フランス上院、ファストファッション法案を可決。下院の規制法案を大幅修正、「SheIn」や「Tem」等の中国系企業をターゲット化。9月にも両院合同委員会を設けて調整へ（RIEF）
2025-06-11 13:00:14
（写真は、廃棄されたファストファッション衣料品の山＝「Stop Fast-Fashion Coalition」のサイトから）
フランスの上院（元老院）は10日、ショップや製造工場で働く従業員の人権問題や廃棄製品の環境汚染等の問題が指摘される「ファストファッション」の規制法案を、賛成337、反対1で可決した。法案はすでに下院を通過しているが、上院でも大幅な法案修正が加えられたことから、両院での合同委員会において9月から調整のための共同草案を作成し、最終的な法案成立を目指すとことになる。
法案は「Bill No.2129（いわゆる（ファストファッション法案）」。昨年1月30日に下院で提案され、同3月に可決、上院に送付されていた。法案は、第1条で、消費者へのファストファッションの（廃棄による）環境影響に関する情報提供と意識向上を強化することを目的とするとし、第2条では衣料品、家庭用リネン、靴などの製品の拡大生産者責任（EPR）制度の強化をうたい、第3条でファストファッションに関連する企業や製品の広告を禁止する、としている。
上院での審議では、下院で了承された広告禁止措置や、罰金制度等を大幅に改変する修正が施された。たとえば、同製品をエコラベルに連動させるとした対応策を破棄し、ECプラットフォームの「持続可能性」と「商業慣行」に基づいて懲罰措置を強化するという罰則規定も消えていた。広告禁止措置は経済的自由を侵害する可能性があるとの理由で、インフルエンサーによる広告禁止に限定される。https://rief-jp.org/ct12/157757
法案修正では、ファストファッション製品を意味する「ウルトラ」ファストファッションと、フランス等の伝統的な衣料品ブランドとを区別し、後者を「クラシック」ファストファッションと位置付け、法規制の対象外とする。主な規制措置は、前者に「ウルトラ」ファッションに課せられる。ただ、環境団体等からは、「実質的には両ファッションによる環境汚染等は変わりなく、法の趣旨を歪める」との批判が出ている。
上院で法案の趣旨が、大幅に修正されたのは、上院に多い右派系議員の影響とされる。法案のターゲットが、中国系のShein（シーイン）やTemu （テム）などのような海外ブランドに絞られたことで、中国自体の反発も予想されそうだ。 Zara（ザラ）、H&M（ヘネス・アンド・マウリッツ）、Kiabi（キアビ）などのフランスおよび欧州のブランドは「クラシック」扱いで対象外となるため、事実上の「対中法案」となっている。
規制の対象となるファストファッション製品は、短い商品サイクルで、若者たちの消費者向けに生産・販売される衣料品や身の回りの製品を含む。フランス環境エネルギー管理庁によると、フランスでは年間1人当たり約48点の衣料品が流通し、1秒当たり35点が廃棄されているという。製品の生産現場での過重労働等の人権問題も指摘されるほか、廃棄物増大による環境汚染がフランス以外の国でも問題化している。
上下両院は同法案に対する双方の修正内容を調整するため、両院合同委員会によって共同草案を作成し、最終的な法案成立を目指すとしている。 また、法案の対象が同国に限らず、EU市場全体に影響を及ぼすことから、欧州委員会にも通知し、同法案とEU法との整合性も図るとしている。
上院の地域計画・持続可能な開発委員会委員長、ジャン・フランソワ・ロンジョ（Jean-Francois Longeot）氏は、「（上院による）明確化により、環境、社会、経済の現実を無視する企業、特に シーインとテムを対象とすることが可能になり、欧州のプレタポルテ業界に不利益を与えることはなくなる」と、あからさまに「対中法案」であることを強調している。
メディアによると、シーインは上院での投票結果を受けて声明を発表し、「Shein はファストファッション企業ではない。（われわれのビジネスモデルは）問題の一部ではなく、解決策の一部である」と主張した。
低価格商品市場での激烈な競争で、フランスのファストファッション企業は中国製品との競争で不利な立場に立っている。同国のファストファッションブランドのJennyferは、4月末に清算手続きに入り、NafNaf は5月から破産手続き中という。
Research Institute for Environmental Finance