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国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)、気候災害による「損失と被害」基金創設で合意し、閉幕。「(気候変動に)脆弱な途上国」を対象。機能するか、という疑問も(RIEF)

2022-11-21 00:07:27

COP27スクリーンショット 2022-11-20 231336

 

  エジプトで開いていた国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)は20日、気候災害等による「損失と被害(Loss &Damage)」を救済する基金の創設で合意し、閉幕した。新基金創設は、同条約の締結以来、温暖化促進にほとんど責任がないのに、温暖化による被害を受ける途上国が、温暖化の原因を作り出してきた先進国に対応を求めてきた課題だ。先進国は法的責任や補償の増大を嫌って反対してきたが、パキスタンの洪水や世界的に深刻な干ばつ等が広がる中、先進国も避けられなくなり、ようやく合意した。基金の中身等は今後、協議するとしているが、課題は山積しており、実際に「損失と被害」に効果のある仕組みづくりとなるかは不明だ。

 

 新基金の創設は、気候変動の被害に直面している途上国側がCOP27の会議を通じて強く求めた。国土の3分の1が洪水で水没する被害を受けたパキスタンのように、自国の努力だけでは復興が困難な国が「気候変動を招来した先進国の責任」を強く求めたためだ。先進国でも自然災害が増えており、途上国の気候対策の強化を促すためにも、「目の前の損失と被害」に取り組まざるを得ない状況となっていた。

 

 議長国エジプトが同基金の創設を強く主導し、当初、18日で終了予定だった会議日程を20日朝まで延長し、ようやく先進国と途上国が合意した。ただ、基金による救済対象の国を「特に脆弱な途上国を支援」としたことで、「脆弱な途上国」の線引きが課題となるほか、基金に拠出する温室効果ガス高排出国側に、中国を加えるかどうか等の難題を抱えている。

 

CIELのサイトから
Center for International Environmental Law(CIEL)のサイトから

 

 合意では、基金の基本的な枠組みを決める委員会を12月中に発足させ、来年のCOP28までに基金案の採択を目指すとしている。同委員会は先進国10カ国と途上国14か国で構成し、途上国主導の体制をとる見通し。しかし、米欧では気候変動対策の不十分さで政府の責任を問う裁判で、国側が敗訴する事例も起きている。今回の基金構想での先進国の「責任分担」次第では、歴史的な先進国の責任を問う国際訴訟が展開される可能性も指摘される。

 

 COP交渉の成果として、途上国に気候変動対応の資金供給をする基金としては、2010年のCOP16で設立に合意した「緑の気候基金(Green Climate Fund:GCF)」がある。同基金は2015年から活動を開始し、途上国の気候変動緩和事業や適応事業への資金支援を行っている。GCFには先進国が総額100億㌦を拠出する前提だった。だが、米国は当初約束額30億㌦のうち、10億㌦分をオバマ政権時に拠出したが、トランプ政権が残りの拠出を拒否。バイデン政権になっても追加拠出分は連邦議会で承認されないままになっている。

 

 ただ、中間選挙で民主党が上院で多数を掌握できたことから、GCFへの追加拠出と、「L&D」基金への拠出で、米国がリーダーシップをとる可能性も出ている。しかし、基金の仕組みによっては、国への責任を問う訴訟を奨励する懸念もあり、訴訟大国米国がどう動くかが注目されている。

 

 もう一つの論点は中国だ。中国は現在、世界最大の温室効果ガス排出国であるとともに、歴史的にも米国に次ぐ第二の温室効果ガス排出を続けてきたとされる。中国はこれまでCOPの交渉では「途上国の代表」を任じて、先進国の気候対策を引き出す側に軸足を置いてきた。

 

 「L&D」基金が成功するためには、排出責任のある国々が資金拠出に前向きな姿勢をとることが求められる。「途上国の代表」としての中国自らが率先して新基金への資金拠出をすることは、先進国、途上国の両方から期待される行為といえる。先月、中国共産党大会で3選された習近平国家主席が、中国の実質的な「国際的な気候貢献」を果たすかどうかだ。

 

 今回、新基金の創設には合意したことは成果ではある。ただ、基金の中身については今後に先送りされたうえで、それ以外の温室効果ガス削減政策の加速化等については「議論だけ」に終わった感が強い。パリ協定では世界の気温上昇を産業革命前から「1.5℃以下に抑える目標」を掲げるが、すでに気温上昇は約1.1℃を超えている。目標達成が危うくなると、「損失と被害」が増大するのはわかりきっているにもかかわらず、「排出削減対策を伴わない石炭火力の全廃」、「石油・ガスを含むすべての化石燃料の段階的な削減」等の政策面での合意は、産油国等が反対し、合意文書の文言から消えた。

 

 スウェーデンの環境活動家グレタ・ツゥーンベリさんは今回のCOP27 には最初から参加を見送った。「COPは主に、権力を持つ政治リーダーや人々が、多くのグリーンウォッシング手段をアピールする機会の場として使われている。(気候変動を阻止するための)全体システムの変更には目を向けず、漸進的な進歩を奨励することにとどまっている」とCOPそのものを批判しての「不参加」だった。https://rief-jp.org/ct8/129875?ctid=70

 

 グレタさんはツィッターでも、会議中のCOP27にはあまり触れていなかったが、会議終盤の15日に次のようなツィートをしている。「権力を持つ人々は、真の気候行動を始めるための会議や条約、合意等を必要とはしていない。やる気になれば今日始めることができるからだ(しかし、その気がないのでやらない)。これらの人々を動かすには、多くの人々が連携することで初めて変化を生み出せる。希望を誰かに委ねたり、探す代わりに、自分たち自身で(希望を)作り出すことを始めよう」

 

 そしてグレタさんは、19日。Center for International Environmental Lawのメンバーへのツィートに「いいね」をした。上記の写真である。

                     (藤井良広)

https://unfccc.int/news/cop27-reaches-breakthrough-agreement-on-new-loss-and-damage-fund-for-vulnerable-countries

https://unfccc.int/documents

https://twitter.com/ciel_tweets