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旧ソ連製原子炉の運転継続、アルメニア(National Geographic)

2012-05-11 14:36:41

メタモール原子力発電所の制御室で、オペレーターが計器類をチェックしている(2005年撮影)。アルメニア政府は、新しい原子炉が完成予定の2019年まで運転を継続する方針だ。
2012年5月5日に北海道の泊原子力発電所3号機が運転を停止し、日本は1970年以来42年ぶりに原発稼働がゼロになった。一方、西アジアのアルメニアは、原子力の利用継続を政府が明確に打ち出している。

該当の原子炉は、運転開始から32年経過した旧ソ連製のプラントで、国際的に閉鎖を求める声が強まっている。さらに、立地するメタモール原子力発電所は、トルコからアラビア海に至る帯状の地震多発地帯の真上にある。1次格納容器を持たない旧式の設計だが、引退予定だった2016年以降も4年ほど運転期間を延長し、新しい原子炉が完成する2019~20年までプラントが閉鎖される見込みはない。

 日本の原発稼働ゼロと時を同じくして、ヨーロッパ各国も原発依存軽減へ動き始めているが、世界的な流れになるかは不透明である。2010年時点で世界の電力の13%を原子力エネルギーが賄っており、安価な代替エネルギーの開発も容易ではない。アルメニア政府は新しい原子炉の建設を目指しているが、最先端の技術導入に充てる資金調達が滞っており、工事そのものも遅れている。その他多くの国と同様、これでは古いプラントを継続運転する以外に道がない。

 原子炉は、1度建設して運転を開始してしまえば、あとは非常に低コストで信頼性の高い電力供給源だと一部の専門家は指摘する。

◆独特な依存体質

 西アジアに属する旧ソ連のアルメニアほど、電力供給を1つの原子炉に大きく依存している国はない。しかも、その施設は非常に危うい環境に立地している。メタモール原発は同国の電力の40%以上を供給しているが、地震多発地帯にあり、農地や人口密集地にも近い。首都エレバンから36キロ、トルコとの国境から16キロという間近にある。内陸国という事情もあり隣国アゼルバイジャンやトルコとの緊張関係にも阻まれ、代替エネルギーの調達は思うように進んでいないという。

 メタモールは1次格納容器を持たない原発だ。このタイプは現在、世界で16基が稼働しており、どれも旧ソ連製である。国民2万5000人が死亡し、50万人が住居を失った1988年のアルメニア地震(マグニチュード6.8)以降、その加圧水型原子炉は安全性強化のため数多くの改修を受けてきた。震源地から約100キロ離れ2基の原子炉は無傷だったが、2号機は6年半に渡り運転停止を余儀なくされた。それより少しだけ古い同型の1号機は運転再開されぬまま廃炉処分になっている。

 しかし、いくら安全上の改修を重ねても、メタモールに関する懸念がすべて解消されるわけではなく、2016年までの閉鎖を求める国際圧力は増す一方だ。アルメニア政府がプラント閉鎖を拒否した2004年、欧州連合(EU)の代表は「EU全体の安全上の脅威」と指摘。高い地震リスクに加え、核燃料が船舶や鉄道ではなく、民間空港へ空輸されている事実を問題点として挙げた。2006年、アルメニアはEUと共同で行動計画をまとめ、閉鎖期日の前倒しに同意。また、早期閉鎖への対応策として、水力発電や再生可能エネルギーの開発のほか、エネルギー効率の強化にも力を入れると約束した。

 2016年までの原子炉閉鎖を求める声は、地震と津波による福島原発事故後から特に大きくなった。セルジ・サルグシャン大統領は依然としてメタモールの安全性を主張し、新しい炉が稼働するまで運転継続は不可欠だと訴えている。

 推定50億ドル(約4000億円)の原子炉建設プロジェクトは、ロシア政府との共同事業だ。今年中に開始される予定だったが、資金調達に手間取りスケジュールに遅れが出ている。ロシアも50%の出資を今年に入るまで躊躇していた。

◆ストレステスト

 安全な運転を続けるためには、長期的な視点で適切な保守、監視を行う必要がある。メタモールの運転期間を現時点でさらに数年延長する決定は、それ自体が懸念の原因となりうる。「オペレーターはどう想定しているのだろう」と、米国原子力エネルギー協会(NEI)のクリス・アールズ氏は話す。「”1年経てばどうせ止まる、それまで保たせればいい”。これでは、継続的な保守、改修作業が途絶えてしまう恐れがある」。

 アルメニア政府は昨年6月、メタモール原発の安全とセキュリティを確保するよう努めることに同意した。ストレステスト以外に、ヨーロッパの原子炉と同様、専門家による評価も公開の場で受けることになる。

 政府は今年中か2013年の早い段階で結果を報告すると発表している。

http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20120509001&expand#title

メタモール原子力発電所の制御室で、オペレーターが計器類をチェックしている(2005年撮影)。アルメニア政府は、新しい原子炉が完成予定の2019年まで運転を継続する方針だ。