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2035年度の日本政府のNDC提案を策定する環境・経済産業両省の審議会会合で、環境省が審議会委員の削減目標を示す意見書の受け取りを「拒否」。役所のシナリオ重視で(RIEF)

2024-11-29 21:03:12

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写真は、11月25日に開いた中央環境審議会と産業構造審議会の合同会合の様子)

 

  各紙の報道によると、2035年度の温室効果ガス(GHG)排出量の日本政府のNDC削減目標を設定する環境・経済産業両省による審議会において、実務家の委員が書面での意見表明を要請したところ、環境省から同申し出を止めたとられたという。当該の委員は「こうしたやり方で正しい方向性の政策が作れるのか。改めてこの会議の在り方を考えたい」と指摘したと、朝日新聞が報じた。

 

 同紙によると、問題の審議会会合は同省の中央環境審議会と経済産業省の産業構造審議会が10月末に開催した合同会合。環境省の審議会委員であり、再エネ電力を供給する新電力「ハチドリ電力」社長の池田将太氏が、同日の会合を欠席する際、代わりに意見書を提出したが、環境省の役人から止められたという。同氏はこの経緯について、今月25日に開いた同会合で明らかにした。https://rief-jp.org/ct8/150898?ctid=71

 

 同氏によると、意見書は日本政府が国連に提出する2035年度の削減目標を「2013年度比75%減、電源構成における再エネ比率60%」とするよう求める内容だったという。池田氏は10月の審議会の前日にメールで当日の審議会の欠席とともに、意見書を提出した。メールで送られてきた意見書を読んだ環境省の役人は、返信として電話で「(メールでの意見の)内容が(当日の会合の)議題と合わないので次回にさせてほしい」と求めたという。

 

 同省の審議会に限らず、役所の審議会で欠席する委員が意見書を出すことは一般的に行われている。このため、池田氏は同紙の取材に対して「(意見書の提出を断られたのは、自分の意見が)役所にとって都合が悪かったのかと思ってしまう。同審議会が忌憚のない意見を出して議論する場になっておらず、こうしたプロセスで進むと野心的な目標設定ができなくなる」と話したという。

 

記者会見で「意見書拒否」の理由を説明する浅尾環境相(朝日新聞から)
記者会見で「意見書拒否」の理由を説明する浅尾環境相(朝日新聞から)

 

 池田氏の指摘に対して、浅尾慶一郎環境相は29日の閣議後会見で、「(担当者に確認したところ、池田氏の意見書の内容は10月末の会議の)議題と必ずしも合致していないので、延期をお願いした。決して妨げる意図ではなかったと聞いている」と答えたとしている。さらに浅尾氏は、記者から「意見を表明するタイミングを事務局が管理したことは不適切だったと思うか」と問われたが、質問には直接答えず、「委員の意見を聞きながらしっかりやっていきたい」と述べるにとどめたという。

 

 両省の合同審議会では、10月末の会合では各省庁の気候政策を中心に両審議会の委員が議論をし、次の11月25日の会合で、両省が35年目標を「13年度比60%減を軸とする案」を委員に示したという。この経緯なら、最大の課題である35年目標の政府草案の設定には、両審議会の委員の意見は十分には反映させず、政府側が事務的に固めた案を、事後に委員に示して了承を得るという手順になる。

 

 政府が審議会を設置して各方面の専門家の意見を聞くのは、政府案の作成に反映させるためなのか、政府の役人が作った案への了承を求めるためなのか、の判断の違いが今回の問題を生み出したともいえる。今回の場合、池田氏の意見書を10月の段階で受け取ると、11月の会合の際に両省が示した政府草案に、意見書の内容を反映させたかどうかを問われる可能性が出てくる。両省はもちろん、事前に委員の意見を聞いて政府案に反映させる気はないので、意見書の受け取りを拒否したというのが、本当ではないだろうか。https://rief-jp.org/blog/149323?ctid=33

 

 EU等では専門家自体が作業部会の段階から、自らの専門性を踏まえ、かつ中立的な議論を行うため、専門家中心で案作りを担うのが基本パターンだ。そうでなれば、各方面から専門家を委員として一定期間にわたって集めて議論を重ねる意味はない。そうして集めた専門的見地を土台にした案に、ある程度の政策的な配慮を加えて政府案を作成するの手順だ。さらに法案を法律化する際には、各政党が議会審議で政治的な判断をして法律に仕上げる。

 

 ところが、日本の政策立案の流れでは、専門家の意見は、今回の事例に限らず「参考意見」程度の扱いが大半だ。代わりに、役人による判断が草案の軸に据えられる。しかし、こうした手順だと専門的な評価・分析の前に、関係する業界への役所視点での配慮や、先行した政治的配慮が入り込んでしまう。その結果、本来、政策論議をする国会の場での法案審議では、政策論争よりも、与野党の数の上での調整だけで決着することになる。

 

 今回の問題は、こうした政策決定のあり方を、「当たり前」として何十年も運営してきた霞が関の官僚の「常識」に対して、実務家であり、再エネの専門家でもある委員が、審議会委員としての役割を誠実に果たそうとして行動したことが、役所のシナリオに反するとして排除された格好だ。環境相の会見での説明は、審議会というのは「政策を立案するために専門家の意見を聞く場ではなく、役所の案を承認するための機関」と、言っているのと同じに聞こえる。

 

 政治家である環境相は、政治家が議論すべき国会での役割を忘れて、役人の代弁者になっていることにも気づいていないようだ。その役人たちの気候・エネルギー分野での政策立案能力の劣化ぶりは隠しようもない。政治家たちも「政策論争」を人任せにしてきたツケとして、国際的な議論には全く通用せず、G7でも、G20でも、COPでも、「日本」の影もカタチもない状況が続いている。これが今の日本の姿である。

                         (藤井良広)

 

https://digital.asahi.com/articles/ASSCY31JDSCYULBH00DM.html