スウェーデンの環境活動家、グレタさんを含む若者・市民たちが、政府の気候政策の「不十分さ」は憲法違反として、政府を提訴。オランダ、ドイツ等に続く気候訴訟。日本にも波及（?）（RIEF）
2022-11-26 14:28:14
各紙の報道によると、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリーさんを含む600人超の若者等が25日、スウェーデン政府の気候政策が不十分だとして政府を提訴した。グレタさんはツィッターで「ブラックフライデーの今日は、政府の不十分な気候政策を提訴するのにふさわしい日だ。法廷で会いましょう」と政府の政策と対決する姿勢を強調した。
（写真は、『学校ストライキ』の抗議行動で裁判所まで向かう若者たち。㊧正面がグレタさん）
訴訟を提起したグレタさんらはこの日、毎週行っている「気候変動のための金曜日学校ストライキ」の一環として、首都ストックホルムの裁判所までデモ行進し、訴状を提出した。訴訟を主導した団体のスポークスマンは「スウェーデン政府は気候危機を『危機』として扱ってこなかった。政府としての責任を果たしておらず、法律に違反している」と提訴の理由を説明している。
スウェーデンは2017年、温室効果ガスのネット排出量を2045年にゼロとする目標を法制化した。しかし今年10月に発足した右派のクリステション政権は、気候・環境相がエネルギー・ビジネス・産業相の下で働くよう機構再編。野党から「環境軽視」と批判されるなど、新政権の気候対策への懸念が指摘されていた。
訴訟は気候変動対策の強化を求める国際的な気候訴訟の流れをくむものでもある。2019年にはオランダの環境NGOのUrgenda財団が約866人の市民とともに、同国政府の温暖化対策が不十分だとして提訴していた訴訟で、同国最高裁が「政府には、気候変動から国民を守る人権擁護の義務がある」と認定、政府敗訴の判決を言い渡した。https://rief-jp.org/ct8/97400
オランダ訴訟に続いて、2020年7月にはアイルランドの最高裁が環境NGOが、政府の短期的気候対策「国家緩和計画（National Mitigation Plan）」が、2050年の長期目標と整合しないとして政策の強化を求めた訴訟で、NGOの主張を受け入れ、政府敗訴の判決を出した。https://rief-jp.org/ct8/105307
さらに2021年4月には、ドイツの若者たちによる「未来のための金曜日」運動の参加者や農民らが、ドイツ政府の気候保護法に2031年以降の温室効果ガス排出削減の措置が十分に盛り込まれておらず、憲法（基本法）違反として提訴した訴訟で、同国連邦憲法裁判所は訴えを認める判決を出している。https://rief-jp.org/ct8/113783
グレタさんらがスウェーデン政府を相手に提訴した訴訟も、これらの一連の気候訴訟に続くものだ。グレタさんはスウェーデンの日刊紙Dagens Nyheterのインタビューに答えて、「気候法制をもっと強めねばならない。現在の法律は、気候や環境危機から生じる影響から長期的な保護を提供していない。しかし、われわれは今ある手法を使って、できることすべてやる」と述べている。
相次ぐ気候訴訟で政府の気候政策の不備、不十分さが指摘される一方で、ロシアのウクライナ侵攻後に生じたエネルギー危機への対応で、各国政府は石炭火力発電への依存を強めるなどの逆の動きもでている。先に閉幕した国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議（COP27）でも、さらなる削減強化の「政策的野心」は示されず、気候変動による災害多発をめぐる先進国と途上国の負担のシェアリングに議論がシフトした。
COP27への参加を見送ったグレタさんだが、同会議の終了を見届けたうえで、自国の政府を相手に法廷闘争を挑むことで、気候変動との闘いをさらに貫く姿勢を示す形でもある。日本でもいずれ気候訴訟が提起されるのも時間の問題と思われる。
Research Institute for Environmental Finance