HOME |経産省、まだ始めていない自主的排出量取引制度「GXリーグ」の「短所」を自ら列挙。段階的に法的義務制度に移行を提案。2031年度からは化石燃料発電の電力会社対象を想定(RIEF) |

経産省、まだ始めていない自主的排出量取引制度「GXリーグ」の「短所」を自ら列挙。段階的に法的義務制度に移行を提案。2031年度からは化石燃料発電の電力会社対象を想定(RIEF)

2022-11-25 07:00:18

GXd4dbdc9395a617a1443bea8719c411d9

 

 経済産業省は24日開いた産業構造審議会の会合で、石炭火力等の化石燃料発電を扱う電力会社に対してCO2排出枠を有償で買い取らせる義務的排出量取引制度の導入案を示した。同省は2023年から企業が自主的にCO2削減目標を立ててクレジットを売買する「グリーン・トランスフォーメーション(GX)」リーグ制度を始めるとしているが、自主的制度では「参加企業間の負担や公平性に疑義が生じうる」として、2031年度以降に義務的制度へ切り替える案を示した。

 

 GXリーグは、経産省が鳴り物入りで打ち出した「成長志向型カーボンプライシング制度」の目玉政策だったはずだ。だがその自主的排出量取引制度がまだスタートしていないのに、同制度について①非参加企業に(削減)規律が働かず、参加企業との間でGX取組に対する負担の偏りが生じうる②(GXの)枠組みで捕捉出来ない大規模排出源が存在しうる③参加企業間で、目標水準に係る公平性に疑義が生じうる――等の制度的欠陥を自ら指摘した形だ。

 

経産省の説明資料より
経産省の説明資料より

 

 そのうえで、「自主的制度」の規律機能の不十分性を補うため、二段階での「義務化」の展望を示した。まず、2026年度以降の「第二フェーズ」では、企業が設定する自主的削減目標を「政府指針を踏まえた目標」設定に切り替え、削減目標に民間第三者認証付与の検討、目標達成に向けた政府の「指導監督、順守義務」等の検討を掲げた。「義務」の言葉は極力避け、「検討」としているが、法的義務に近いことは間違いはないだろう。

 

 次いで、2031年度からの「第三フェーズ」では、「発電部門について、段階的な有償化(有償オークションの導入)の検討」を提案している。ここでも、「法的義務」とは明記していないが、有償オークションは、EUの排出権取引制度(EU-ETS)で導入されている基本制度で、対象となる電力会社は排出枠をオークションで買わないと発電できないという法的義務を前提にするものだ。

 

経産省の資料より
経産省の資料より

 

 経産省が提案する自主的排出量取引制度のGXリーグは、すでにEUや米国(カリフォルニア州等)、カナダ、中国、韓国等で導入されている排出権取引制度により政府や当局が排出総量を定め、それを達成するために、対象企業に排出枠を配分する基本的枠組みとは異なり、参加企業が自主的に削減目標を立てるというコンセプトだ。しかし、これは排出権取引の基本的な理論を無視したもので、制度として成り立つ可能性は極めて疑問視されている。

 

 したがって、制度がスタートする前に、法的義務化の制度に切り替える案を示したことは、ある意味で望ましいといえる。当初のGXリーグ案が経済理論を無視し、すでに他国で実践されている先例も無視した拙速の政策であることを自ら認めた格好でもある。ただ、そうであるならば、名ばかりの「GXリーグ」を一から見直して、費用対効果のバランスの取れた義務的排出権取引制度を導入するロードマップを提案し直すべきだろう。https://rief-jp.org/ct4/128587?ctid=70

 

 経産省の「政策提案力」の稚拙さは、GXリーグ案にとどまらない。「エネルギーに関する公的負担総額を中長期的に増やさない」との方針の下に、排出量取引制度とともに検討案としている「炭素に対する賦課金(炭素税)」と取引制度を「ハイブリッド型」で制度構築するとしている。

 

 だが、すでに先行するEUでは排出権取引制度を拡大して、これまで炭素税等の対象としてきた住宅等の建築分野や自動車等の交通分野を取引制度に含める方向の制度改正を進めている。経産省が名付ける「ハイブリッド」は、単に炭素税と取引制度を両方導入する程度の意味合いにしか聞こえない。そうだとすると、それはEUがすでに改正しようとしている現行政策の「古いコピー」でしかない。https://rief-jp.org/ct8/125340?ctid=71

 

 経産省の意図は、排出量取引制度の炭素価格の決定を、「炭素に対する賦課金」の負担率等に連動させることで、「同一の主体が両者を一体的に運用していくことも必要」とする説明資料の下りにあるようだ。炭素税と取引制度の政策担当を両方とも同省が担いたい、という政策分野での縄張り意識が透けて見える。それもいいかもしれないが、そうならば「政策効果」の高い提案をしてもらいたい。

                     (藤井良広)

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/green_transformation/010.html

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/green_transformation/pdf/010_01_00.pdf