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日本は「トランジションファイナンス」を、火力発電技術に縛られている事業会社を、支援するための方法として、扱っている(Kurt Metzger)

2023-04-11 15:14:11

ASEANZEroキャプチャ

写真は、2023年3月4日、東京で開いたアジアゼロエミッションン共同体(AZC)閣僚会議の模様)

 

   今年は、アジアの国々にとって、脱炭素の国際協力での主導的な立場となる多くの重要な機会が提供されている。

 

 日本がG7の議長国を務め、インドがG20の議長国を、さらにJust Energy Transition Partnerships(注1)に基づくインドネシアとベトナムでの待望の投資計画もある。スポットライトは、アジアの国々の実情に合った持続可能なエネルギーソリューションに対するファイナンスに、向けられている。

 

  こうした状況下で、必然的な疑問が生じてくる。サステナブル経済へのスムーズな移行を確かにするために、電力部門において民間金融はどのような役割を果たすべきか、という点だ。最も効果的な戦略は、化石燃料を引き続き燃焼させたり、怪しげな脱炭素経路を促進するため、実証されていない技術に対してファイナンスを提供することなのか、それとも、再生可能技術に移しておらず、自らのビジネスモデルも適応できていない企業へのファイナンスは引き揚げられるべきことなのだろうか。

 

 日本の第6次エネルギー計画は、日本がこの点で明確なスタンスをとっていることを示している。それは、電力事業者は、今日の市場での競争力を維持しながら、より低炭素な姿に移行し易いようにさせるために、「トランジションファイナンス」を供給される必要がある、というものだ。

 

 しかし、こうしたトランジションファイナンスに関する日本独特の見解は、注意深く検証される必要がある。

 

JERAの碧南火力発電所(愛知県)
JERAの碧南火力発電所(愛知県)

 

 日本が示す前提は、魅力的に聞こえるかもしれない。だが、現実は、日本はトランジションファイナンスを、最大級の排出削減を供給でき、コスト競争力のあるものとして提供する方法よりも、火力発電技術に縛られ、かつ、火力発電所を延命させる技術を売ることによってのみ、生き残ることができる日本の事業会社を支えるための方法として扱っている。

 

 言い換えれば、日本のトランジション戦略の目標は、再エネ電力を東南アジア市場で、より安価にし、コスト競争力を持たせようとするものではなく、日本企業ができる限り、火力発電に依存し続けるための産業政策なのだ。炭素排出量をごく限界的に低くするだけのマイナーな微調整を盛り込んでいるが、一方で、東南アジア諸国と、世界のその他の国々の脱炭素経路との間では、さらに大きな分裂を促進することになる。

 

 トランジションファイナンス課題を担当する官庁は経済産業省(METI)である。同省は最近、「火力発電所のネットゼロに向けて(Towards Zero-Emission Thermal Power Plants)」と題する資料を公表した。その目的は明瞭だ。日本と、その他のアジア諸国は、今後も、安全で、安定した高品質の電力供給を確保するために、火力発電に依存し続けるとし、そのためにもGHGを排出しない火力発電技術が不可欠というものだ。

 

 日本では、官民が一体となって、ゼロエミッション火力発電所のキーテクノロジーの開発を進めている。これらの取り組みは現在、実証中だ。しかし、脱炭素を実現し、日本を「1.5℃目標」を突破することを防ぐための正しい軌道に乗せるためとする、これらの技術の実際の能力には、多くの信頼できる情報源が疑問視している。

 

 日本のトランジションファイナンス戦略は、これまでのところ、二つの技術に焦点を向けている。石炭火力発電向けのアンモニア混焼と、天然ガス火力発電での水素混焼だ。日本政府は2030年までのエネルギーミックス計画の中で、アンモニア混焼20%目標の達成を掲げ、より野心的なシナリオでは、2030年までに50%への拡大を可能にすることを目指している。ガス火力発電所での水素混焼計画も同様に野心的になっている。

 

日本政府のトランジションファイナンス指針より
日本政府が「目指す」トランジションファイナンスのゴール。経路の困難さと、落伍者の姿も散見される。(政府作成の指針より)

 

 しかし、科学的研究の成果は、これらの両方の技術による排出削減は疑わしいことを示し続けている。例えば、石炭火力でのアンモニア20%混焼による排出量は、ガス火力複合サイクル発電所に比べて2倍の排出量に相当する。

 

 最もコストが安く、もっとも実現可能なオプションは、現在、ガスを原料として製造する「グレーアンモニア」だ。しかし、製造に際してエネルギーを多量に必要とするその製造方法から、石炭火力にグレーアンモニアを混焼しても、ネットの排出削減はできないとされる。最近のライフサイクル分析によると、

 

 金融的観点からいえば、日本の戦略はコスト競争力を確保するために、こうした技術に巨額の投資を必要とすることになるだろう。アンモニアの最も安価な供給源は現在、火力発電用の一般炭価格のおよそ4倍。もし再エネ発電を使ったグリーンアンモニアでの混焼が実現するとした場合、そのコストは石炭価格の15倍に拡大する。

 

 「Transition Zero」による分析では、日本の「先進的石炭技術」が、より合理的なコストを実現できるのは、よくても2040年になってからで、そのコストは均等化発電原価(levelized cost of energy:注2)で、およそ$280/MWhの水準と指摘している。

 

 世界の他の国々が、再生可能エネルギー技術への投資を続けていることを考えると、日本のトランジションファイナンス戦略は、日本と東南アジア諸国を狭い技術経路に追いやり、これらの国々が、現在進行形で進んでいる世界的な再エネ価格の低下による恩恵を受け取ることを、妨げることになるだろう。

 

 しかし、日本はこの戦略を成功させるために、ASEAN諸国全体で積極的に推進し続けている。フィリピン、インドネシア、ベトナム、マレーシア等の石炭エネルギー依存国(coal-heavy countries)と協定を締結し、これらの国々が長期間にわたって、より安価で、より手ごろな価格のクリーンエネルギーを求める機会を妨げている。

 

 これらの協定は、日本が新たに創り出した「アジア・ゼロエミッション・コミュニティ」計画の一部として署名された。同計画は、バイオマス、水素、アンモニア混焼、カーボン回収利用貯留(CCUS)のような、いずれも議論を抱えて問題含みとされる排出削減ソリューションの基準の開発に焦点を合わせることで、「協調的脱炭素化(cooperative decarbonization)」を促進することを目的としている。

 

 各国の政策立案者や、エネルギー専門家、金融界は、今年の国際的な政策決定の場に影響を与える機会を抱える地域(日本や東南アジア諸国)が、悲惨な道を辿ることを避けるために、介在することがもっとも求められている。

 

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(注1)Just Energy Transition Partnerships(JETP):COP26で先進国が新興国・途上国の脱炭素のクリーンエネルギー源への移行取り組みを支援するスキームとして立ち上がった。最初に南アフリカに対する支援を行い、アジアではインドネシア、ベトナム等が対象。今後3~5年間で85億㌦を動員する予定。

(注2)均等化発電原価(levelized cost of energy):発電にかかるコストを明示する指標。発電所の建設等の初期費用、運転・維持費用、設備廃棄費用すべてを合計し、稼働期間中の発電量(生涯発電量)で割って算出する。

 

★本記事は、「Environmental Finance」に最初に掲載されたものを、著者の了解を得て、日本語に翻訳して掲載しました。

 

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Kurtキャプチャ

Kurt Metzger(カート・メッツガー)氏

 シンガポール拠点の社会的企業Asia Research and Engagement(ARE)のEnergy Transition Platformの責任者。1980年代半ばからサステナブルエナジー課題に取り組み、米国、アジアで再エネ事業やスタートアップファンド等に多数関与してきた経験を持つ。