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欧米の40の気候・環境NGO団体が、カーボンクレジットを企業の移行計画やカーボン会計等への算入除外を求める共同声明。「クレジット利用は企業・国の気候対策を遅らせる」と指摘(RIEF)

2024-07-08 08:19:18

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上図は、Climate Action Networkのサイトから)

 

 脱炭素に向けた企業の排出削減算定に、市場での自主的カーボンクレジット(VCM)等のクレジット利用を認めるかどうかで、欧米の気候・環境関連NGO40団体は「クレジット利用は企業の気候対策を遅らせる」と指摘し、企業、国のクレジット算定からオフセットクレジットの除外を求める共同声明を出した。声明では、クレジット利用は、気候変動を推進するために求められる資金ギャップの解決にもつながらない、としている。クレジットの扱いでは、 企業のネットゼロ目標の認定等を行う民間機関のSBTi(科学に基づく脱炭素目標イニシアティブ)の理事会が4月に認める方針を打ち出したことで、同機関のスタッフらが猛反発し、3日後に撤回されるといった事態も起きている。

 

 共同声明が対象とするオフセットクレジットの除外要求は、企業が移行計画に盛り込む排出量の算定だけでなく、国の算定も対象だ。日本政府は、グリーン・トランスフォーメーション(GX)戦略で、国内の森林保全等からのオフセットクレジットのJ-クレジット等を排出量取引の対象として、GXリーグに参加する企業が同クレジットを自社の排出量算定に加えることを認める方針だが、NGO声明はこうした利用も除外対象とすることを求めている。

 

 共同声明には、BankTrack、グリーンピース、米欧のFriends of the Earth4団体、Oxfam、Climata Action Network、 Rainforest Action Network(RAN)、Oil Chang International、 ShareAction、Urgendなどが加わっている。日本のNGOは、単独では加わっていない。

 

 声明ではSBTiで、クレジットを企業や国の排出量として相殺することを認めようとすることを同機関の理事会が決定し、それに対して同機関のスタッフが猛反発するといった事態が起きたことを重視。こうした取り扱いを認めると、本来のカーボン会計規則をねじ曲げ、実際の排出削減の動きを弱めることにつながるとしている。https://rief-jp.org/ct12/144817?ctid=

 

 そのうえで、ネットゼロの気候変動目標は、化石燃料の生産、輸送、販売、使用の段階的廃止を含め、企業や国の枠内での温室効果ガス(GHG)排出削減に主眼を置かねばならないと指摘し、企業の本業、および多排出企業を多く抱える国自体による排出削減を促進する必要性を強調している。

 

 そうした本業、および国自体での排出削減を進めるには、官民双方の資金供給を緊急に拡大する必要がある、とも指摘。そうではなく、企業や国がクレジットの活用を「気候公約」として認めると、排出削減を世界的に遅らせる可能性があるほか、途上国等の「グローバル・サウス」諸国での排出削減に必要な資金として想定されている、高炭素排出産業に「汚染者負担」料金等の大規模なメカニズムを課す仕組みの開発圧力を低下させる、とした。

 

 声明はオフセットクレジット利用の懸念点として、主に3点を挙げた。1点目は、企業がクレジットに依存することで、企業、および企業が属する国の気候変動対策を遅らせる可能性だ。クレジットによる相殺は大気中のGHG濃度を削減するというよりも、単に排出削減量をある場所から別の場所に移動させるだけ、としている。

 

 さらに、オフセットの論理は、ある主体が排出し続けることができるという考えの上に成り立っており、往々にして、「過去の不公正」を強める一方で、排出量の多い活動を継続する企業に「社会的ライセンス」を提供することになると批判している。化石燃料企業は、植林クレジットに投資することで、石炭、石油、ガスの生産を増やすことができるわけだ。

 

 第2点目は、オフセットに利用されるクレジットは本質的に信頼性に欠ける点だ。公表された査読付きの多くの科学的文献によると、 これまでに創出された数十億のクレジットの大部分は追加性がない可能性(排出削減は炭素市場に関係なく行われていた可能性)が高いと指摘。さらにクレジット事業者は、クレジットを評価するための「意味のあるベースライン」の設定が困難な中で、非現実的なベースラインを設定して、より多くのクレジット創出を目指す可能性があるとしている。

 

 これらの課題に共通するのは、クレジット制度が不確実性の高い「未知のもの(unknownables)」を扱っており、クレジット創出プロジェクトの主要な評価手法等を推測に頼らなければならないという点だ。事業者には、最も多くのクレジットを生み出す手法を選びたいという強い動機がある。こうした事業者の動機は、市場参加者や基準設定者がクレジットの品質問題を解決しようとするインセンティブを上回る傾向がある、と指摘している。

 

 3点目として、 オフセットに使用できる「質の高いクレジット」は、限られた数しかないという点だ。上記の1や2の課題を改善できたとしても、オフセットクレジットの事業と、それに活用できる土地は限られているため、企業のスコープ3の排出量算定に含めることが可能で、当該企業の排出を維持し続けることができる需要を満たせるほどのクレジットの創出には、不十分でしかない、としている。

 

 またクレジットは、「超安価な削減オプション」が存在するという誤った認識を世界に与えることで、適正なカーボン価格の成立を阻害し、弱体化させるリスクがあるともしている。例えば、炭素の社会的コストの見積もりでは、通常、CO2e㌧当たり数百㌦とされるのに対して、VCM等で回避/除去されたとするクレジットの価格は数㌦前後とされる。そうなると、企業はバリューチェーンや経済システムを大きく変えるような脱炭素投資には目が向かず、構造的な転換が遅れてしまうリスクがある。

 

 共同声明は、歴史的なGHG排出量の大半は、限られた民間の大企業と国営企業による排出に起因しているとし、それらの企業は、クレジットの購入で自社の排出問題への取り組みを回避するのではなく、グローバル・バリューチェーンでの排出量削減に対応することで、自社のフットプリントを大規模かつ迅速に削減する責任があるとしている。そのうえで、科学的で、野心的で、衡平で、強固で、信頼性が高く、透明性のある、カーボン会計と企業のGHG削減目標を組み込んだ気候移行計画に関する明確なルールの設定が必要とし、移行計画においては、自主的な場合でも規制的な場合でも、クレジットの相殺は除外するべきとしている。

https://newclimate.org/sites/default/files/2024-07/Joint-CSO-Statement-Offsetting.pdf