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金融庁の「脱炭素金融機関取り組み検討会」。投融資先のfinanced emissionsの扱いで「削減貢献量(Scope4)」重視打ち出す。Scope3を「薄める効果」か「削減促進か」(RIEF)

2023-05-25 00:52:21

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 金融機関の脱炭素化への取り組みに際し、投融資先の排出量を把握する「financed emissions」に加え、企業が他社の排出削減への貢献分を評価する「削減貢献量」(avoided emission)を重視する考えが金融庁の検討会で示された。同概念は温室効果ガス(GHG)の排出量Scope1~3とは別に「Scope4」とも呼ばれる。GHGプロトコルや欧州の資産運用機関等もそうした「貢献量」のルール化を検討している。また金融機関による企業の脱炭素化促進のためのエンゲージメントとして、複数の金融機関が投資等の直接金融の提供に際して共通行動をとる「協働エンゲージメント」も提唱した。

 

 検討をまとめたのは、金融庁の「脱炭素等に向けた金融機関等の取組みに関する検討会」。24日にまとめた報告書案で、企業の脱炭素への取り組みに向けて金融機関が果たすべき役割等を整理した。

 

 このうち、ネットゼロにコミットする金融機関が気候変動対応をとる場合の論点として、国際的に求められる金融機関のScope3(financed emissions)の開示に加えて、「様々な指標を総合して金融機関と企業の移行を捉えるべき」と指摘して、「削減貢献量」(avoided emission)をあげた。

 

 同概念は企業、金融機関が気候変動対応で開示を求められるGHG排出量のScope1~3とは別に、「投融資先の企業が排出削減を実現する技術や製品を開発・製造し、それらの販売を通じた他社の削減への貢献を評価する」もので、そうした製品や技術、サービス等がない場合と比べた経済全体への削減量の貢献分を評価する概念だ。https://rief-jp.org/ct8/125897?ctid=

 

 今月になって、欧州のESG投資を重視する資産運用会社11社が、投資先企業が取引先やサプライチェーンを含めて脱炭素を促進するため、同貢献量(「排出回避行動」とも呼ぶ)の情報を集約するグローバル共通データベース構築を共同提案したほか、Scope1~3の算定基準を設定しているGHGプロトコルも基準改定作業において、検討対象に加えているとされる。

 

 金融庁検討会は「削減貢献量」について、「金融機関の開示において利活用が期待される」とした。投融資先の排出量を把握する際、直接のScope1~2の把握に加えて、たとえば、電気自動車(EV)や省エネ家電等の販売、さらには再エネ発電等を通じた削減貢献量を加えて評価することになる。ただ、この場合、現行のScope3のカテゴリー11(販売した製品の使用)との関係をどう扱うか、また「貢献量」をどう測定するかといった課題がある。

 

 MirobaやRobeco等の欧州の資産運用機関が提唱している「削減貢献量」のルール化では、投資先のセクター別の「削減貢献要因」のリスト化と、それらの要因を使って企業が削減を回避・貢献したGHG排出量の開示データを、それぞれデータベース化することを目指している。https://rief-jp.org/ct6/135608?ctid=

 

 一方、GHGプロトコルが現在取り組んでいる「プロトコル改定」作業では、再エネ等の利用により、CO2削減を証明する再エネ証書(REC)や自主的なカーボンクレジット(VCM)等によるGHGの削減・吸収等の算定量を、削減貢献量として各Scope排出量により詳細に反映させることが論点の一つになっているとみられる。https://rief-jp.org/ct4/132926?ctid=

 

 Scope3のカテゴリー11(販売した製品の使用)では、他社の製品・サービス使用に伴う排出量の計上を求めている。たとえば企業が使用する燃料からの排出量は同カテゴリーでScope3にカウントされ、仮に燃料を石炭から天然ガスに切り替えた場合は、Scope3排出量の削減として表される。これを「削減貢献量」としてエネルギー供給企業の排出量から差し引くと、排出量全体では二重計上になる恐れがある。

 

 この点で金融庁検討会は、「カテゴリー11」との関係については「留意が必要」とだけ指摘している。さらに検討会は、「削減貢献量」にとどまらず、「金融機関の(企業への)エンゲージメント活動に関する指標として、融 資先のSBT認証の取得状況等も有効であると考えられる」とした。financed emissionsによる評価以外に評価項目を広げることで、多排出産業・企業の評価がfinanced emissionsに集約されないようにする思いもあるようだ。

 

 金融機関による企業の脱炭素促進の視点としては、「ダイベ ストメント(投資引き揚げ)」よりもエンゲージメント(対話)活動を重視するよう求めている。「仮に、多排出産業への貸出等の資産を、気候変動問題に積極的でない投資家・ファンド 等に売却したとしても、実体経済全体の脱炭素化や機会実現・リスク低減にはつながらない」とし、「まずはエンゲージメントを行っていくことが重要」とした。

 

 そのエンゲージメント活動では、「1社に対して複数の金融機関が投融資を行っているケースが多いことから、エンゲージメントをさ らに効果的に促進していくため、例えば直接金融を中心に協働エンゲージメントも有効であると考えられる」と提案した。この点は、検討会がベースとするグラスゴーネットゼロ金融連合(GFANZ)での金融機関の共同取り組みにおいて、各国独禁法との関係をめぐる論議が顕在化しているが、検討会は「協働エンゲージメントに関する独禁法等の規制について緩和の是非も含めた議論を行っていくべきとの指摘もあった」と、独禁法の適用除外を求める姿勢を打ち出した。

 

 トランジションファイナンスについては、日本政府が打ち出す「日本版トランジションファイナンス」をめぐり、欧米諸国の慎重な姿勢を示す等、対照的な構図になっている。この点を意識してか、「欧米の投資家等からも国際的にも『移行』の実効性について的確な理解を得られ、トランジション・ファイナンスが『グリー ン(脱炭素)化を単に遅らせるもの』との誤解を受けることがないよう、移行計画が、地域・産業・企業特 性などを踏まえた実現可能性と、パリ協定に沿った野心性の両方を兼ね備えていることが重要」との文言を加えた。

 

 検討会は多様な側面から金融機関の脱炭素促進行動を求める中で、それらの行動の基本となる企業のGHG排出量データの整備を含め、金融規制・監督当局の役割には、踏み込んだ提言をほとんどしていない。たとえば、排出量データについては「重要性が高まっており、グローバルな充実を図っていく必要」とする一方で、「下請けとなる中小企業のデータはサプライチェーンの全体像を捉えるために重要だが、様式・算出方法が統一されていない」と述べるだけで、行政による算出方法等の標準化取り組みの遅れには言及していない。

 

 また脱炭素化へのパスウェイ(経路)に資するカーボンバジェットの配分については、「国際エネルギー機関(IEA)等の試算では、国・産業 ごとの試算があるが、国ごとの産業別バジェットは示されていない」と述べているが、そうした国単位の産業別バジェットを試算するべき行政の役割については「難しい」とするだけだ。金融庁の検討会だが、有識者で構成しているはずだから、規制・監督当局が脱炭素に貢献する役割にも、踏み込むべきだろう。

 

 同検討会のメンバーは次の通り。

 座長:根本直子・早稲田大学大学院経営管理研究科教授

メンバー:

・天田真樹・三菱UFJ銀行経営企画部サステナビリティ企画室長

・井上忠幸・IHI財務部資金会計グループグループ長

・岡崎健次郎・第一生命責任投資推進部長

・官澤太郎・千葉銀行経営企画部長

・黒﨑美穂・気候変動・ESG アナリスト

・佐藤勉・株式会社国際協力銀行地球環境アドバイザー

・高村ゆかり・東京大学未来ビジョン研究センター教授

・長谷川雅巳・日本経済団体連合会環境エネルギー本部長

・藤井健司・グローバルリスクアンドガバナンス合同会社代表

・村上芽・日本総合研究所創発戦略センターシニアスペ シャリスト

・吉高まり・三菱UFJリサーチ&コンサルティング フェロー

・吉田博彦・日本政策投資銀行経営企画部サステナビリティ経営室長

https://www.fsa.go.jp/singi/decarbonization/siryou/20230524.html

https://www.fsa.go.jp/singi/decarbonization/siryou/20230524/01.pdf

 

                     (藤井良広)