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第9回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑧NGO/NPO賞:気候ネットワーク&日本環境法律家連盟。JERAの「ゼロエミッション火力」広告を『グリーンウォッシュ』と提起(RIEF)

2024-02-27 13:01:11

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写真は、サステナブルファイナンス大賞の表彰を受ける日本環境法律家連盟の増本志帆弁護士㊧と気候ネットワーク代表の浅岡美恵氏㊨、㊥は環境金融研究機構代表理事の藤井良広)

 

 第9回サステナブルファイナンス大賞のNGO/NPO賞は、日本最大のCO2排出企業であるJERAが、アンモニア混焼の石炭火力発電所等による将来のCO2排出量削減構想を「ゼロエミッション火力」として、あたかも今、実現できるかのような広告を展開していることを「グリーンウォッシュ広告」だとして、差し止めを申し立てた環境NGOの気候ネットワークと、一般社団法人日本環境法律家連盟(JELF)を選びました。気候ネット代表の浅岡美恵氏と、JELF事務局長の小島寛司氏に聞きました。

 

――JERAの広告がグリーンウォッシュ広告だとして、日本広告審査機構(JARO)に昨年10月、広告の差し止めを申し立てられました。申し立てに至る経緯を教えてください。

 

 浅岡氏 気候ネットとしては、温暖化を止めていくことが大きな課題であり、そのためにはCO2の排出をやめていくしかないと考えています。これが温暖化対策の一丁目一番地。同時に再生エネルギーを増やそうという活動も進めてきました。2021年の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の前に、やっと日本も2030年目標を引き上げましたが、その前後から、日本政府は水素・アンモニア混焼などで石炭火力発電所を維持するという政策を打ち出し、エネルギー基本計画にも入れました。

 

 そうした政府の動きよりも一足早く、JERAが「ゼロエミッション火力」を言い出しました。「アンモニア混焼で発電時にCO2を出さないのがゼロエミッション火力」と。アンモニアを製造するのに大量のCO2を出し、コストもかかることから、最初は、われわれも、言っても実現性がないことを、と思っていましたが、だんだんとエスカレートして、そうした表現を企業広告でも出すようになりました。そのころ、政府のエネルギー基本計画にも、この「アンモニア混焼火力」が盛り込まれ、国策として進めることになっていくわけです。

 

浅岡美恵氏
浅岡美恵氏

 

 どうしたものだろうと、悩んでいましたが、2021年5月に欧州の環境NGOがエネルギー大手企業のシェルのCO2排出量削減を求めた訴訟で、オランダ・ハーグの裁判所が原告勝訴の判決を出しました。判決を読んでみたら、シェルの広告に対してオランダや英国の広告審査機関に対して各国のNGO等が申し立てをし、何度も警告を受けていたことがわかりました。そこで、2023年の2月にJELFの小島氏らと欧州に調査に行きました。英オックスフォード大学の研究者やシェルの裁判の原告NGOの弁護士たちからも話を聞きました。

 

 日本の場合、国をあげて「(気候対策を)やっているふり」をして、排出削減の要請をかわしていこうとしていることから、日本で何とかこの問題を取り上げたいと考えてきました。景品表示取引法での適格消費者団体による差し止め請求も検討しましたが、日本で裁判をすることはいろんな意味で、なかなか大変です。結局、JELFの方々と相談して、だれでも利用できる仕組みであるJAROへの申し立てに踏み切ったのです。

 

 小島氏 JELFは環境問題に取り組む法律家の集まりです。脱炭素問題については本気でやらなければならないということで、連盟の中で、2022年4月に脱炭素法務研究会という任意の勉強会を立ち上げていました。その勉強会の中で浅岡先生等にも教えを請いながら、アニモニア混焼が脱炭素の新たな切り札のように扱われている問題等をとりあげていました。

 

 また海外の動きを研究会の中で学んでいく中で、アンモニア混焼は問題がかなり大きいことと、海外ではグリーンウォッシュな活動に対して、広告規制という観点からの法的な行動が広がっていること等を共有し、日本の中でも広告関係の規制があるので何かできないかと考えている中で、気候ネットがJAROへの申し立てを思いつき、一緒に取り組んだという経緯です。

 

小島寛司氏
小島寛司氏

 

――まずはJAROに申し立て、次のステップとして景表法による提訴も検討するということなんですね。

 

 浅岡氏 そうです。JAROに申し立てをすることで、(景表法で提訴の権限を持つ)適格消費者団体の方々も、この問題をとらえやすくなるでしょうし、次の流れで、社会情勢のほうも、だんだんと変わっていき、さらなる変化があることを期待しています。

 

――昨年の12月には、JERAに続いて、関西電力などの広告についても追加でJAROに申し立てましたね。化石燃料業界だけでなく、最近は他の高炭素排出型産業の企業等も自らのCO2排出量の多さを隠すような広告が目立ちます。「グリーンウォッシュ広告」が一社に限らず、化石燃料関連業界全体に広がっているように思います。関電等に対して追加で申し立てたのは、一企業の問題ではなく、化石燃料関連業界全体の問題との判断でしたか。

 

 浅岡氏 JAROへの申し立ての段階から(関電などの広告の問題も)わかっていました。「ゼロエミッション火力」というのは、ある意味で、日本政府、経済産業省が打ち出しているキャンペーンで、既存の電力大手会社はいずれも同じ流れにあります。その中で、大々的に広告を打って、メディアに莫大なお金を投じているのがJERAです。

 

 関電は、以前は原発を強調した広告を出していました。それが昨年8月ころから、原発に加えて、再エネ発電、さらに「ゼロエミ火力で明るい未来へ」という広告が初めて登場しました。(関電と同時に申し立てた)電源開発(Jパワー)は、石炭をガス化して水素にしてそれを燃やす水素混焼発電を「CO2フリー水素」とする広告を、かなり前から出していました。そこで、JERAに続いて、この2社についても根は同じで、ストーリーも同じですので、昨年12月末に申し立てました。その外にも、アンモニアや水素混焼等に関連した企業やガス業界による「これらの技術で温暖化問題を解決できる」といった内容の広告が目立ってきています。

 

オンラインインタビューの模様
オンラインインタビューの模様

 

――これまでの申し立てに対するJAROの反応はどうですか。

 

  小島氏 少なくとも、10月の申し立て後、今に至るまでわれわれのほうには何の連絡もありません。12月には、申し立てに対するJAROの現在の説明等の手続きが「不適切」だとして、JAROの手続きに関する改革案をこちらから示しましたが、それに対する回答もまだありません。

 

  浅岡氏 JAROへの申し立てプロセスでは、申し立て後の対応についての定めがないのです。審査体制も十分でなく、最終的に「梨のつぶて」かもしれないという仕組みなので、これはよくないだろうと思っています。消費者のJAROの審査手続きへの信頼性を高めるために、改定が必要と思います。

 

――JAROの対応がないようだと、政府の消費者委員会等への申し立てや、あるいは、一気に訴訟に持ち込むことはできませんか。

 

 浅岡氏 適格消費者団体は景表法違反を理由として広告そのものの差し止めを求める訴訟を提起できます。訴訟は手続きが明確で、公開で議論ができますが、消費者庁の場合は、JAROと同様、応答の手続きの定めがなく、動いてくれない可能性があります。消費者委員会は独自性を持って建議等を行っており、委員会が広告規制の在り方について意見を出すよう要請することは考えられます。

 

――(消費者委員会の建議では)広告を差し止める拘束力が弱いのですか。

 

 浅岡氏 そうした権限は消費者委員会にはないのです。しかし、グリーンウォッシュ広告が排除される状況は国際的にも高まっていく傾向にあります。欧州連合(EU)も企業のグリーンウォッシュを規制する「グリーンクレーム指令」等の整備を進めています。われわれもさらに展開できることがあるかと思っています。

 

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――海外のNGOや法律家団体等と連携して対応する手もあります。

 

 小島氏 そうした発信も必要と思っています。われわれのJERAについての申し立ての概要はすでに気候ネットと協力して英訳し、海外発信しています。またOECDの「責任ある企業行動に関する多国籍企業行動指針」が定めている、多国籍企業が守るべきガイドラインへの違反として、OECDの苦情処理窓口(NCPs)に申し立てる手もあります。

 

――JERAなどの「グリーンウォッシュ広告」は、日本政府がGX政策を展開することと連動して、化石燃料排出量の多いGX関連の企業が一種のマスコミ対策として広告を出している可能性もあります。日本政府による「見えない音頭」でGX関連企業がグリーンウォッシュ広告を一斉に打ち出している図式のような気もします。政府の「見えざる指導」に、国民はどう対応するかという課題もあります。

 

 小島氏 まったくおっしゃる通りです。われわれの間では「国によるグリーンウォッシュ」ではないかとの声がよく話題にでます。確かに、GX戦略として、官民一体でやっているので、その牙城を崩すのが難しいという側面があります。GXについては、NGOや関係団体が反対を表明してきましたが、その視点はどちらかというと、同政策に盛り込まれた原発の運転延長への反対の動きが中心になっていた気がします。原発反対に比べて、アンモニア混焼等による石炭火力発電の稼働先延ばし等に、政府がGX政策で新たに予算をつけることに対しては、NGOや市民団体等の側も対応がやや遅れた感じがします。

 

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 浅岡氏 水素・アンモニアの混焼の促進は、GX法の制定の前に、2022年の省エネ法改正と、エネルギー供給構造高度化法改正で盛り込まれてしまいました。GX法はそれに経済移行国債(気候移行国債)を導入する形です。発電事業でのアンモニア混焼等やCCSを対象とすることは、野党も一応は反対しましたが止められませんでした。その結果、日本政府や電力会社は、「石炭火力でのアンモニア混焼やCCSは石炭火力の abate(排出削減)対策だ」と、国際社会に対して堂々と主張し、さらに今国会に移行国債で水素・アンモニアのコスト高部分の補填や設備支援する法案を提出しています。

 

 このまま進んでいくと、市民や消費者は「GXはまっとうな対策」と誤解し、結果的に再エネ事業は十分に増やせず、結局、2050年になっても、アンモニアと水素混焼とCCSを加えた火力発電と原発で電力の約半分をまかなうという経済産業省案の考える構造になりそうです。しかし、それだと、高いコストを国民が負担する一方で、実際のCO2削減は進まず、温暖化がさらに加速することになります。こうした問題をいかに一般社会に伝えるかが大きな課題です。「グリーンウォッシュ」という切り口は、アンモニア混焼やCCS等でCO2削減ができるとする「ごまかし、まやかし性」を、わかり易く市民・消費者に伝えるのに適した手段と思います。

 

―ーJERA等の広告をみた消費者などからの反応はありますか。

 

 浅岡氏 われわれのJAROへの申し立ての発表をみて、一般の方から、JERAの反応についての問い合わせがあったり、「やはり欺瞞的な広告だったんだ」と、広告への疑問を納得したとの話もあります。一方で、あんなに堂々と広告を打っているのだからと、JERAの言っていることを信じる人も少なくないようです。それだと、まさに企業側のミスリード作戦が成功することになります。しかし、われわれが、これらの企業の広告は、これこれこういった理由で事実でもないし、消費者をミスリードするものだ、と説明すると、納得されます。

 

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 小島氏 われわれの申し立てに関連する消費者の反応では、若者たちが、JERAの本社で抗議行動をしたという動きがあります。若い人たちのこうした行動を少しでも勇気づけられたらと思います。

 

――広告業界、あるいは、これらの広告を掲載しているメディアは、「ゼロエミッション火力」の非現実性をわかったうえでビジネスとして対応している面もあると思います。しかしそれだと、広告倫理規定に抵触する可能性があると思います。広告のプロは何をしているのかという疑問も出てきます。広告業界やメディアに対してはどう思っていますか。

 

 浅岡氏 広告業界の方もわれわれの説明会に参加してくれており、関心を持ってくれているようです。EUでは2月20日、不公正取引方法指令と消費者権利指令が改正されました。これまでの指令を改めたのではなく、グリーン移行を進めるために基準をより具体化、明確化したものです。これを補完するものとして、EUでは3月にも、環境訴求の実証、伝達、認定についての詳細な規定を含む「グリーンクレーム指令」の採択が予定されています。日本での法的整備は消費者庁の役割ですが、現状は動き出しそうにありません。われわれに何ができるかをもう一度考えねばならないと思っています。

 

 小島氏 こういうグリーンウォッシュ的なことをやっている企業の広告がどんどん増えていくと、まじめにCO2削減に取り組んでいるが広告は出していないといった企業に悪影響を与える可能性がありますし、結果的に日本の気候対策が遅れていくことになりかねません。なので、広告業界でも広告ビジネスの健全性と信頼性を確保するために、自主的にグリーンウォッシュを判断する基準を作って、基準に抵触する広告要請は扱わないとするような対応をしてもらいたいと思います。

 

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――JAROが1974年に設立された経緯は、まさに「欺瞞広告」がメディアにあふれ、困った広告業界とメディアが協力して自主的団体としてのJAROを作ったという歴史があります。本来は、今こそ、広告業界とメディアが政府や高炭素排出産業界等の欺瞞的政策・経営を見透かして、広告や記事を精査する責務が問われていると思います。日本政府の対応にあまり期待が持てないとすると、EU等の海外の政策に合わせて、日本企業のグリーンウォッシュ広告を審査する手もあります。

 

 浅岡氏 EUの指令を受けてEU加盟国での国内法が整備されば、EU市場で活動する日本企業もその適用を受けますし、EU指令自体も、日本の景表法の運用指標にもなりうるのではないかと思います。

 

――海外のNGOとの連携、あるいは若い人たちの行動に期待しないと、国内の従来の行動パターンのままでは、企業が自律的にグリーンウォッシュを排除することは容易ではない気もします。

 

 浅岡氏 火力発電をめぐっては、日本の政府と企業の関係は、一種の利益保証のようになっています。許認可とセットで補助金をどっさりつけて推進する形です。日本の政策決定の末路に来ているかな、という感じもありますね。これまで日本企業の多くは、ダブルスタンダード、トリプルスタンダードで、国内では非常に甘い対応でやってこれたと思います。しかし、市場が国際化し、スコープ3も規制の対象に入ってきますと、もうそれは通用しなくなるという時代にいます。

 

 日本のGX戦略に対する批判はほとんどが海外からのもので、日本のしかるべき専門家が声を上げない点も深刻です。審議会も、人選が偏っていますし、おかしいと思う人も、容認する行動をとってしまっている。NGOの端っこぐらいでしかそうした議論ができないというのはとても深刻なことだと思います。この点は、日本でNGOの力が弱いこと以上に、深刻なことだと思っています。

                          (聞き手は 藤井良広)