債券評価の欧州非営利シンクタンク、国際協力機構（JICA）のJICA債を「投資引き揚げリスト」に入れる。アジアでの大規模石炭火力発電事業へのファイナンスで気候リスク増大（RIEF）
2021-03-31 15:07:48
グローバルな債券調査・分析を専門とする非営利シンクタンク「Anthropocene Fixed Income Institute（AFII）」（スウェーデン） は、日本の国際協力機構（JICA）発行のJICA債（ソーシャルボンド）をダイベストメント（投資引き揚げ）推奨リストに入れた。理由として、JICAがバングラデシュとインドネシアで大規模な石炭火力発電事業を支援していることを指摘している。JICA債はソーシャルボンドとして発行されているが、ESG重視の投資家にとって「要注意」ということになる。
（写真は、インドラマユ石炭火力発電事業の影響を受ける農民はジャカルタの日本大使館にJICAの支援停止を求める要請書を提出した。FOEジャパンサイトから）
AFIIが、JICA債を投資不適格とする理由にあげたバングラデシュの事業は、同国南東部のチッタゴン管区マタバリ地区に超々臨界圧石炭火力発電所（USC）と石炭輸入用港湾、送電線等を建設する事業計画。JICAが有償事業として1431.27億円を投じ、第1フェーズでは、600MWの超々臨界圧石炭火力発電（USC）2基（合計1200MW）を2024年までに建設する計画だ。さらに第2フェーズでも同規模の建設を予定している。
事業主体は、現地の発電会社等で、建設・運営のEPC事業契約は、住友商事、東芝、IHIが結んでいる。さらに国際協力銀行(JBIC）が最大500億円規模の円借款を供給している。事業費は第1フェーズだけで約7004億円という巨大事業だ。https://sekitan.jp/jbic/wp-content/uploads/2020/08/Matarbari-Factsheet_202008_jp.pdf
もう一つのインドネシアの事業は西ジャワ州のインドラマユで、インドネシア国有電力（PLN）が、既存石炭火力発電所の隣接地に、1000MWのUSC発電所を2基（合計2000MW）建設する計画だ。総事業費20億㌦（約2180億円）。JICAは2009年度の同事業の準備調査の段階から参画し、円借款等を供与している。しかし同事業には健康被害の悪化を懸念する周辺住民の反対が強く、日本政府にも再三の申し入れがされている。https://foejapan.org/aid/jbic02/indramayu/210325.html
AFIIはこうした石炭関連事業はパリ協定の目標達成と整合しないうえ、生態系破壊や地域社会への弊害も大きいとしている。そのうえで、これらの事業にJICA債での調達資金が充当されていることを問題視、同社が公表する公的機関や国等の債券（SSA）の除外リスクに、JICA債を加えた。AFIIはJBIC債についても、1月に同リストに入れている。
AFIIはJICA債を除外リストに入れるともに、投資家向けに、「既発行のJICA債は売り。JICA債を保証する日本国債のCDS（クレジット・デフォルト・スワップ）プロテクションの売り増大リスクを回避するため、他の債券への代替」を推奨、石炭火力リスクをゼロにするよう求めている。
JICA債は、2016年6月に350億円の「社会貢献債（ソーシャルボンド）」を発行して以来、JICA債全体をソーシャルボンドと位置付けている。同ボンドの評価については日本総合研究所が、国際資本市場協会（ICMA）が定めるソーシャルボンド原則（SBP）に合致しているとのセカンドオピニオンを付与している。http://rief-jp.org/ct1/64150
JICA債は多くの内外投資家の投資対象となっている。第一号のソーシャルボンドも、日本生命、第一生命、損保ジャパン等の主要な機関投資家が投資した。しかし、気候リスクが高まり、各地域で石炭火力発電事業の見直しが進んでいる中で、年金・保険等の大規模機関投資家は、改めて保有資産の気候リスクおよび社会的リスクを評価し直す必要があるようだ。
Research Institute for Environmental Finance