国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局長。中東での戦争拡大による石油・ガス価格上昇で「太陽光は海峡(ホルムズ)を通らず、風は海軍の護衛なしで吹く」と再エネの利点を強調(RIEF)
2026-03-17 00:00:31
(写真は、COP30で演説をするサイモン・スティール氏=YouTubeから引用)
国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)事務局長のサイモン・スティール(Simon Stiell)氏は16日、欧州で開いた国際会議で演説し、米国・イスラエルによるイラン攻撃と、イランの報復によって、世界の石油・ガス価格が上昇、エネルギー危機が再燃していることに触れ、「太陽光は、狭く脆弱な海峡(ホルムズ海峡)に依存せず、風は巨額の税金を投じた海軍の護衛なしに吹く」と指摘。石油・ガスの化石燃料依存型経済の継続に終止符を打ち、再生可能エネルギーへ移行する重要性を訴えた。同氏は石油やガスへの依存が「国家安全保障と主権を蝕み、従属とコスト増をもたらしている」と現在の世界の政治状況についても懸念を表明した。
同氏は、化石燃料依存を続けることで、2024年だけで、世界は4,200億ユーロ(約76兆4000億円)以上のコスト増になっているとした。各国政府によるガソリン価格維持のための国家補助金の供給等は、再生可能エネルギー開発支援の補助金を上回っている。
同氏は16日、ベルギー・ブリュッセルで開いた国際会議に出席した。会議には欧州各国の関係閣僚等も参加した。同氏は会議において、「化石燃料の輸入に依存し続けることは、欧州等の輸入国は永遠に危機から危機へと翻弄され続け、その一方で、気候災害は世界中でますます甚大な被害をもたらす」と警告した。化石燃料の輸入に依存する国々(日本を含めて)は、「エネルギーコストを押し上げ、経済成長を押し下げ、膨大な人的被害を招いている」とした。
また化石燃料が継続的に使用され続けることで、CO2排出量の抑制が遅れ、気候変動が加速する。このため、「欧州では、昨年の夏だけで、気候変動による極端な気象現象が430億ユーロの経済的損失をもたらした。これは控えめな見積もりだ」と指摘した。
重要な点は、気候災害を助長する化石燃料の使用で、「(メジャー等の世界のエネルギー大手企業は)世界中で納税者資金による数兆ユーロもの補助金を獲得している。その資金は、もっと有意義な用途に充てられるはずだ」と、化石燃料依存が、今回のような戦争拡大のリスクを生み出すとともに、輸入国においてコスト増と予算配分の柔軟性を失わせる要因にもなっていると批判した。
同氏はそのうえで「再エネへの移行・転換は状況を一変させる」とした。「太陽光は、狭く脆弱な海峡(ホルムズ)に依存しない」「風は、巨額の税金を投じた海軍の護衛なしに吹く」と。さらに各国が自国の自然環境に適した再エネ発電を開発・普及させることで「再エネは、各国が世界的な混乱から身を守り、『力こそ正義』という政治(トランプ政治)を回避することを可能にする」とした。
化石燃料確保よりも、再エネへの移行を促進すべきという同様の呼びかけは実は、2022年に、ロシアがウクライナに侵攻した際に、エネルギー価格が急騰した場面でも専門家等から示された。しかし、当時、欧州の複数の国々では、ロシアのガス輸入に代えて、新たな化石燃料の供給を確保しようと急ぎ、さらに石炭火力発電所を再稼働させたり、米国や湾岸諸国と長期のLNG契約を締結するなど「現状回復」に走った。その結果は、その後の数年にわたり化石燃料への依存をさらに固定化させる行動となった。
当時も、エネルギー専門家等は、欧州の一部の国々は間違った教訓を学んでいるとの警告も出た。そして今、4年ぶりのエネルギー危機が訪れる中、同じ過ちが繰り返されるのではないかと懸念する声が出ている。スティール氏の発言は、そうした「過去の失敗」を振り返り、困難な問題を世界中にまき散らす化石燃料依存から脱却し、再エネ依存に真剣に目を転じるよう求めるものだ。
同氏は、中東での紛争激化による化石燃料危機に対する一部の国や業界等が4年前と同様の対応をしていることについて、「信じがたいことだが、(彼らは)問題の原因にさらに依存し、再エネへの移行を遅らせることを主張している。明らかに再エネの方が安価で、安全で、市場投入も早いというのに。これは完全に妄想だ」と指摘した。自国のエネルギーである再エネへの切り替えは、多くの人々が最優先事項とする、エネルギー安全保障、高賃金の雇用、健康の向上、そして高騰する生活費からの救済等を実現できるとものだ、とした。
一方で、原油価格が1バレル100㌦(約86.53ユーロ)まで急騰する中、すでに化石燃料大手各社に対しては、紛争によって収益を高めているとの指摘も出ている。米国とイスラエルによるイランへの攻撃以前、世界の原油価格の指標であるブレント原油は1バレル60~70㌦(52~60ユーロ)の範囲で取引されていたためだ。ウクライナ危機に際しても、石油・ガス関連業界には、価格高騰による「棚ぼた収益(windfall profit)」が各国で問題になった。
(藤井良広)
https://en.wikipedia.org/wiki/Simon_Stiell

































Research Institute for Environmental Finance