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英広告基準機関(ASA)。エネルギー大手シェルの「クリーンエネルギー投資」広告は「ウォッシュ広告」と判断。消費者をミスリードの可能性と。日本の化石燃料企業の広告は(?)(RIEF)

2023-06-11 14:41:32

Shell0022キャプチャ

 

  英広告基準機関(ASA)は、エネルギー大手のシェルがクリーンエネルギー投資を示す広告は「過大広告」だとして、撤回を求める勧告を出した。シェルは2022年以来、テレビやSNS等で、同社が開発した風力発電等の電力が、電気自動車(EV)に充当される様子等を広告で紹介、「英国はクリーンエネの準備完了」とし、シェルの貢献を示していた。これに対し非営利団体は「石油・ガス等の化石燃料事業を主とするシェルが再エネ分だけを強調するのは消費者へのミスリード」とASAに調査を求めていた。日本の電力等の高炭素排出企業の広告は大丈夫(?)

 

 (写真は、シェルに対する「グリーンウォッシュ広告」の抗議キャンペーンを行う英非営利団体のメンバーたち)

 

 ASA(Advertising Standards Agency) は英政府機関ではなく、同国の広告業界による自主規制機関だ。シェルの「クリーンエネ・キャンペーン」は、テレビやYoutubeや街の看板、ポスター等で展開されてきた。風力発電やEVの充電ステーション等のインフラのイメージを強調し、「英国はクリーンエネの準備ができている」のキャッチフレーズでアピールする内容。キャンペーンは地域バージョンも作成。イングランド南西部のブリストル市では同様の広告内容で「ブリストルはクリーンエネの準備ができている」と市民に呼びかける形だ。

 

 これに対して、非営利団体のAdFree Citiesは「広告を見た人々は、まるでシェルがサステナブルな企業であると、間違って信じるかねない」として、ASAに広告の禁止を求めていた。ASAは調査の結果、「同広告は、シェルが現在、英国で投資、販売するエネルギーの相当部分がクリーンエネルギーである、あるいは近い未来にそうなるとの印象を、見た人に与える」と判断、シェルに対して広告の撤回を求める決定をした。

 

Shell001

 

 シェルは2016年に再エネと低炭素発電分野に投資する新規部門「New Energies」を設立している。これらの事業をアピールするため、2021年には2615億㌦の売り上げのうち1%を、再エネ・EVキャンペーンに投じたとされる。https://rief-jp.org/ct4/61177?ctid=

 

 AdFree Citiesは「化石燃料企業やその他の炭素高排出企業は、盛んに『グリーンキャンペーン』を展開している。しかし、彼らが手掛けるグリーン事業の事業全体に占める比率は小さい一方で、事業の大半の化石燃料活動からの環境影響には触れず、軽視している。今回のASAの決定はシェルだけでなく、他のエネルギー大手の『グリーンウォッシュ広告』の抑制にもつながることを期待する」と述べている。

 

 2021年には、オランダの広告監視機関が、シェルがカーボンクレジットを購入する顧客に対して「カーボンニュートラル」促進のキャンペーンを展開する広告を出したことに対して、「グリーンウォッシングの懸念がある」として、広告停止の警告を発している。

 

 シェルは今回のASAの勧告について、英メディアに対し「われわれの顧客は、シェルが石油・ガス事業を展開していることをよく知っていると思う。だが、再エネへのエネルギー転換事業については十分に知られていないと思うので、マーケットリサーチを踏まえて(広告を)実施した。われわれは2050年までのネットゼロにコミットしている」と説明。広告通りに「クリーンエネルギーの準備をしている」ことを強調しているという。

 

 こうしたシェルの対応を踏まえ、AdFree Citiesは、「化石燃料企業については、これまでの地球環境を悪化させてきた歴史的な役割や、今後の影響を踏まえて、広告を禁止すべきだ」と強調している。

 

 ASAは同時に、マレーシアの国営エネルギー会社のペトロナスと、スペインのRepsolの両社が、テレビ等で展開する広告に対する苦情についても、「グリーンウォッシュ」の懸念があるとして、苦情を支持する判断を示した。

 

 ペトロナスは欧州市場で、同社の2050年ネットゼロ宣言を強調し、「サステナブルな未来のための進化するエネルギーとソリューションのパートナー」と強調する広告を、テレビ等で展開している。広告では太陽光パネルとリサイクル設備等のイメージを盛り込んでいる。

 

 ASAは「この広告は見た人に対して、ペトロナスが、すでにサステナブルな企業であるかのような印象を与える可能性がある。同社が温室効果ガス(GHG)の主要な排出源であるという重要な環境情報を省略しており、ミスリードを与える」と指摘した。

 

 スペイン本拠の石油とガスの複合多国籍企業Repsolも、バイオ燃料や合成燃料(e燃料)等の開発を強調し、ガソリンスタンドで販売する同社のガソリン等の製品は、そうした再エネ燃料混焼であることを強調する広告を、ファイナンシャルタイムズ(FT)に展開した。これに対してASAには消費者団体からの苦情が寄せられた。Repsolは「FTの読者は、われわれの情報(化石燃料のガソリン等の販売)についてすでに知っているので、さらなる情報(バイオ燃料混焼)として発信した」と説明した。

 

 しかしASAは、同社の広告を見た人は、同社のビジネスは、現状とは異なって、すでにバイオ燃料やe燃料が主要な部分を占めていると信じる可能性がある、と指摘した。こうした経緯を踏まえ、Repsolは広告の撤回を約束している。

 

 日本でも脱炭素等が求められ、政府がグリーントランスフォーメーション(GX)戦略を掲げる中で、化石燃料関連企業も自らの「移行」や「脱炭素」を宣言する広告が増えている。

 

JERAのブランド広告。もう化石燃料火力発電からNEW ENEGYに転換したかのよう。
JERAのブランド広告。もう化石燃料火力発電からNEW ENEGYに転換したかのよう。

 

 例えば、東京電力と中部電力の火力発電所を糾合し、日本最大のGHG排出企業になっているJERAの場合、今年3月から、ブランドムービー「NEW WORLD. NEW ENERGY.」と新CM「ゼロエミッション火力への挑戦」篇/「安定供給への使命」篇を、自らのブランドサイトで公表した。これらの情報を元にした広告を、テレビや新聞で展開し、「脱炭素(を目指す)企業」であることを盛んにアピールしている。https://www.jera.co.jp/news/notice/20230330_1399

 

 日本最大の火力発電所群からのGHG排出量を、アンモニア混焼で減少させることをアピールし、「燃やしてもCO2が出ないアンモニアから、ゼロエミッション火力発電への挑戦、始まる。今こそ、やらなければダメなんだ」のコピーを掲げる。同社は今年度末、愛知・碧南火力発電で20%のアンモニア混焼化を予定する。だが、残りの80%は当分の間、化石燃料のまま燃やす。英国のASAの指摘を踏まえると「見た人に、今、すでにゼロエミッションになっているとの誤解を与える」ように思える。

 

 日本にも広告自主規制団体として、日本広告審査機構(JERO)等がある。国内の環境団体等は英国等の事例を踏まえて、「グリーンウォッシュ広告」の調査を求めてみてはどうだろうか。

 

 日本の場合、政府の「GX」政策自体、化石燃料関連企業が本当に脱炭素化できるのかとの「期待」や「誤解」を、見た人や国民に与える可能性がある。2050年までに、政府が想定するロードマップ通りに展開せず、想定外の技術開発が進んだり、行き詰まる移行リスクもあり、それらを制御できない場合もあり得る。「政府の政策自体がグリーンウォッシュ」の懸念がある場合、さて、われわれはどうすればいいのか――。

 

https://www.asa.org.uk/rulings/shell-uk-ltd-g22-1170842-shell-uk-ltd.html

https://www.thedrum.com/news/2023/06/08/protesters-gather-agency-hqs-stifle-shell-media-review

https://www.edie.net/shell-shareholders-reject-calls-to-up-climate-targets-as-protestors-disrupt-agm/