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日本学術会議、温暖化取り組み促進を求める「緊急メッセージ」。今世紀半ばまでに「排出ゼロ」実現求める。ただ、政府の政策への注文なく、日本のNDC見直しにも言及せず(RIEF)

2019-09-20 12:55:41

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 日本学術会議(会長、山極寿一京大学長)は19日、「地球温暖化への取り組みに関する緊急メッセージ」をまとめ公表した。メッセージでは、「世界の CO2排出量を今すぐ減らしはじめ、今世紀半ばまでに実質ゼロにする道に大きく舵を切る必要がある」と、ゼロ排出の実現を求めている。

 

 (写真は、真ん中が山極会長)

 

 メッセージは、「国民の皆様」と題し、広く国民の協力を求める姿勢を打ち出している。

 

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  主な提言は、①人類生存の危機をもたらしうる地球温暖化は確実に進行している②温暖化抑制のための国際・国内の連携強化を迅速に進めねばならない③温暖化抑制には人類の生存基盤としての大気保全と水・エネルギー・食 料の統合的管理が必須④陸域・海洋の生態系は人類を含む生命圏維持の前提であり、生態系の保全は温暖化抑制にも重要な役割を果たす⑤将来世代のための新しい経済・社会システムへの変革が早急に必要ーーとしている。

 

 報道によると、会見した山極会長は「ハードルは高いが、『我慢や負担』ではなく経済と社会のシステムを変えることで豊かになりながら実現する道はある。科学者も強く協働していく」などと述べた。

 

 ただ、提言の趣旨はその通りだとしても、23日の国連気候サミットに向けて、投資家や住民団体等が求める政府への注文が一切ない点が、大変、物足りない気がする。「ゼロ排出」を実現するには「国民運動」の前に、政府が適格な政策のフレームワークを示す必要があり、その政策への科学的根拠を与えるのが科学者の役割であるはずだ。

 

 23日に開く国連気候サミットの最大の焦点は、パリ協定で各国が公約した国別削減貢献(NDC)の見直し・強化であるが、日本国内ではほとんど議論になっていない。そうした内外ギャップにこそ、科学者は懸念を表明すべきだろう。

 

 学術会議のメッセージは「(IPCCが昨年示した)『1.5℃目標』達成のためには、世界各国が温室効果ガス排出削減のための緩和策と、その影響を各国・地域で最小限になるような適応策を、迅速にかつ強力に進めることが求められている」と言及している。では日本政府に求める緩和策、適応策は何なのか、という点は触れていない。

 

 IPCC報告書は、現在のNDCについて「これらの野心(NDC)を反映した排出経路は、たとえ2030 年以降の排出削減の規模と野心の挑戦的な引き上げによって補完されたとしても、地球温暖化を1.5℃に抑制することはないであろう」と明確に限界を認めている。

 

 そのうえで、「1.5℃リスク」の抑制には、「適応及び緩和に対する投資の増加、政策手段、技術革新の加速化、並びに技術的なイノベーション及び行動変容によって可能となりうるシステム移行」をあげて、「投資」と「技術」を刺激する「政策手段」の重要性に言及している。

 

 16歳で、迅速な温暖化対策の実施を政府に求めて活動しているスウェーデンのグレタ・ツゥーンベリさんは、先に米議会に招かれた際、「私の意見を聴くより、科学者の声を聴いてください」と米議員たちに訴えた。同時にIPCCのレポートを提出した。http://rief-jp.org/ct12/93906

 

 グレタさんが、今回の日本の学者たちの「緊急メッセージ」を読んだらどう、つぶやくだろうか。

               (藤井良広)

 

 http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-

d4.pdf