HOME |米国とカナダをつなぐ「キーストンXLパイプライン」の事業会社、建設断念を表明。年初のバイデン大統領の建設許可取り消しを受け決断。米経済の「脱化石燃料」移行の象徴に(RIEF) |

米国とカナダをつなぐ「キーストンXLパイプライン」の事業会社、建設断念を表明。年初のバイデン大統領の建設許可取り消しを受け決断。米経済の「脱化石燃料」移行の象徴に(RIEF)

2021-06-12 00:16:33

XLpipelineキャプチャ

  米国とカナダを結ぶ石油パイプライン事業を進めてきた「キーストンXL」計画のカナダ企業、TC Energy Corporationは、事業の継続を中止すると発表した。バイデン大統領が1月にトランプ政権時代の建設許可を取り消したことを受け、その後、カナダ政府、アルバータ州政府と協議を重ねていたが、脱化石燃料の流れを覆すことは無理と判断した。同計画の中止は、米国の脱炭素政策の象徴といえそうだ。

 

 キーストンXLパイプライン計画は、リーマンショック後の米経済不況の2008年ころに計画された。カナダのアルバータ州で産出するオイルサンドを、米中西部を縦断してメキシコ湾まで運ぶという壮大な計画。直系90cmのパイプを全長2700kmにわたって、地中に埋設し、一日最大約83万バレルの原油を搬送する計画だった。だが、途中、自然環境や先住民居留地区に影響を与えることから、反対運動が続いていた。

キーストンXLパイプラインのルート
キーストンXLパイプラインのルート

 

 パイプラインの成否は、政権が変わるたびに一転していた。まず、オバマ大統領が2015年11月に建設許可を却下した。その後、トランプ大統領は2017年3月に建設承認の大統領令に署名して、建設を承認した。しかし、2018年11月に、モンタナ地区連邦地方裁判所が再び建設差し止めを命じる判決を出した。これに対してトランプ大統領は2019年3月に再び大統領令を出して、建設承認を強調した。http://rief-jp.org/ct4/67341

 

 バイデン大統領は、大統領選挙時点から同計画の取り消しを宣言。実際に、今年1月20日の大統領就任当日、同計画の建設許可を取り消す大統領令に署名した。これを受け、TC Energyは工事を停止し、カナダ政府等と協議を重ねていた。同社にとっては、次期大統領選挙で共和党の大統領が選出されるまで事業を中断する選択肢もあった。だが、国際的な気候変動対策が進展する中で、事業の継続は非常に不透明になることから、断念を選択したとみられる。https://rief-jp.org/ct5/109957

 同社は「今後、規制当局、ステークホルダー、先住民族グループ等と、プロジェクトを安全に停止し、終了させることを確実に実施するため、調整を進めていく」としている。同社の社長兼CEOのFrançois Poirier氏は「われわれは、現在米国市場で保有する再生可能エネルギー資産の潜在性の評価を含むわれわれの将来のビジネスを通じて、地域への雇用機会の提供等の確保を続けていく」と述べた。

 バイデン政権にとっては、気候対策の実践を象徴するシンボル的なプロジェクトになった。米国内で同様に対立が続いているノースダコタ州での「ダコタ・アクセスパイプライン」事業や、もう一つのEnbridge社によるカナダからの石油パイプライン「Line 3」の改修計画等にも影響を及ぼすことは必至だ。
 一方で、バイデン政権は、パイプライン工事の停止に伴う関連地域での雇用の確保や、先住民族地域への経済支援策等が求められる。
 米国の石油・ガス産業で組織する「American Petroleum Institute(API)」の副社長Robin Rorick氏は「残念なことに、政治的な『閉塞症』がキーストンXLパイプラインの停止につながった。この問題は米国のエネルギー安全保障に対する打撃となるほか、同事業に従事してきた労働者の雇用維持にも打撃となるだろう」と批判している。
 環境NGOの「Oil Change International」の戦略的コミュニケーション担当のDavid Turnbull氏は「このプロジェクトは決して必要とされていなかったし、決して公共の利益になるものではなかったことを明確にした。化石燃料の時代に終止符を打つ時であることを告げた」と歓迎している。

https://www.tcenergy.com/announcements/2021-06-09-tc-energy-confirms-termination-of-keystone-xl-pipeline-project/