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米連邦議会に「国境カーボン調整(BCA)」措置導入法案提出。EUのCBAMと同様に、気候規制の緩い国からの輸入品に「環境関税」を課すことを目指す(RIEF)

2021-07-21 14:32:43

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 米連邦議会に19日、EUが導入を目指すカーボン国境調整メカニズム(CBAM)と同様の輸入品に排出削減負荷を課す条項を盛り込んだ法案が提出された。「2050年ネットゼロ」実現のための国際気候協力の推進を、気候価値を考慮した貿易の再構築の機会と位置付けている。そのうえで、米企業が温室効果ガス排出規制に対応するのと同等のコストを競合する輸入品に課すとしている。

 

 (写真は、法案提唱者のクーンズ上院議員=正面)

 

 法案は「FAIR Transition and Competition Act of 2021」。民主党の上院議員、クリス・クーンズ(Chris Coons、デラウエア州)と同下院議員、スコット・ピーター(Scott Peters、カリフォルニア州)の共同提案となっている。

 

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 法案はその目的として、米国の雇用を守り、外国のエネルギー資源への依存を減らし、気候イノベーションを促進し、米国のレジリエンスを高める、としている。EU提唱のCBAMと基本的に考えは同じといえる。制度名については国境カーボン調整(BCA)としている。

 

 BCAの仕組みは、米企業が域内で課せられる排出規制と同等の関税を輸入品に課すとしている。対象産業は、アルミニウム、セメント、鉄鋼、鉄鋼製品、天然ガス、石油、石炭をリストアップしている。資源製品を対象に加えたところが、EUとは異なる。対象リストは今後、米政府が炭素集約型製品のタイプを整理することで拡大されるとしている。

 

 法案ではBCAによる関税想定額は明記していない。だが、米メディア等の報道によると、年間最大160億㌦(約1兆7000億円)の税収増を見込んでいるとしている。これは現行の年間関税徴収額の2割分に相当する。税収額は温暖化で激化する自然災害等へのレジリエンスを高めるためや、トランジション(移行)促進等に充当する。

 

 同制度の設定を踏まえ、国務長官、通商代表部等が、貿易相手国との交渉の際に、温室効果ガス削減の国際的な協力を求めるとしている。米国でのカーボン国境調整の議論は、オバマ政権時にも論じられた経緯がある。法案提出者は、EUの政策をマネしたわけではない、との立場だが、CBAMを国際的に確立することを目指すEUからは歓迎されるとみられる。

 

 一方で、EUはすでに欧州排出権取引制度(EU-ETS)をはじめとする企業向けの排出規制を実施している。EU-ETSは今年から規制を強化する第4フェーズに移行する。また、自動車の排出規制等も強化される。これに対して、米国では州単位での温室効果ガス規制はあるが、連邦共通の排出規制は設定されていない。連邦の自動車排ガス規制は緩い。

 

 このため、BCAが国内規制の根拠があいまいとの批判もあり得る。今回のBCA法案に合わせて、温室効果ガス排出規制法案を制定する道もあり得るが、現行の議会の構成ではそうした規制法案の成立はまず困難。ただ、今回の法案に限ると、BCAで「守る」対象事業には石油・ガス・石炭の資源産業を含めており、エネルギー産業を基盤とする共和党側に配慮した側面もある。

 

https://www.coons.senate.gov/imo/media/doc/one_pager__fair_transition_and_competition_act_-_117.pdf