HOME10.電力・エネルギー |東電賠償ADR/制度設計の不備またしても(河北新報) |

東電賠償ADR/制度設計の不備またしても(河北新報)

2012-06-01 18:31:03

福島原発事故の被害者と東京電力の賠償和解を仲介する「原子力損害賠償紛争解決センター」が、想定した業務量をこなし切れない状態に陥っている。
 センターは裁判外紛争解決手続き(ADR)を担う政府の機関。判事役となる「仲介委員」の弁護士200人、補佐役の「調査官」を弁護士40人で受け持つ。昨年9月の受け付け開始以来、2350件余りの申し立てが寄せられている。
 当初「3カ月での和解成立」を目標としていたが、現状は2月に受理した案件の口頭審理が6月に始まるというスピード不足に陥っている。

 東電側の硬直的な対応が背景にあるのは間違いない。一方で、センターの在り方にも根本的な問題があったのではないか。
 

弁護士が受け持つ業務の、量的な見積もりは適切だったのか。争いが通常の法律事務上のフォーマットに沿った形で、センターに持ち込まれることを前提としていなかったか。

 申し立ては、巨大企業に対する個々人の不満である。請求とその理由が、法的に結論を得やすい形を取るとは限らない。

 請求の経緯が詳細に分からない。請求額自体が明示されていないこともある。代理人を立てず、未整理のままセンターに持ち込まれる案件も多いという。

 被害者の切羽詰まった心情を思えば致し方ない。むしろ、一般の裁判の公判前整理手続きよろしく、争点がクリアな形で仲介に持ち込まれると想定していたのなら、そちらの方が甘い。

 復興に向けた政府の取り組みが本格化するにつれ、制度と実態との間にずれが生じている。
 

例えば、放射性物質の「汚染状況重点調査地域」。被災3県の53市町村を指定したものの、環境省の担当者は各県1人にとどまる。除染作業の承認をめぐるやりとりが、やはりマンパワー不足から長期化した。

 年度当初から作業開始しようとした自治体が、しびれを切らせて見切り発車的に作業を開始し、国が追認する形が相次いだ。制度設計の甘さが、混乱を招いているのだ。

 ADRの場合、申し立ての量的、質的な想定が現実と食い違い、弁護士の戸惑いや負担増を招いているのなら、一刻も早い改善が必要だ。

 法曹資格の不要な事務員を増員し「調査官の業務のうち法律判断の要らない仕事を任せる」というのが、センター側による目下のマンパワー増強策だ。

 和解の仲介は、弁護士が行う専門性の高い仕事だ。業務の質や量が手に負えない規模に膨らめば、追加的な人員の手当てが難しいものとなることは自明だったはずだ。

 これまでに和解が成立したのは全体の5.8%。将来は月1千件の申し立ても予想される。

 日弁連は調査官の倍増を国に要望している。協力が得られるなら、法曹資格のあるスタッフを大幅に増強すべきだ。制度は十分な人の手当てがあってこそ機能する。被害者の苦境をこれ以上、放置してはならない。

http://www.kahoku.co.jp/shasetsu/2012/06/20120601s01.htm