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ベトナム企業によるバイオマス燃料の認証偽装問題、経済産業省は「関係業界からのヒアリング」を認めるも、「偽証燃料がFIT等に利用された事実は現時点ではない」と説明(RIEF)

2023-01-09 20:04:13

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 ベトナムの大手バイオマス燃料業者AVP社が、国際的な森林認証のFSC認証を偽装して、日本に輸出していた問題で、経済産業省は、関係業界へのヒアリングの結果を明らかにした。森林認証制度を運営する国際団体のFSCが昨年10月に認証偽造を判断して、同社を制度から排除した以降、同社の燃料が同省が運営する再エネ特措法での固定価格買取制度(FIT)およびFIP制度に基づく発電に使用されたことはない、とした。その一方で、FSCが停止措置をとるまでの燃料の動向についての実態把握も行う方針を示した。https://rief-jp.org/ct10/129368?ctid=72

 

 (写真は、国会で答弁する経産省の井上隆雄・省エネ新エネ部長)

 

 経産省の調査継続方針は、昨年12月22日に衆院環境委員会で経産省資源エネルギー庁省エネ・新エネ部長が立憲民主党の近藤昭一議員の質問に対して答弁した。同氏はFSCが認証偽装を発表後に「FIT等に基づく発電に(偽装燃料)が使用されている事実はないと現時点で認識している」と答えた。だが、FSCの認証偽装の確認は2020年販売分であり、業界内では、その後の販売分についても偽装の可能性が指摘されている。

 

FSC認証偽装問題を引き起こしたベトナムのAVP社
FSC認証偽装問題を引き起こしたベトナムのAVP社

 

 実際にAVP社はFSCの調査対象外の2021年以降も、認証偽装が発表される昨年10月まで、日本の商社等に販売を続けていたとされる。昨年9月には、同社からの輸入燃料を発電に使ってきたJERAの常陸那珂火力発電所(茨城県東海村)で、燃料による火災事故が起きている。輸入燃料に金属等の不燃物が混在していたことが原因とみられているが、AVP社製の燃料を使用していたためと指摘されている。https://rief-jp.org/ct4/130119?ctid=72

 

 また昨年12月には、日本の大手商社が、AVP社から輸入した燃料を国内企業に売却できず、韓国の欧州系企業に損失覚悟で転売したとみられることもわかっている。業界関係者によると、売却されたとみられる日本向けの木質ペレット燃料は約3万㌧分。2億円以上の損失を出したと推計される。https://rief-jp.org/ct10/130838

 

 井上氏の答弁からは、こうした日本企業で直近において起きている事態も「問題がなかった」かのように聞こえる。しかし、AVP社からの日本への輸入は2020年以降も直近まで続いていたのは業界関係者も認める点だ。それでも井上氏によると、それらの燃料が「FIT・FIPに基づく発電に使用されている事実はないと認識している」となる。首を傾げるしかないようだ。

 

 経産省が偽装木質ペレット燃料が、直近まで日本のバイオマス発電の燃料として使われていたことを「否定」する理由は、FIT制度でバイオマス発電事業者に対して国が「過払い金」を払っている可能性が濃厚なためとみられる。FIT制度でのバイオマス燃料価格は、燃料源によって発電時の買い取り価格が異なる。

 

 木質ペレット等の一般木材使用の場合は、1kWh当たり24円だが、質が下がる建設資材廃棄物だと同13円、一般廃棄物その他バイオマスだと同17円になる。AVP社による偽装バイオマス燃料は認証がないとすると、本来は、同13円ないし17円の評価になるとみられるが、認証を偽装することで24円で日本のバイオマス発電事業者に売却されていた。この結果、AVP社は追加的な収入を得、経産省はその相当分を「過払い」していたことになる。https://rief-jp.org/ct5/129862?ctid=72

 

 業界関係筋の試算によると、50MWのバイオマス発電所の場合、木質ペレットを燃料にする場合は、年間25万㌧程度の燃料輸入が必要になる。ベトナムからの輸入量を踏まえ、50MW級の発電所4基分、年間100万㌧の木質ペレットがAVP社から輸入され、そのすべてが偽装だと仮定した場合、単価17円に修正すると約104億円、13円だと約160億円の国による「過払い」が毎年発生していたことになる。

 

 質問者の近藤議員は、偽装燃料によって、FIT・FIP制度の買い取り費用が増大し、国民負担となっている懸念を質問した。これに対して井上部長は、「バイオマス発電の安定運営には、使用する燃料を長期にわたって安定的に調達することが重要。今回の事案については、複数の関係企業に、経産省としてすでにヒアリングを実施している」と述べるにとどまった。これまで同省はマスコミの取材に対して、調査対応を明確に説明してこなかったが、輸入業者の商社や調達業者の発電事業者等へのヒアリングを実施したことは認めた。

 

 ただ、昨年10月18日にFSCがAVPの偽装を認定した直後、同ペレット等を国内で扱う全国木材チップ工業連合会は、国内の認定事業者に対して、取引実績を報告するよう要請を行っている。経産省のヒアリングはこうした業界報告に基づくとみられる。同業界団体の関係企業への要請は、①AVP社と取引実績がある場合は、(偽装認定があった)2020年1月~12月の取引量②今後、取引を計画している認定事業者についても取引量(予定量)等の報告を求める内容で、偽証確認以前の取引については言及していない。

 

 今回の問題は、現時点で判明している情報に基づけば、ベトナムの事業者が悪意を持って質の悪い燃料に、国際認証を偽装して価値を高め、日本企業に販売したという構図だ。同事業者がそうした行動をとったのは、認証がついていれば、質の悪い燃料でも、日本では改めて品質チェック等をする手順がなく、発電電力は国の制度によって機械的に買い取られるため、発電事業者も燃料の質よりも、量の確保を優先することを、熟知していたとみられる。

 

 つまり、日本の輸入業者(主要商社等)も、バイオマス発電事業者(大手電力等)も、さらには制度を悪用された可能性のある経産省も、被害者の立場にある。

 

 したがって、本来ならば、品質の悪い燃料を偽装して日本企業に売りつけたAVP社に対して、売りつけられた日本企業は、損害賠償を請求すべきであり、国はそうした企業を支援するべき立場にあるはずだ。ところが、経産省は被害者の「被害状況」の調査を十分に行っているようには見えない。逆に、「(燃料が使用された)事実は確認できない」として、制度を悪用した企業に配慮するかのような答弁になっている。

 

 同省が問題解明に「尻込み」するかの発言に終始しているのは、仮に同省が「過払い金」を回収できなくても、同燃料はすでに発電済みで、過払い分はすべて国民の賦課金に回して「回収」しているので、「悪質業者」から取り立てるインセンティブが役所側にないということなのかもしれない。このままでは「負担は国民に」というパターンの一事例になりそうだ。

                           (藤井良広)