給減の影響をどう見るかという点だ。ロシアは石油、ガス、石炭を含めた化石燃料全体では世界最大の輸出国だった。ウクライナ侵攻でスポット市場でのガス価格は、石油価格換算で1バレル250㌦を超え、石炭価格も上昇、石油価格も22年半ばにはバレル100㌦を超えた。ガスと石炭価格の上昇は世界全体で電力価格を90%増に導いた。

 

歴史的なエネルギー危機の推移
歴史的なエネルギー危機の推移

 

 特にロシアのエネルギーに依存していた欧州諸国への影響が大きい。欧州は新たに500bcmの液化天然ガス(LNG)の輸入に踏み切った。ただ、同輸入によるグローバルガス市場への影響は、中国の景気減退とコロナ対策のロックダウン等によるガス需要減で幾分相殺された。問題はウクライナ戦争の終了が見えない中で、こうしたロシア産エネルギー減による国際エネルギー市場への影響が今後どうなるのかという点だ。

 

 IEAはWEOにおいて、ロシア産エネルギーによる各国経済への影響はあるものの、多くの国の政府は、短期的なエネルギー需給の調整策とともに、 長期的な対応をとろうとしていると指摘。現下のグローバルなエネルギー危機は、石油・ガス供給源の多様化や、クリーンエネルギーや省エネ等への構造的転換の促進等、よりに持続可能で、より安全性の高いエネルギーシステムへの移行をむしろ後押しする可能性を強調している。

 

 IEA事務局長のFatih Birol氏は「エネルギー市場と各国のエネルギー政策は、ロシアのウクライナ侵攻の結果として、すでに変わっている。その変化は現状の対策だけでなく、今後10年にわたる。エネルギーの世界はわれわれの眼前でドラマチックに変貌を遂げている。世界中の国々が歴史的なターニングポイントで、現在とっている取り組みは、エネルギー市場をよりクリーンで、より安定した価格で、より安全なエネルギーシステムへと転じさせるだろう」と前向きに評価している。

ピークアウトする化石燃料エネルギー使用
ピークアウトする化石燃料エネルギー使用

 IEAはその証左の一つとして、グローバルなクリーンエネルギー投資(再エネと原発)が2030年までに現在よりも50%多い年間2兆㌦(約300兆円)以上に増大するとの試算を出している。また国際エネルギー市場は、ロシアと欧州の対立に伴うエネルギーフローの変化に対する調整を、2020年代を通じて再編成できるともみている。

 化石燃料からクリーンエネルギーへのエネルギー市場のシフトの加速と、各国間のエネルギーの輸出入の流れの再調整を踏まえ、IEAは今後のエネルギー市場の動向を、3つのシナリオで予測している。現在各国政府が実施している政策をそのまま延長する「Stated Policies Scenario (STEPS)」、長期的なネットゼロ目標を含め各国が公約する野心的なNDCs目標による「Announced Pledges Scenario (APS)」、2050年までにパリ協定の「1.5℃目標」を達成する道筋と、30年までに最新のエネルギー利用が普及することを前提にする「Net Zero Emissions by 2050 (NZE)」である。

 

 これらの分析の結果、現行政策のSTEPSの場合でも、石炭火力等の使用は今後2~3年以内に減少に、天然ガス需要は10年後には横ばいに、石油は2030年代半ばに減少に、それぞれ転じると推計している。石油の需要減は電気自動車(EV)の販売増に基づく。その結果、グローバルなエネルギー需要に占める化石燃料の比率は現在の約80%から、STEPSでは2030年までに75%に下がり、50年までに60%に下がる。

 

3つのシナリオでの排出削減比較
3つのシナリオでの排出削減量比較

 

 18世紀の産業革命以来、化石燃料の使用は、GDPの拡大とともに増えてきた。だが、今後もグローバル経済の成長は続くが、化石燃料使用は30年までに減少に転じることになる。IEAは「エネルギーの歴史にとって重要な転換点になる」とみる。またエネルギー由来のCO2排出量も2025年に年370億㌧でピークをつけ、その後、50年にかけて320億㌧へと減少する。ただこの減少ペースでは地球の気温上昇は2100年までに2.5℃上昇となり、気候変動の激化は避けられない。

 

 各国が公約する野心的なNDCsを踏まえたAPSでは、2050年のGHG排出量は年120億㌧にまで減少する。特に、インドやインドネシアのNDCs改定が後押しする形だ。この場合はSTEPSより気温上昇を抑えられるが、それでも1.7℃と、1.5℃目標を上回ってしまう。さらにAPSでは公約は野心的でも、実効が伴わないリスクもある。

 

 これに対してネットゼロシナリオのNZEの場合は、2030年までに年排出量を230億㌧にまで下げ、50年にはネットゼロを達成することで、1.5℃目標に到達できることになる。NDCsをさらに強化する必要があるということだ。11月のCOP27の重要性が増すことになる。

https://www.iea.org/news/world-energy-outlook-2022-shows-the-global-energy-crisis-can-be-a-historic-turning-point-towards-a-cleaner-and-more-secure-future

https://www.iea.org/reports/world-energy-outlook-2022