日本の官民機関が多数関与するアフリカ・モザンビークの「LNG開発事業」。同国治安部隊による深刻な虐殺・人権侵害事件の真相解明求め、住民らが国連人権高等弁務官に調査を要求(RIEF)
2025-07-26 23:27:47
アフリカ最大のガス開発事業の「モザンビークLNG事業」には日本の官民機関が広範囲に関与する中で、現地のモザンビーク政府の治安部隊が、開発地域で深刻な人権侵害を引き起こし、問題化している。地元住民と、同国内外の環境・人権NGOらは、国連人権高等弁務官(OHCHR)に対し、独立した調査を緊急に求める公開書簡を提出した。同事業は仏エネルギー大手のトタル・エナジーズが推進主体だが、日本勢は、国際協力銀行(JBIC)、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)等の公的主体のほか、3メガバンク、三井物産、JERA、東北電力、日本郵船等が関係機関に名を連ねており、これらの企業も、海外での事業活動に伴う人権対応への責任の明確化が問われる形だ。
モザンビークでは同国北部のカーボデルガード州で2010年にガス田が発見され、開発が進んでいる。そのうちの一つ、「モザンビークLNG」は、トタル・エナジーズ主導の下、米英を含む複数の国の輸出信用機関、銀行団が開発事業に融資している。日本勢はJBIC、日本貿易保険(NEXI)、JOGMEC等の公的機関と、三井物産や3メガバンクを含む民間銀行団が関与し、開発したLNGの3割は日本郵船等が専用タンカーで輸送、東京ガス、東北電力、JERAなどが購入し、ガス火力発電等に活用する流れとなっている。https://rief-jp.org/blog/150518?ctid=33
だが、現地では以前から反政府勢力との紛争が続いている。その中で、2021年7月から9月にかけて、モザンビーク治安部隊は開発地域周辺の大規模な住民集団が反乱勢力に関与したとして、強制的に住民の男性を女性や子供から引き離して拘束。モザンビークLNG施設の入り口付近の輸送コンテナに、拘束した男性たち180人から250人を閉じ込め、拷問などを行い、生存者わずか26人という事件を引き起こした。女性たちも性的暴行、レイプ等を受けたとされている。これらの疑惑は仏Le Mondeなどのメディアの調査報道で裏付けられているという。
事件が発覚して以来、これまでにモザンビーク国家人権委員会、同司法長官、英国輸出信用保証局、オランダ政府等による調査が行われている。だが、問題を引き起こしたのが同国政府の治安部隊で、かつ現在も反政府勢力と武力紛争中であることから、調査に対しても同国の政府関係機関側から違反行為に対する十分な説明責任が果たされる状況にないとされる。

単に調査が不十分という問題ではない。住民らは、「被害者、遺族、影響を受けたコミュニティは、自分たちが信頼していない調査に協力した場合、報復を受けるのではないかという真の恐怖を抱いている」と述べているという。内乱による治安の悪化は、現在進行形で起きており、住民らはモザンビーク政府自体にも根強い不信感を抱えているためだ。
住民支援を行う内外のNGOは、治安悪化の根本要因には、日本勢を含む外国資本による化石燃料資源の収奪的な採掘・搾取の仕組みに加え、モザンビーク政府を取り込んだ膨大な債務問題が潜んでいる、と指摘する。このため、住民やNGOらは、政府などから独立した、公正な調査を求めて、国連人権高等弁務官(OHCHR)に公開書簡を提出したという経緯だ。
同事業は内紛の影響で、事業推進主体のトタル・エナジーズが2021年4月に「不可抗力」を宣言し、現在は建設作業が停止している。今回の治安部隊による住民虐待事件にスポットライトが当たる中で、新たに注目されるのが、同LNG事業自体が、日本勢を含む外国資本によるモザンビークの化石燃料資源を収奪する「巧妙な」採掘・搾取の構造であり、モザンピーク国自体が膨大な「債務の罠」に陥れられているという問題も指摘されている。
まず、開発地域7000haを事業者が取得するために、周辺のコミュニティでは556世帯が移転を、952世帯が経済的移転を強いられたほか、沿岸漁業に従事していた漁師や潮間帯採集者(貝などを採取する漁師)ら約5000人はこれまでの海域や沿岸へのアクセスを制限され、移転を強いられた。移転を拒否する住民には暴力による強制化が横行したという。こうした強制移転は内乱が続く中で行われたことから、住民らは反乱軍、政府治安部隊の両方の暴力、人権侵害にさらされた。
住民保護より外資によるLNG開発で経済成長を目指した格好のモザンビーク政府は、LNG事業から獲得した収益を、公的サービスやインフラ整備のために使用するという計画でLNG事業を推し進めた。事業会社からの石油生産税、法人税などで回収する予定だった。だが、トタルなどは同国内に開発企業を設置する代わりに、タックスヘイブンのアラブ首長国連邦(UAE)のドバイに特別目的事業体(SPV)を設立し、モザンビーク政府に支払うべき税金を回避し、事業会社との個別契約でも法人税減額などを強いられたとされる。
また同国の国営石油会社ENHも開発事業に参加できるようにするため、モザンビーク政府は2019年にモザンビークLNG事業や他の事業に対して政府保証を付与した。これらによってENHは合計で29億㌦の負債を抱える形となった。ENHが事業を通して得られる収益は11億㌦と予測されるが、その多くが生産費用や負債の返済に充てられるため、国の成長のための開発事業のための資金はほとんど残らないとみられる。「したたかなエネルギー開発業者」に、国が丸ごと「食い物」にされている典型例との指摘もある。
こうした事業に、日本の公的機関や3メガバンク、大手商社、海運大手、既存電力・ガス大手などが、そろって参加しているわけだ。これらの日本企業の大半は、サステナビリティレポートやESG報告書で、人権尊重をうたっている。だが、自社の事業が関与する「モザンビークでの人権」について言及している企業はどこもない。
今回のOHCHRに向けた公開書簡は、モザンビーク北部のパルマと周辺15村の伝統的指導者である地元のリーダーらが、66の人権・環境団体の支援を受けて、モザンビーク政府の治安部隊が犯したとされる深刻な人権侵害について、独立した調査を開始することを正式に求めるものだ。
書簡には次のように記されている。「現在進行中のいかなる取り組みも、完全に独立、かつ透明性のある調査を確保するには不十分であると考える。公正、公平、安全、かつ被害者を中心に据えたプロセスを保証するためには、OHCHRによる調査が必要であると強く信じている」「他の取り組みとは異なり、国連による調査は被害者や影響を受けたコミュニティから、正義を実現し、説明責任を果たす能力があると信頼されている」としている。
(藤井良広)
https://foejapan.org/issue/20250717/24930/
https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2020/0216-014303.html

































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