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高さ105mの木製タワーの風力発電設備、現在、スウェーデンで建設中。年末に完成。洋上でも建設可能。タワー製造時のCO2削減で「カーボンネガティブ風力発電」を実現へ(RIEF)

2023-07-07 00:29:59

Sweden001キャプチャ

 

  高さ105mの木造製タワーによる風力発電設備の建設がスウェーデンで進んでいる。今年末にも完成する予定だ。一般的な風力発電のタワーは鉄製だが、高層木造ビルの建設等に使われる木造部材を活用、鉄製並みの強度を確保したうえで、コストも安いという。鉄製の場合、製造時にCO2を排出するが、木造だと、木の成長時にCO2を吸収しているためカーボンネガティブ(ニュートラルよりCO2吸収増)を実現できるメリットがある。洋上風力発電にも活用でき、これから風力発電に力を入れようとしている日本の市場にも適しているかもしれない。

 

 世界初の木造風力発電タワーを開発しているのは、スウェーデンの木造技術企業のModvion社(本社イェーテボリ)。現在、同国南部のスカーラ市にあるエネルギー会社、Varberg Energi社の依頼で建設中の発電量2MWの陸上風力発電だ。

 

 森林資源が豊富な同国産木材から製造した単板積層材(laminated veneer lumber : LVL)のモジュールを組み合わせてタワーを積み上げていく。最上部に搭載するタービンはデンマークのVestas製。タービンを含めた高さは150mに達する。Vestasは2021年以来、Modvion社にも出資する株主でもある。

 

LVLのモジュールを工場で製造
LVLのモジュールを工場で製造

 

 タワーは円筒を4分割した形のLVL材のモジュールを建設サイトで「4×4」の形で組み合わせ、それらを積み木のように積み上げていく。現在建設中のタワーは、Modvion社のイェーテボリ工場で、今年初めから作業を進めている。鉄製だと、タワーの部材を接合するために、一基当たり5万本のボルトが必要とされる。だが、木製の場合はボルトは使わず「糊」で接着する。その結果、設置後のボルトやタワー部材の錆の点検補修作業が不要になるメリットもある。

 

 LVL材のモジュールは鉄材に比べて軽い点もメリットだ。重量比の強度は、鉄製の風力発電タワーよりも高くなる。部材をトラック等で設置サイトまで輸送する場合も、鉄製のタワーに比べて、軽いため、通常の道路で容易に運搬できる点もある。総合的にコスト面でも有利としている。

 

 LVLに使う木材は、北欧で豊富に育っているスプルース(欧州トウヒ)を使う。森林の伐採・木材の加工等に際しては、森林保全の植林プログラム等と組み合わせ、FSC認証やPEFC認証の取得を条件としている。

 

クレーンでモジュールを組み合わせる
クレーンでモジュールを組み合わせる

 

 同社の設計では、風力発電設備の操業期間は、現行の鉄製タワーの風力発電設備と同様、25~30年の設計としている。鉄製の場合は、撤去後、解体してスクラップにする。木製の場合は解体撤去後、再利用が可能で、木造高層住宅の部材に活用できる。

 

 したがって、廃棄物量も少なくて済む。風力発電で最大のCO2排出源となる鉄製タワーを木製に置き換えることで、ライフサイクルベースのCO2排出量が大幅に減少するほか、廃棄スクラップが出ないことから文字通り「環境に優しい風力発電」を実現できるとしている。

 

 同社の説明では、高さ110mのタワーの鉄製風力発電の場合、ライフサイクルベースでのCO2排出量は1250㌧と試算。これに対して、木造タワーの場合はその10分の1の125㌧でしかないという。一方で、Modvionが建造する木造タワーに必要とされる木質部材の容量は300~1200㎥で、これらの木に貯蔵されているCO2量はタワー240~950㌧の推計。したがって、ネットで気候ネガティブになる。

 

積み木細工のよう
積み木細工のように

 

 木造建設の場合、その拡張性も魅力だ。現在建設中のタワーは高さ105mだが、150m~200mといった、より背の高いタワーの建設も可能という。Modvion社のCEO、Otto Lundman氏は「木材は低コストで、より高いタワーを建設することができ、風力発電の効率性は(鉄製に比べて)より高まる。木造風力発電は、北欧の天然資源とスウェーデンの技術を使った新たなグリーン産業を生み出すスタート点だ。われわれは、真の『気候ニュートラル風力発電』のためのグローバル市場を作り出せる」と強調している。

 

 Vestas VenturesのCEO、Todd O’Neill氏も「いよいよこのプロジェクトが現実になろうとしており、われわれも興奮している。Modvion社の木造風力発電タワーの開発に、われわれの風力発電タービンを供給することで、事業全体をスケールアップして、同社の戦略を支援し、協働していきたい」と指摘している。

 

 日本で注目されている洋上風力発電の場合、操業期間中のサビ対策等の海上での補修作業が必須になるとともに、閉鎖時の設備の除却作業も海上では容易ではない。しかし、木造の場合、まずサビ対策が不要なうえに、除却時の解体も容易だ。万一、タワーの一部を海上に落としたとしても、木だから海面に浮く利点もある。木造高層建設に力を入れている日本のゼネコン各社には、木造風力発電タワー事業に、その技術を転用してもらいたいものだ。

https://modvion.com/news/worlds-tallest-wooden-wind-turbine-tower-being-built-in-sweden/

https://www.energylivenews.com/2021/02/19/vestas-invests-in-wooden-wind-turbine-tower-startup/

https://www.futurenetzero.com/2023/07/05/wooden-power-unleashed/?utm_campaign=Retiring+in+sustainable+homes%2C+a+rise+in+the+UK+solar+capacity+and+a+wooden+wind+turbine