HOME |国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)。森林認証をめぐる環境監査・認証で調査報告。340以上の認証付与企業が不正行為等の懸念対象に。うち約50社は刑事罰。民間認証の限界(RIEF) |

国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)。森林認証をめぐる環境監査・認証で調査報告。340以上の認証付与企業が不正行為等の懸念対象に。うち約50社は刑事罰。民間認証の限界(RIEF)

2023-04-13 00:08:07

 

 国際調査報道ジャーナリスト連合(International Consortium of Investigative Journalists:ICIJ)とグローバルな39の協力メディアは、森林伐採や森林製品等での環境監査や認証事業の妥当性を調査した報告書を公表した。それによると、1998年以降で森林製品の認証を受けた340以上の企業が、環境団体や地域コミュニティ、政府当局等から環境犯罪、不正行為等で非難を受けている。そのうち約50社はサステナブル認証を取得していたが、政府から罰金を科せられるか、有罪等に処せられたことがわかった。

 

 ICIJは世界の富裕層や権力者等が、自らの資産をタックスヘイブンに隠し持っていることを示す機密文書を暴いた「パナマ文書」報道等で知られる。今回の調査報道は「Deforestation Inc.,(森林破壊会社)」と題した内容。50カ国の48の森林等の環境認証事業者、監査会社等を対象とした。

 

 調査にはICIJとともに、延べ140人のジャーナリストが加わり、フィンランドの保護林での森林伐採、韓国での皆伐地域、カナダ・ブリティッシュコロンビア州での先住民地区の森林伐採等の具体的案件を検証した。また森林認証で「権威」があるとされる森林管理協議会(FSC)、森林認証プログラム(PEFC)、持続可能なパーム油に関する円卓会議(RSPO)等に対してもインタビュー等を実施、認証を巡る訴訟やデータ改竄、情報漏洩等の問題にも立ち入った。

 

ICIJ001キャプチャ

 

 報告書は調査結果から、森林開発企業等が環境監査・認証制度の不備を利用することで、自分たちの製品や活動が、環境基準や、労働法、人権に適合しているという、誤った情報を株主や顧客に提供する広告として使っていることが浮き上がったと指摘している。誤情報が市場や消費者等に及ぼすダメージは膨大で、長期継続する、と警告している。調査に参加した森林製品産業コンサルタントで元仏環境監査人のGrégoire Jacob氏は「われわれが準拠している一般的な認証に関する、すべてのシステムが、機能していないということだ」と厳しく結論づけている。

 

 環境認証が不正に利用された代表的な事例として紹介されている一例は、2022年4月に、トップクラスの環境監査企業が、オーストリアのコングロマリット企業によるルーマニアの森林から製造した木材製品に、環境監査の認証を付与したケースだ。認証はルーマニアの環境基準に基づいていたが、認証付与の数か月後に、ルーマニア当局はオーストリアの複数の巨大森林資源供給会社に対して、不正伐採の疑いで調査を開始する事態となった。

 

 米国、イタリア、ニュージーランドにおいて、ヨットの甲板を製造する企業とその木材製品の貿易企業は、素材となる輸入チーク材が2021年に民主的な選挙で選ばれた政府をク―データで倒した軍事政権の財源となっていたことが判明したにもかかわらず、商品のマーケティング素材としてミャンマーの商品にグリーンラベルを付与し続けていた。

 

 フィンランドで2つの森林開発企業の森林マネジメントをモニタリングしている環境監査企業は自らの監査報告書で、対象顧客となる森林開発企業が、生物多様性保護地区の森林を伐採したことで裁判所から罰金を科されたことを記載していなかった。さらに罰金賦課後も、これらの企業に対してサステナビリティ認証を付与し続けていた。

 

ICIJ002キャプチャ

 

 世界最大級の熱帯林と、その他の木材製品の輸出国であるインドネシアでは、西ジャワ州のボゴールの市民団体で構成する「Independent Forest Monitoring Network (JPIK)」の報告として過去10年にわたって、当地の環境監査会社が少なくとも160社の企業による環境破壊を見過ごしてきた、と指摘した。JPIKと連携した現地メディアの「Tempo」の調査によると、JPIKが確認した環境破壊行為には偽装許可、不法伐採、野生の象や虎等の生息環境の破壊等を示している。

 

 当該の環境監査会社は、時には、こうした環境破壊が起きているのを見つけても、対象企業に対して、是正措置をとるよう要請しなかったとしている。監査会社がこうした厳格な対応をとらないことから、同社から監査認証を得た企業は、環境破壊由来の懸念のある製品を含めて、同地の環境破壊の現場からほど遠い、欧州や他の市場へ輸出してきた。

 

 環境監査事業は、グローバルに展開する2000億㌦(約27兆円)の市場規模があるとされる、民間主導の試験、調査、認証産業の一部となっている。現状では環境監査だけで、ざっと100億㌦(約1兆3000億円)とされる。ただ、企業の財務報告書を監査する財務監査とは異なり、ほとんど法的規制はなく、ガイドライン等を定めている国も少数、監査人の技量を問う資格審査もない。基本は自主的な市場だ。監査結果が実態を反映していなかったとしても、監査会社が責任を問われるケースもまずない。

 

 ただ、企業の財務監査を担当するKPMGやPwCといった大手財務監査法人も業務に参入しているほか、専業のスイスのSGS S.A.(Société Générale de Surveillance S.A.)のような大手企業から、国ごとの小規模な監査会社まで多様にある。いずれも基本は森林や環境関連の業務を手掛ける企業からの委託を受けて、事業のリスク評価や、活動設備の調査、インタビュー等を行い、民間の評価機関が公表する自主的な環境基準・認証等への適合性の評価を付与する業務としている例が多い。

 

 ICIJの9カ月の調査期間の間に、対象となった国、企業、監査・認証機関等のデータから、340社以上の森林製品の認証企業が違法伐採や不正処分等の環境犯罪に関与してきた懸念が指摘され、そのうち約50社は当局から罰金や有罪判決を受けた。ICIJは「これらの数字はほとんど過小に見積もられている。なぜなら多くの政府の環境犯罪のデータベースは企業がどのような犯罪を行ったかを明確に示していないためだ」と説明している。

 

違法伐採の丸太を調査するルーマニアの当局者
違法伐採の丸太を調査するルーマニアの当局者

 

 違法伐採等を含めた監査・認証付き森林製品が継続的に市場化されてきた結果、1990年以降に地球上から消失した森林面積はEUの総面積(434万3000㎢)よりも大きい規模としている。「多くの森林が疑わしい環境監査や環境認証のラベルを付して消えていった」(報告書)と指摘している。

 

 報告書は森林の環境認証制度についても調査を行った。違法伐採等とは別に、森林等の自然資源の持続可能な利用であるとの認証を付与する森林管理協議会(FSC)、森林認証プログラム(PEFC)が1990年代に設立されている。民間団体が提供するサステイナブルな森林認証の取得も法的義務ではない。だが、違法伐採の森林製品と区別する形で、持続可能な森林製品との評価を提供する認証やラベルを得ることは、森林関連事業にとって、今や不可欠になっている。両団体だけで世界中の7億9000万エーカー以上の森林に「サステナブル」の認証を付与してきたという。

 

 報告書は同認証を扱う森林監査人へのインタビューも行っている。それによると、多くの企業が「グリーン認証」を取得するための支払いを増やすにつれ、認証機関は(認証を得やすいように)基準を緩めていったという。その結果、認証のプロセスは次第に効力を低下させたとも説明している。報告書はこうした指摘に反論するFSCやPEFCの言い分も載せている。

 

 ESCの認証付与を評価する監査会社の認定業務を担当する独「Assurance Services International (ASI)」によると、過去5年間に、88件のFSC認定を得ていた監査会社の認定継続を実施したと回答。認証・認定機関による監査会社へのガバナンスが効いていると強調している。

 

 ただ、本サイト(環境金融研究機構)がこれまでに指摘したように、グリーン認証取得を不正に行う企業も少なくない。FSCは2022年10月、日本のバイオマス発電向けに大量の木質ペレットを輸出しているベトナムの事業者がFSC認証を偽装していたことが確認されたとして、同社をFSC認証制度から排除した。本サイトが認証偽装の懸念を指摘してから、FSCが確認するまで約2年半の時間を要した。https://rief-jp.org/ct10/129368?ctid=

 

FSCの偽装認証を付した木質バイオマス燃料を日本のバイオマス発電所用に大量輸出してきたベトナム企業
FSCの偽装認証を付した木質バイオマス燃料を日本のバイオマス発電所用に大量輸出してきたベトナム企業

 

 日本政府は、認証偽装の木質ペレットを燃料として発電したバイオマス発電電力を固定価格買取制度(FIT)で高い価格で買い上げてきたにもかかわらず、過払い金の返還要請等は行っていない。民間の認証制度を利用して国の公的制度を作りながら、国として、十分な制度運営ができない「お粗末な姿」を露呈している。https://rief-jp.org/ct5/129862?ctid=

 

 環境ラベルやグリーンラベルが、実態を反映していないケースがあることに対して、「グリーンウォッシュ」懸念の高まりとともに、現行の民間任せの体制から、ルールの共通化、環境監査会社の信頼性担保措置の実施等の検討も進み始めている。EUの欧州委員会は「グリーンウォッシュ規制」の一環としてこれらの民間環境監査・認証制度のルール化を検討しているという。監査会社の信頼性と独立性を担保する仕組みや、虚偽の環境情報による認証の取得等への罰金の付与等もテーマになっている。

 

 森林認証だけではない。グリーンボンド等のESG債市場でも、セカンドオピニオン業者に対する明確な規制や共通ルール化は整備されていない。業者によっては、信用格付と同様の格付を付与するところもあるが、日本の同業者は、5段階のESG債格付制度を導入しながら、すべての格付を最上位で評価するという制度の形骸化を自ら行っている。

 

 こうした市場実態になってしまうのも、客観性のある制度設計がないまま、ESGブームに便乗したビジネスが横行し、各国政府も安易に民間制度を活用してきたためといえる。民間・市場の柔軟な対応と、市場原理の活発な活動を継続させるためには、環境&サステナビリティの認証・監査の分野においても、基盤となる共通ルール、モニタリング、事業者の水準・能力の確保等については、公的な関与が不可欠な段階に入っている。

                     (藤井良広)

https://www.icij.org/investigations/deforestation-inc/auditors-green-labels-sustainability-environmental-harm/