HOME10.電力・エネルギー |三菱商事、CO2直接大気回収(DAC)等の炭素除去技術(CDR)クレジットの開発企業と買い手企業をつなぐ新会社設立。年20万㌧の長期購入契約締結。2025年100万㌧仲介目指す(RIEF) |

三菱商事、CO2直接大気回収(DAC)等の炭素除去技術(CDR)クレジットの開発企業と買い手企業をつなぐ新会社設立。年20万㌧の長期購入契約締結。2025年100万㌧仲介目指す(RIEF)

2023-04-27 22:12:39

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 三菱商事は、スイスのカーボンオフセット会社と連携し、大気中のCO2を回収・貯留する直接カーボン回収貯留(DACS)等3種類の炭素除去技術(CDR)により創出されるクレジットを、脱炭素のための買い手企業につなぐ仲介業務に乗り出すと発表した。ジョイントベンチャー「NextGen CDR Facility(NextGen)」を設立し、すでに買い手企業から合計20万㌧のクレジット長期購入契約を結んだ。2025年までに100万㌧のクレジット仲介を目指すとしている。

写真は、米1Point Five社が推進する世界最大級のDACS事業)
 三菱商事と連携するのはスイスのサウスポール社。同社は世界経済フォーラムのシュワブ財団によって認められた社会的企業で、気候ソリューションの提供やカーボンプロジェクトの開発を行なっている。2006年の設立以来、50カ国以上で約1000のプロジェクトを開発、2億㌧以上のCO2排出量削減に貢献した実績を持つとしている。
 両社が設立したNextGenは、カーボンクレジットの国際的な品質基準であるICROAに準拠した高品質な技術系CDR由来のカーボンクレジットを扱い、クレジットの買い手と売り手(プロジェクト)をつなぐことで、クレジット売買市場拡大に必要な基盤を構築するとしている。
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 新会社が現在、販売を予定している炭素除去クレジットは、①米Summit Carbon Solutions社によるバイオマス由来のCO2回収・貯留「Biomass Carbon Removal and Storage(BiCRS)」プロジェクト②米1Point Five社による大気中のO2を直接回収・貯留する「Direct Air Capture and Storage (DACSプロジェクト③フィンランドCarbo Culture社による高温でバイオマスを炭素化し、炭素を固定するバイオ炭プロジェクトーーの3種類。
 CDRクレジットの買い手としては、商船三井、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)、LGT、Swiss Re、UBSが参画を表明している。第三者認証を取得した高品質な技術系CDRクレジットの買い手と売り手(プロジェクト)を仲介することにより、市場の拡大に寄与するとしている。クレジットの目標平均価格は市場価格比で競争力のあるトン当たり200㌦とし、企業が長期的に同クレジットを調達できるモデルを導入するとしている。

 

 

米Summit Carbon Solutions社が推進するBiCRS事業
米Summit Carbon Solutions社が推進するBiCRS事業
NextGenでは、今回、同社が提供するBiCRS、DACS、バイオ炭の3技術由来のCDRクレジットのほか、買い手企業は、多様なクレジットを組み合わせて購入することで安定的なクレジット・ポートフォリオを構築できるとしている。
 国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の統合報告書が目指す「1.5℃」目標の達成のためには、2030年までに年間約10億㌧の新たなCDRクレジットが追加的に必要になるとしている。今回のNextGenによる技術系CDRクレジットの購入量は、この種のクレジット市場で、これまでに販売されたすべての累計取引量の約25%を占める。

 ただ、英気候メディアのClimate Homeは、「もし三菱商事が持続可能な未来に対するコミットメントを強化したいなら、まず、抱えている化石燃料事業を再生可能エネルギー事業に移行させることを急ぐことによって、排出削減に貢献できるはずだ」との識者のコメントを掲載。同社が現在、日本と台湾で合計9基の石炭火力発電所を運営し、さらに2基をベトナムとインドネシアで建設中である点を疑問視している。

 

 同社はCCS機能を伴わない新規の石炭事業の建設は停止するとしているものの、石油・ガス事業での制限については一切言及していない。同社の総事業からの排出量は、Scope3を含めると年3億8100万㌧と推計される。これはアフリカのナイジェリア一カ国と同じ規模になるが、同社が開示する排出量は自らの事業に伴うScope1~2の排出量2300万㌧だけに限っている点も問題とも指摘している。

 

 NextGenの会長を務めるサウスポールのカーボン除去技術グローバルディレクターのPhillp Moss氏は「技術系CDRの市場の拡大を目指すNextGenの取り組みは、今回のクレジット購入契約の締結で大きく前進し、2025年までに100万㌧の技術系CDRクレジットを購入する目標実現のための明確な道筋ができた」と強調している。
 三菱商事常務執行役員・次世代エネルギー担当の齊藤勝氏は「CDRの普及は低・脱炭素社会実現のために不可欠。NextGenの更なる発展のために当社の知見やネットワークを生かすとともに、持続可能な社会の実現に向け、イノベーションとコラボレーションによる低・脱炭素化に貢献する」としている。