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製薬大手エーザイ。認知症治療剤の普及で、患者の症状進行抑制や介護負担軽減等を「SPT」とするサステナビリティ・リンク・ローン(SLL)500億円を、みずほ銀行等から借り入れ(REIF)

2023-12-22 12:51:27

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 製薬大手のエーザイは、同社が開発したアルツハイマー病(AD)の治療剤による社会的価値の向上を目標としたサステナビリティ・リンク・ローン(SLL)500億円を、みずほ銀行を主幹事とするシンジケート団から借り入れた。エーザイがAD治療剤を供給する日米市場で、認知症患者の症状進行の緩和、介護負担の軽減等によって生じる社会的インパクトを「サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPT)」に設定する。十分な社会的効果が得られなかった場合は、一定金額を日米の認知症関連団体等に寄付する仕組みだ。医療効果や医療費・介護費の削減・負担軽減等の社会的価値の改善を、金融商品に組み込むのは珍しい。

 

 エーザイは認知症分野を同社にとっての最重要領域として位置づけ、AD治療薬の研究開発を進めている。90年代には世界初のアルツハイマー型認知症治療薬「アリセプト」を製品化、日本のほか欧米・アジアでも展開している。今回、スウェーデン企業との共同研究で創出した抗アミロイドβプロトフィブリル抗体「レカネマブ」を、米医薬品メーカーのバイオジェンと共同で開発した。

 

 「レカネマブ」はADの根治薬ではないが、ADの原因物質とされる「アミロイドベータ2」に直接働きかけて症状の進行速度を緩和する効果を持つ。症状が軽度の段階で投与することにより、患 者は自立した生活を維持できるほか、介護の負担も軽減され、医療費・介護費の節減につながる等、生活の質の維持に寄与することが期待できる、としている。ただ、ADでは患者の医療機関への受診率の低さが課題とされる。

 

アルツハイマー病の有病者と受信者、治療者等の構成
アルツハイマー病の有病者と受信者、治療者等の構成

 

 さらにレカネマはまだ販売実績がないことから、同治療剤の販売を広め、早期への投与を進めることで社会的インパクトを高めることを目指し、SLLを活用することにした。同社では2030年度には同薬の世界市場での売上額を1兆円規模とする目標を設定。重要業績指標(KPI)を日本と米国市場でのAD治療剤「レカネマブ」がもたらす社会的インパク トとした。

 

 社会的インパクトの算出は、「社会的インパクト(円、ドル)=レカネマブ投与対象者1人当たりの社会的価値×投薬人数」とした。同式の構成要素の「社会的価値」は、同薬の投与で創出される1人当たりの年間価値を費用対効果モデルから、日本は467万5818円、米国は3万7600㌦とした。1人当たりの社会的価値はローン期間中は変わらないため、社会的インパクトの拡大は投薬人数を増加させることで高まる。薬は投与の頻度・量が定められるため、出荷数量を元に年度ごとの投薬人数を算出する手順だ。こうして算定した日米市場での投薬人数の目標をSPTとした。

 

 ただ、SPTとしての投薬人数目標値は、競争上の理由から公表はしていないが、金融機関等には開示・説明している。達成状況を経年的に確認するための年次SPTも定めているという。こうした条件のSLLで借り入れた資金は、エーザイの一般資金として活用するほか、米国および新興国での低所得者向け無償提供プログラムや、認知症エコシステムの構築、Diseases of poverty(顧みられない熱帯病、マラリア、結核など)の制圧を通じた社会的インパクトの創出の推進等に充当する。

 

 資金の貸し手は、みずほ銀行が主幹事として組織した39の金融機関で構成するシンジケート団による。セカンドオピニオンは、格付投資情報センター(R&I)が国際的なローン・マーケット・アソシエーション等が定めた「サステナビリティ・リンク・ローン原則」等への適合を付与している。

https://www.eisai.co.jp/news/2023/news202375.html

https://www.mizuhobank.co.jp/release/pdf/20231213_2release_jp.pdf

https://www.r-i.co.jp/news_release_suf/2023/12/news_release_suf_20231213_jpn.pdf