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第10回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑤国際賞。スロベニア共和国。初のソブリン・ソーシャルボンドを、日本のサムライ債市場で発行(RIEF)

2025-02-09 22:22:18

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写真は、サステナブルファイナンス大賞の授賞式で国際賞の表彰を受けるズパン氏㊥と、アドレシッチ氏㊧)。㊨端はRIEF代表理事の藤井)

 

 第10回サステナブルファイナンス大賞の国際賞は、初のソブリンソーシャルボンドを日本のサムライ債(円建て外債)市場で発行した欧州のスロベニア共和国に贈呈しました。サムライ債市場でのESG債発行は定着しつつありますが、ソブリンのソーシャルサムライ債の発行は今回が初めてであると同時に、グローバル市場でもソブリン債としての発行は初めて。同国財務省のフロントオフィス部長、マヤ・プラプロトニック・ズパン(Maja Praprotnik Zupan)氏、および債務取引管理部門部長、ガスパー・アドレシッチ(Gašper Adlešič)氏に、サムライ債市場での発行を決めた背景などを聞きました。

 

ーー欧州のスロベニアが、初のソブリン債ソーシャルボンドの発行に際して、ユーロ債市場や他のグローバル市場、国内債券市場ではなく、日本のサムライ債市場を選んだ理由は何でしょうか?

 

  ズパン氏 :われわれの主要市場はユーロ債市場です。同市場で流動性のあるイールドカーブを構築するために、定期的にベンチマーク債を発行しています。しかし、債券発行の多様化は極めて重要です。われわれも、以前に米ドル市場にアクセスしたこともあります。日本市場についても、われわれは15年以上にわたり市場の動きを観察し、主要な金融機関や投資家との関係を維持してきました。

 

㊧がズパン氏㊨がアドレシッチ氏
㊧がズパン氏㊨がアドレシッチ氏

 

 サムライ債市場での発行は、ユーロ債市場での発行よりも多少コストがかかりましたが、発行規模の柔軟性は私たちの借入ニーズに合致していました。通常、ユーロ債市場での国債発行は10億ユーロからとなります。しかし、サムライ債市場では3億ユーロ相当の小規模な債券発行が可能です。わが国の予算上、グリーン・ソーシャル事業の支出額は限られており、小規模でも発行が可能なサムライ債市場で発行することで、ソーシャルボンドとしての債券組成が可能になりました。投資家の多様化と、ソーシャルボンドの組成、という二つの要因が、サムライ債市場への参入を決断する要因でした。

 

ーースロベニア初のサムライ債となるソーシャルボンドに対する日本の投資家の反応はいかがでしたか?

 

  アドレシッチ氏:この債券への投資家の反応は好評でした。アセットマネージャー、銀行、生命保険会社など、多様な投資家層から注目を集めました。日本だけでなく、海外の投資家からも需要があり、注文は堅調でした。

 

   ズパン氏:その中でも、日本からの投資家が最も多くを占めました。多くの投資家がESGラベル、特に社会的な要素を評価してくれました。同ボンドは彼らの投資戦略と一致しました。取引はスムーズに進み、投資家の反応もポジティブでした。投資家の需要は3年物に集中しており、われわれの希望とも一致し、バランスの取れた発行を実現することができました。https://www.gov.si/en/news/2024-08-29-the-republic-of-slovenia-jpy50-0bn-inaugural-dual-tranche-social-samurai-bond-transaction/

 

 ーー債券の資金使途は、どのような社会プロジェクトに充当されるのですか?

 

 ズパン氏   :   スロベニア政府は2021年に「サステナビリティ・ボンド・フレームワーク」を制定し、2023年に更新しています。このフレームワークは、グリーンプロジェクトとソーシャルプロジェクトの両方を対象としていますが、今回の発行による資金使途は、医療、教育、社会包摂に割り当てられました。さらに、そのかなりの部分が、わが国にいるウクライナ難民の支援に充てられました。

 

   アドレシッチ氏   :  資金使途先の具体的なプロジェクトには、学校給食への助成、病院、幼稚園、高齢者介護施設の改修なども含まれています。

 

――スロベニア政府の債務戦略において、社会支出分野への資金配分は一定の割合が決まっていますか?

 

マヤ氏
ズパン氏

 

 ズパン氏    :   いいえ。資金配分の割合は利用可能なプロジェクトがあるかどうかで決まります。 スロベニアのサステナビリティ戦略は国連のSDGsに沿っており、予算支出に基づいてサステナビリティ債を発行しています。 現在、われわれはソブリンのサステナビリティ・リンク債(SLB)の発行も検討しています。SLBの場合、クーポンが段階的に引き上げられたり引き下げたりするなど、投資家に対して、潜在的な金銭的インセンティブが伴う特定のサステナビリティKPIに結びついており、資金使途債(UoP)とは異なります。

 

ーーソブリンSLBを発行する予定があるのですか?

 

   ズパン氏  : はい。2025年中にソブリンSLBを発行する計画をすでに発表しています。おそらくスロベニアがEUで初めてのソブリンSLB発行国になるでしょう。フレームワークの作成はほぼ最終段階にあり、現在、セカンドオピニオン(SOP)機関と協議しています。今後、投資家への働きかけとマーケティングを行った後に発行する予定です。

 

 アドレシッチ氏:多くの企業がSLBを発行していますが、ソブリン債のSL B発行はまだグローバルベースでも数が少ない。これまでにソブリンSLBを発行した国は、南米のウルグアイ、チリ、アジアのタイなどです。欧州の国によるソブリンSLBの発行はまだありません。

 

ーースロベニアが将来的にサムライSLB債を発行する可能性はありますか?

 

 ズパン氏    :   われわれは今後も、サムライ債市場での存在感を維持するため、1年または2年に1度くらいの頻度で、サムライ債を発行する可能性があります。その際に発行の形式をサムライSLBとすることは可能です。現在、作成中のSLBのフレームワークでは複数通貨(マルチカレンシー)をカバーしており、市場の状況や投資家の需要によっては、サムライSLBも選択肢のひとつとなり得ます。

 

  アドレシッチ氏 : サムライSLBを発行するかどうかを判断するうえでは、投資家の需要がカギになります。ESGに重点を置く投資家はグリーンボンドやソーシャルボンドを積極的に買い求めていますが、日本の機関投資家の戦略に、サムライSLBがどのように適合するかは依然として不透明です。

 

アドレシッチ氏
アドレシッチ氏

 

ーースロベニアはこれまで何件のESGソブリン債を発行しましたか?

 

   ズパン氏    :   これまでに、グリーンプロジェクトとソーシャルプロジェクトの両方を対象とするソブリン・サステナビリティ債を2件、合計25億ユーロ分を発行しています。 同債券の資金使途のグリーンプロジェクトは主に、鉄道の電化や車両のアップグレードといったクリーンな交通手段に焦点を当てています。https://rief-jp.org/ct4/115730

 

ーーESGソブリン債に対するアプローチにおいて、日本と欧州の投資家では違いがありますか?

 

  ズパン氏 :    欧州の投資家は、グリーン資産への特定の配分や広範なESG報告を求める規制環境の中で資産運用をしており、サステナブルな金融商品への強い需要を創り出しています。これに対して、日本の投資家は、現在のところESG債の流通市場での流動性についてはそれほど重点を置いていないようですが、ESG投資への関心は高まっています。日本の投資家の中にも、ウクライナ難民支援に関連した資金配分を求める声も聞かれました。

 

 アドレシッチ氏  : 欧州では、グリーンウォッシングに対抗するためにESG報告基準が強化されており、こうした規制の動きが、企業および国債発行体の双方に影響を与えています。日本のESGへの関心と展開は進化していますが、欧州と比べると、規制が主導しているというわけではないように思います。

 

ーースロベニアは今後も日本の投資家と関わり続けるのでしょうか?

 

   ズパン氏   :   はい。直近では2月13日に日本で、スロベニアと日本との投資会議を予定しています。スロベニアから財務大臣とスロベニア企業が参加します。このイベントでは、スロベニアが発行するソブリン債と、日本の民間企業による対外直接投資機会の両方を取り上げます。

 

――スロベニアが実施しているサステナビリティ戦略での特徴で、付け加えたいことはありますか?

 

  ズパン氏   スロベニアは国全体の環境保全に非常に力を入れています。国内に広大な自然保護区域や生物多様性に関するイニシアティブを設けています。投資家層も次第に、生物多様性への関心を高めており、われわれはこうした生物多様性分野への関心を、今後のサステナビリティ関連のフレームワークに組み入れることを検討しています。生物多様性の要素は、現在作業中のSLBの枠組みには含まれていませんが、われわれは、その重要性が高まっていることを認識しており、将来のESG債発行において組み入れることを検討していく考えです。

                    (聞き手は  藤井良広)

                 English translation of Q&A⇒