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国連持続可能な開発目標(SDGs)の資金ギャップ解消で、機関投資家を「SDGs課題のオーナーシップ」と位置付け、インパクト投資やインフラ投資促進と国への働きかけを求める提言(RIEF)

2023-08-21 15:54:16

Centia001キャプチャ

 

  国連持続可能な開発目標(SDGs)への関心は広がるが、17分野の目標達成に必要な資金と実際の投融資との資金調達ギャップは年間約3.9兆㌦もある。ギャップ解消のため、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)系シンクタンクが、機関投資家のサステナブル投資促進を求める提言を公表した。提言は、金融業界は「SDGs課題のオーナーシップ」を持つと位置付けた。特に機関投資家による重点投資分野としてインパクト投資とインフラ投資をあげ、両投資を通じて投資先企業のSDGs取り組みを後押しするとともに、国の財政や中央銀行の金融政策にSDGs達成政策を盛り込むエンゲージメント活動の展開を提案している。

 

 提言は「今こそ行動を起こす時:SDGs達成のためにサステナブル投資が果たし得る役割」と題した報告書。MUFG系の三菱UFJ信託銀行「MUFGファースト・センティアサステナブル投資研究所」がまとめた。同研究所は同銀行と英資産運用機関のファーストセンティア・インベスターズ(FSI)が共同支援でヴァーチャルに設立した日英シンクタンク。

 

 報告書によると、SDGsの策定当時、17の目標達成には年間5~7兆㌦の投資が必要と推定されていた。現状は、OECDの評価では必要投資額と実際の投資額との資金調達ギャップは年間で約3.9兆㌦に開いている。一方で世界全体でのサステナブル投資の運用資産残高は2020年時点で約35兆㌦に達したと推定される。

 

 同研究所は、SDGsと整合性の高いサステナブル投資の市場規模が拡大しているのに、SDGsの資金調達ギャップが解消しない状況を改善するため、機関投資家の取り組みを中心とする提言をまとめた。重要課題の一つとして、SDGsの最大のニーズは低所得国にあるのに、公共サービスやインフラへの資本投資のほとんどは高所得国で行われるという偏った資金分配に懸念を表明している。

 

 また、ある市場で持続可能でない形での貿易やサプライチェーン管理が、別の市場の社会経済や環境に悪影響を及ぼす「スピールオーバー」現象にも警鐘を鳴らしている。個々のSDGs目標・分野の間で生じ得るトレードオフ(両立できない関係性)への対応では、EU等が掲げる「著しい害を及ぼさない(Do No Significant Harm  :  DNSH)」原則の導入等を求めている。

 

 資金調達ギャップの解消では、あらゆる投資家層(官民および国内外)の貢献が必要と指摘。特に低所得国は資金調達の多くを公的資金に依存するが、これらの国では税収が低く、公的債務と債務返済費用は増加、パンデミックの影響等により資金逼迫が高まっている。このため、低所得国でのSDGsに関連する主な業種で民間セクターからの参画を高所得国の水準に近づけることが考えられる、とする。

 

 OECDによると、民間セクターからのDGsに投じられる資金量は2012~2020年の間で約3000億㌦に達した。同資金は、資金提供が多い順にSDG8(働きがいも経済成長も)、SDG10(人や国の不平等をなくそう)、SDG13(気候変動に具体的な対策を)、SDG9(産業と技術革新の基盤をつくろう)に特に貢献しているという。しかし、これらの民間資金調達は伸び悩み傾向が確認されているしている。

 

 こうした状況下で、報告書は機関投資家の役割を強調する。機関投資家は、資金調達ギャップを埋める役割を期待できるステークホルダーであり、同時にその役割を担うインセンティブもあるとする。機関投資家が目指す資産価値の長期的な安定と向上は、例えば、投資先事業やプロジェクトでの健康で教育機会を得られた労働力へのアクセスや、事業展開を可能とする安定した気候や高品質のインフラなど、SDGsに盛り込まれる内容に依存するためだ。

 

 機関投資家にとってSDGsへの貢献は投資先の持続的な成長、さらには経済的な投資リターンの向上につながる可能性がある、都の評価だ。このため、SDGs達成に向けた資金投入は本来の機関投資家の目的と合致し、機関投資家がSDGsに関心を寄せる動機の一つになる、とする。機関投資家は、実際の投資だけでなく、政策立案者との連携や投資先企業へのエンゲージメントなどのさまざまな方法を通じて、SDGsの資金調達ギャップを解消し、SDGs達成に向けた支援を加速できるとして、「金融業界は直接この課題のオーナーシップを持つ」と位置付けている。

 

 機関投資家によるサステナブルな投資活動の対象としては、プライベート市場でのインパクト投資や社会的影響の大きいインフラ投資等をあげ、それぞれの投資目的に沿った個別、または協働でのエンゲージメント活動の展開を求めている。投資先企業がバリューチェーンを通じた事業活動や製品・サービスを提供する際に、SDGs達成に向けた取り組みを後押しし、かつSDGsに及ぼすマイナスの影響を最小化するよう働きかける、としている。

 

 機関投資家のもう一つのエンゲージメント活動として、サステナブルファイナンスに関する公的な政策立案への働きかけをあげている。各国の政策取り組みは進展しているものの、依然、政策と、SDGsとの明確な関連性は限定的、と指摘。気候変動などや人権やサプライチェーンなどの個別課題への対応策はあるが、サステナブルファイナンスやインパクトファイナンスに関連する政策の枠組みに、SDGsや持続可能な開発の概念は包括的に盛り込まれていないとして、機関投資家は、長期的な視点で政策への働きかけに取り組み、資産運用の受託者としての責任(スチュワードシップ責任)を果たすよう求めている。

https://www.mufg-firstsentier-sustainability.jp/content/dam/sustainabilityinstitute/assets/research/sdg-report/sustainable-investement-institute-sdg-report-jp.pdf