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プーチン大統領、サハリン2開発で、事業資産の無償移管を参加企業に命じる大統領令。三井物産、三菱商事、対応迫られる。日本政府の対ロ・エネルギー政策の転換も求められる(各紙)

2022-07-01 13:35:57

Sakhalin2キャプチャ

  各紙の報道によると、ロシアのプーチン大統領は6月30日、サハリンで開発中の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」の運営をロシアが新たに設立する法人に移管し、現在の運営会社の資産を無償譲渡するよう命じる大統領令に署名した。ガスプロムを除く株主は1カ月以内に出資分に応じた株式の譲渡に同意するかどうかをロシア政府に通知する必要がある。同事業に参加している三井物産、三菱商事は対応を迫られる形だ。

 (写真は、サハリン2の開発地区で操業する天然ガス開発のリグ)

 報道では、大統領令は冒頭で「ロシアに対する制限的措置を科すことを目的とした、非友好的かつ国際法に反する行為に関連し、ロシアの国益を守る」とし、ウクライナ侵攻に対する西側諸国のロシアへの経済制裁に対する対抗措置であることを明確にしている。

 サハリン2の運営会社のサハリンエナジーには、ロシア国営ガス会社ガスプロムが約50%、英シェルが約27.5%、三井物産が12.5%、三菱商事が10%を出資していた。このうち、主要オペレーターとなってきたシェルはロシアのウクライナ侵攻後、撤退を決めている。今回のプーチン氏の大統領令は、残る日本企業2社に対応を迫る形だ。https://rief-jp.org/ct10/122915

 サハリン2からの液化天然ガス(LNG)の生産量は年1000万㌧で、このうち日本向けは約600万㌧。日本のLNG輸入量の約1割を占める。ロシアからの天然ガス輸入問題では、ドイツがノルドストリーム2の稼働を中止し、運営会社は破綻した。ただ、2011~12年に完成したノルドストリーム1は現在も正常に運営されている。

 今回の大統領令によると、新たな運営主体としてロシア側が設立する有限法人を指定。三井物産や三菱商事が出資する現在の運営会社のサハリンエナジーから、すべての資産や従業員、権利関係を引き継がせるとしている。三井物産等は新法人の株主に参加できるが、その際には、ロシア当局が示す条件への同意が前提という。条件の内容は不明だが、対ロ経済制裁等の除外等を求めるものだと、日本政府の方針に反することになる。

 サハリン2は6月30日時点でもLNGを生産しており、日本への輸出も続いている。日本の電力会社や都市ガスはサハリンエナジーと10年単位のLNG購入契約を結んでいるが、契約破綻のリスクも高まっている。三井物産は22年3月期にサハリン2を含むLNGなどで純資産の減額を806億円、減損損失など209億円を計上し、三菱商事もサハリン2で減額500億円を計上している。

 サハリン2については、シェルが2月末に撤退を表明した後、インドのエネルギー企業連合と権益の売却交渉を進めているとされてきた。シェルの資産もロシアが設立する新会社に移管されることになるので、同交渉自体、宙に浮く可能性がある。


 同事業自体への日本企業の参加は、民間主導の形だが、事実上、日本の国策事業として推進されてきた。ロシア側が理由づける経済制裁への対応は、政府ベースのものであり、日本企業の判断では変更できない。日本政府はウクライナ制裁に加わる一方で、ロシアからのエネルギー権益の維持のため、ノルドストリーム2を中断したドイツのような強硬措置は控えてきた。https://rief-jp.org/ct5/123114

 しかし、そのドイツでは、前述のように、ノルドストリーム1は正常にロシアからの天然ガスを供給しており、ロシア側もドイツ側も、”硬軟”使い分ける対応をとっている。ノルドストリーム事業とサハリン事業の対比は、日本政府の対ロ外交力の乏しさを浮き上がらせているともいえる。

https://www.reuters.com/business/energy/russia-will-replace-sakhalin-2-project-operator-with-new-firm-2022-06-30/

https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-russia-gas/russian-gas-flows-to-europe-via-nord-stream-and-ukraine-steady-idINL1N2YF0E5