核融合実験炉「欧州合同トーラス(JET)」。世界新記録の69MJ(石炭約2kg分)のエネルギー生成。世界7極共同核融合プロジェクト「ITER」に継承。核融合発電実用は道遠し(RIEF)
2024-02-10 19:15:46
(写真は、核融合実験炉「JET」=EURO fusionのHPから)
英オックスフォードシャーのカルハム核融合エネルギーセンターにある核融合実験炉「欧州合同トーラス(Joint European Torus=JET)」は8日、この施設で行う最後の核融合実験で、0.2mgの核融合燃料から69MJ(メガジュール : Mega Joules)のエネルギーを発生させたと発表した。2022年に同施設が記録した59MJを上回る世界新記録となった。
炉はトカマク構造の実験炉。強力な磁場を利用して高度にイオン化したプラズマ気体をトーラス(ドーナツ状の容器)に閉じ込め、太陽の中心温度の約10倍の1億5千万度まで加熱し極限状態にすると原子核が結合し、エネルギーが得られる。
核融合燃料は単位重さ当たりで比べると、石炭や石油、ガスといった炭化水素系燃料の800万〜1000万倍のエネルギーを生み出す潜在力があり、二酸化炭素など温室効果ガスを放出せず、原子力発電のように長期に渡り管理しなければならない核のゴミを出さないことから「夢のエネルギー」と呼ばれることがある。
JETは今回の実験で、重水素と三重水素という2種類の水素同位体を燃料として使用した。南フランス・マルセイユ近郊に建設中の世界7極共同核融合プロジェクト「ITER(ラテン語で道を指す)」の核融合実験炉も同じ2種類の燃料を使う予定で、JETは今回の成功を「ITERにとって励みになるもの」と位置付けている。
ITERでは、JETの技術が大規模に実行可能かどうかを実証する 予定。うまくいくことが証明されれば、続いて核融合発電をする原型炉に着手できる。
実はこのITER計画には日本も深く関与している。日欧共同で茨城県那珂市の量子科学技術研究開発機構・那珂研究所にITERと同型のトカマク型超伝導プラズマ実験装置「JT-60SA」を建設。ここで得られた知見はITERや将来の核融合発電の原型炉に活かすことになっている。昨年10月23日、本家のITERに先駆けて初プラズマ生成に成功した。
核融合発電ができるようになれば、地球上のエネルギー問題のほとんどが解決するとみられるが、「発電(generation)」となると当然、投入するエネルギーよりも生み出されるエネルギーが大きくなければならないし、そもそも核融合反応で生じるエネルギーがプラズマから逃げるエネルギーを上回らないと核融合反応は持続しない。
核融合の世界では核融合反応で生じるエネルギーがプラズマから逃げるエネルギーを上回り核融合反応が持続して起きる状態になることを「核融合点火(fusion ignition)」と言い、最初に乗り越えなければいけない壁とされてきた。
2022年12月13日、米国のローレンス・リバモア国立研究所(Lawrence Livermore National Laboratory)は、レーザー型核融合実験装置を使って「投入したレーザー光の約1.5倍のエネルギーを取り出すことに成功し核融合点火を達成した」と発表した。
世界初の快挙として注目を浴びたが、レーザー光の発生や増幅に使ったエネルギーや、出力の変動の抑制に必要なキャパシタ―バンクを充電するのに使ったエネルギーを考慮すると、投入エネルギーを1とすると得られたエネルギーは0.008に過ぎずまだ課題が多く残っていることが分かった。
この先さらに研究が進み、「核融合点火」の壁を越え、「発電」に成功しても、商業核融合発電所の形にするにはさらに時間がかかる。
炉を実験炉、原型炉、実証炉、商用炉と段階的にスケールとバージョンを上げていかなければならないが、核融合装置の建設は一つひとつに莫大なお金と時間がかかるため、手早く作り上げていくのも、急な方針転換も難しい。核融合発電の技術が完成して商業核融合発電所ができるまで半世紀程度の時間が必要との見方もある。
それまでに解決しなければならない地球的課題、例えば気候変動問題は、「夢のエネルギー」の登場を座して待ってはならない。
(宮崎知己)
https://euro-fusion.org/eurofusion-news/dte3record/
https://euro-fusion.org/partner-news/fusion-for-energy/jt-60sa-inauguration/
https://www.fusion.qst.go.jp/ITER/iter/page1_7.html