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大手電力会社、多発する太陽光発電事業者への電力買取拒否の実態 再生エネ普及の壁に(Business Journal)

2013-05-18 22:21:05

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solarDY20121217100419638L0昨年7月1日にスタートした「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」は、太陽光、風力、バイオマスなどの自然エネルギーで発電された電気を、電気事業者(いわゆる電力会社)が国の定める価格で買い取る制度だ。これにより、特に太陽光発電事業への新規参入が続いている。

 

電力会社は太陽光発電事業者の電力を全量買い取らなければならないのだが、法律には例外規定が設けられており、「買取拒否」と送配電ネットワークへの「接続拒否」が認められている。これは新制度がスタートする前から問題点として指摘されていたのだが、自然エネルギー財団が実施した「太陽光発電の系統接続に関する事業者アンケート」によると、その懸念はかなり現実のものとなっているようだ。

アンケートに回答した太陽光発電事業者79社のうち、事前相談段階で電力会社から系統連系が拒否されたケースが15件、また連系制限があるとの回答を受けたケースが28件あった。また、大幅な設備容量の縮小要請や遠い連系点への接続要請などもあり、実質的に事業を断念せざるを得ないケースも多発している。

 

●電力会社の関連企業丸儲けの構図


 

ここで、自然エネルギー事業者(ほとんどは太陽光発電事業者)と電力会社の契約について、簡単に触れておく。

発電した電力を電力会社に買い取ってもらうためには、電力会社との間で「特定契約」という買い取りの条件などを規定した契約を結ぶ必要がある。発電量が契約よりも少なかった場合に、電力会社が不足分を補給する必要があり、その費用を発電する側が負担することに合意しなくてはならない。合意しない場合は、電力会社は買い取りを拒否することができる。それから、太陽光や風力などは気象条件によって発電量が安定しない弱点があるが、その不安定さによって、電力会社が適切なサービスを利用者に提供できなくなるおそれがある場合には、買い取りを拒否できることになっている。

電力ネットワークへの「接続」は、電力会社の送配電ネットワークを借用することを意味する。日本の送配電ネットワークのほとんどは地域別の電力会社が所有しており、発電した電力を利用者である一般消費者に送るためには、電力会社のネットワークを使う必要がある。

ここでも問題が起きる。まず、太陽光発電事業者の発電設備と電力ネットワークをつなぐための「電源線」の敷設費用負担だ。たいていの場合、電力会社が敷設工事を担当し、その費用は発電者側が負担しなくてはならない。しかし、ほとんどのケースで工事は電力会社の関連会社が行っているため、発電事業者側には金額や工期の妥当性を確認できる仕組みがない。発電事業者にすれば、複数の会社から見積もりを取って、安い会社に工事を発注できれば負担が少なくて済むのだが、電力会社側の言い値のような高い工事金額で契約させられているのだ。アンケートの回答の中には「連系工事負担金が当初よりも20倍もの高額で示された」なんていう、とんでもないケースもあった。

さらに、電力会社の事情によって、地域内の電力供給量が需要を上回ることが想定される場合、あるいは送電する量がネットワークの許容範囲を超えることが想定される場合には、受け入れる電力を減らしたり、接続を拒否したりすることができる。いずれの場合でも電力会社は明確な根拠を書面で説明するように義務付けられているのだが、その根拠に反論して状況を覆すことはほとんど不可能だ。

このほか、公道内に送電線の敷設工事をする必要があっても発電事業者側では工事ができないため、電力会社に工事を依頼したが拒否されてできなかったというケースや、電力供給開始後に問題が起きて、発電事業者に追加の費用負担が発生するというケースなど、さまざまな問題がある。

接続手続きにかかる期間も長い。電力会社ごと、あるいは営業所ごとでばらつきがあるものの、連系協議にかかる時間は平均2.6カ月。4カ月以上たっても電力会社から回答がないケースもあったという。事前相談(平均1カ月)と特定契約(平均1.5カ月)の期間を合わせると、電力の買い取りまでに太陽光発電事業者は半年近い交渉を強いられることになる。

 

●電力会社寄りの仲裁機関・電力系統利用協議会


 

太陽光発電事業者と電力会社の契約をめぐるさまざまな問題は、以前から漏れ伝えられていたものの、太陽光発電事業者は弱い立場に置かれているため、公にその不満を口にすることはできなかった。自然エネルギー財団はその点を考慮して、匿名でアンケートを実施したところ、電力会社のあこぎな実態が浮かび上がったというわけである。

経済産業省のOBはアンケート結果を見て、次のように話す。

「電力会社の中でも昔からひどかったのは、東北電力と北海道電力。新しい電気事業者の接続なんて最初から受け付ける気がなかったようにすら見えた。中部電力も九州電力もひどかったけど、こう言ったら電力会社全部になってしまう。ただ、東京電力なんかは他に比べればマシなほうで、結局、首都圏は電力の大消費地だから、電気事業者から買っても消費されるということですね。それに、オール電化住宅を推進していたということもあるでしょう」

さて、太陽光発電業者などが不利な立場に置かれた場合、実は、その旨を訴えるための仲裁機関がある。電力系統利用協議会(ESCJ)という一般社団法人だ。ESCJのWebサイトの事業概要には「相談、苦情、紛争解決」とある。そして「送配電等業務の公平性・透明性確保の原則、関係法令、上記ルール等に基づいて、送配電等業務の円滑な実施を確保するために必要な相談、苦情の処理、あっせん、調停および指導・勧告を行います」と書いてある。

このESCJが正常に機能していれば、太陽光発電事業者らの不満も解消されたのだろうが、実際にはまったく機能していない。中立機関であるにもかかわらず、何を申し立ててもほとんど電力会社寄りの解決しかしないことで知られているからだ。前出の経産省OBはこう説明する。

「ESCJは04年2月に有限責任中間法人として設立されたのですが、理事の何人かは六ヶ所村の再処理施設工場の視察に招待されて、その後に浅虫温泉(青森県)で大変な接待を受けていたのを覚えています。だから、皆さん原発賛成派です。昔はなかなか良い論文を発表していた人たちですが……。ESCJは『電力自由化のフェアプレーのために』なんて看板を掲げていますが、実態はまったく逆で、電力自由化の阻害要因です」

ESCJの役員や職員は電力会社から出向してきた人や電力会社の息のかかった人ばかりだというから、これでは太陽光発電事業者も相談する気にさえならないだろう。

 

●発送電分離も骨抜きの懸念も


 

さて、安倍内閣では先月、「電力システムに関する改革方針」を閣議決定した。家庭が電力会社を選べる電力の小売りについて、2016年をめどに全面自由化する方針だ。大手電力の発電部門と送配電部門を別会社にする発送電分離についても2018~20年をめどに実現を目指すという。

報道された内容を見ると、かなり前進している印象を受けるが、このまますんなり電力自由化が進むかどうかは未知数だ。とくに発送電分離は注視していかなければならない。改革派官僚として知られた古賀茂明氏は2年前、筆者のインタビューに対し、電力会社を単純に発電会社と送電会社に分けるだけでは不十分だと言っていた。

「電力会社を発電と送電に単純分離しても、発電会社は巨大なまま残ってしまう。また、例えば東電を“東京発電”と“東京送電”に分離しても、兄弟会社やグループ会社のような資本関係が残れば、送電網は“東京発電”に有利な使い方になってしまい、公正な競争にはならない。“東京発電”をいくつかに分割して売却すれば、東電のDNAを薄めることができる」

なお、ESCJに代わる本当の意味で中立な送配電ネットワーク監視機関が必要であることは言うまでもない。 (文=横山渉/ジャーナリスト)

http://biz-journal.jp/2013/05/post_2126.html