HOME |フンコロガシは温暖化の救世主?(National Geographic) |

フンコロガシは温暖化の救世主?(National Geographic)

2013-09-06 14:54:46

葉の上のフンコロガシ。
葉の上のフンコロガシ。
葉の上のフンコロガシ。


“環境を救うヒーロー”としては、いささか予想外だろう。しかし、ウシの糞を食べ、糞の中に産卵するフンコロガシなどの糞虫(ふんちゅう:動物の糞を餌とするコガネムシ科の昆虫の総称)の一見汚らしい習性は、実のところ地球温暖化に対抗する武器かもしれない。

ご存じのとおり、農畜産業は多量のガスを排出する。国連によると、世界で13億頭にのぼる大型の反芻(はんすう)動物、例えば肉牛、バッファロー、ヒツジ、ヤギなどが、げっぷやおなら、糞を通じて排出する温室効果ガスは、輸送業界のガス排出量を上回るという。

 世界のメタンガス排出量の約3分の1を、これらの動物たちが占めている。農畜産業が排出する温室効果ガスの半分がこのメタンであり、メタンは何かと悪者扱いされている二酸化炭素(CO2)以上に温室効果が高い(ほかにメタンの排出量が多いのは、天然ガスおよび石油産業と埋め立てゴミだ)。

 したがって、ガスの排出量を抑えるのに役立つ生物には、ことごとく調査の目が向けられる。フィンランド、ヘルシンキ大学のアッテ・ペンティラ(Atte Penttila)氏らの研究チームは、牧草地に点々と落ちている牛糞からのメタン発生量に、糞虫が影響を及ぼすかどうかを検証する実験を行った。

 ちなみに糞虫は、牧草地に落ちているウシなどの反芻動物の糞の中に潜り込み、それを餌として生きている。また糞の中に卵を産み、孵化した幼虫もまた糞を食べる。

 そしてメタン発生量に関する実験の答えは、イエスだった。糞虫(この実験ではマグソコガネ属の糞虫)が中に潜り込んで餌とした牛糞は、糞虫のいなかった牛糞に比べて、夏季のメタン発生量が40%近く少なかった。

◆糞虫は本当に救世主か?

 糞虫がメタン発生量を減らした要因は、糞の中に穴を掘ったことだ。メタンは嫌気的な(酸素のない)環境で発生する。したがって、糞虫が糞に穴をあけて通気し、環境が変化したことで、糞からのメタン発生量が減ったわけだ。発生量が減れば、大気中に放出されるメタンガスの量も減少する。

 しかしその一方、実験ではもう1つ重要なことが明らかになった。糞虫がとりついたほうの牛糞では、また別の温室効果ガスである亜酸化窒素の発生量が増加したのだ。これがメタンの削減効果を相殺するほどのものかどうかは、今後の研究で明らかになるだろう。

「地球温暖化に対する実際の効果に関しては、まだ審議中といったところだ」と、研究共著者のトマス・ロスリン(Tomas Roslin)氏は述べる。「家畜が放出するメタンの多くは家畜の口や肛門から出るものであり、糞からの放出量は少ない。それでも、実際の効果を正しく評価するためには、糞虫の影響を計算に入れるべきだ」。

◆減少する糞と糞虫

 残念なことに、最近の多くの生物と同じく、糞虫もまた減少傾向にある。例えばフィンランドでは、糞虫の種の半分以上が、絶滅のおそれがあるか、絶滅の危機に瀕しているとロスリン氏は述べている。

 その理由として、糞と牧草地の両方に多様性が低下していることが挙げられる。これは、飼育場の数を減らし、そのぶん集中管理を向上させていることと、最近では家畜に与える抗寄生虫薬などにより、化学物質の含有量が増えて、糞の質が低下していることに伴う現象だ。

 畜産業界が干ばつや投入コストの増大に苦しんでいるにもかかわらず、世界の牛肉需要は増え続けているということもあり、これは厄介な問題だ。

 特に発展途上国では、飼育場の拡大に伴って、温室効果ガスの排出量が増えている。むろん糞虫だけではガスの発生を抑えることはできないが、「糞からのガス発生量の変化に、このような生物がもたらす作用を理解し、説明する必要がある」とロスリン氏は述べる。「(糞を)単なる受動的な物体とみなすことはできない」。

 糞虫の数を増やし、「ガス発生量の抑制に一役買わせる」ためには、家畜にさまざまなタイプの屋外の牧草地で草を食べさせるのが一番だと、ロスリン氏は述べる。「家畜を小屋に閉じ込め、糞をゴミとして処理すれば」、世界で最も“熱い”問題の1つに静かに、しかし大きな貢献をしている可能性のある「サイクルを遮断してしまうことになる」。

 今回の研究は、8月7日付で「PLOS ONE」誌に発表された。

http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20130905001