日本企業によるCO2のアジア等への輸出計画が急増。現地にCCSプラントの建設目指す。共同通信調べで13件が進行中。現地の住民や環境団体は猛反発。国内での排出削減を棚上げか(各紙)
2024-04-08 14:14:01
(写真は、CO2を海外に輸出する船舶=共同通信より)
各紙の報道によると、脱炭素対策の一環で日本政府が推進するグリーン・トランスフォーメーション(GX)の支援を受け、主要な企業が排出したCO2を、東南アジアなどに輸出し、CCSを使って地中に貯留する事業計画が過去2年ほどで急増し、少なくとも13件に上ることがわかった。CO2輸出事業には、電力や製鉄、石油元売りといった排出量の多い企業が参画、早ければ2030年前後の開始を見込んでいるという。日本国内での排出削減を棚上げして、CO2を他国に輸出する事業に対して、海外のNGOや市民団体は「廃棄物の海外輸出と同じ」として、反発を強めている。
共同通信が伝えた。それによると、CO2の海外輸出計画を推進しているのは、大手電力や製鉄、石油元売りといった排出量の多い企業が参画する事業体。いずれも、早ければ2030年前後の開始を見込んでいるという。
国内では2050年のネットゼロの目標達成が求められており、これら高炭素排出セクターの企業についても、今後は大幅な削減や「排出実質ゼロ」に備えた事業転換を求められる。しかし、これらの企業は、現行のCO2を大量排出する石炭火力発電所や、鉄鋼の高炉生産等の事業を延命させるための取り組みとして、自らの事業からの排出量を削減する対策に代えてに、排出したCO2を海外に輸出し、現地でCCSプラントを建設・処理する事業を有力視している実態が浮かんだ。
日本政府はGX政策で、CCS事業については2030年の実用化を見据えている。しかし、国内には適地とされる枯渇したガス田などが少ないうえに、地下には未調査の断層が多く、実用化の見通しは立っていない。そこで、日本で発電所等から回収したCO2を船舶で輸送し、海外のCCSプラントで貯留する企業の計画を後押ししているわけだ。
ただ、CCSによる地中貯留は、回収、貯留のためにコストがかかるほか、貯留サイトの確保、海上輸送に伴う運搬コスト等も加算される。これらを国内での本業の排出削減コスト以上に低コスト化できるかは不明。CCS事業が先行して実施されている海外でも、商業ベースでの実用化例は限られている。
さらに排出されたCO2は、企業活動からの廃棄物と同じで、先進国が出した「CO2廃棄物」を途上国が輸入することに対しては、CCSプラントの建設候補地とされる地域の住民やNGO等から強い反発が出ている。日本政府はこれまで、アジア地域で石炭火力発電の輸出を奨励し、官民ファイナンスで事業支援を展開してきた。今回のCO2輸出事業は、これと同じ形で、「CO2廃棄物」の官民連携の輸出促進策となる公算が高い。
共同通信の調べでは、事業体の一つ、三菱商事やENEOSなどの4社は、東京湾周辺の火力発電所や製油所から出るCO2を液化し、船でマレーシアに輸送して同地で貯留するCCS事業の検討を進めている。年300万㌧の回収量を想定。30年度までに輸出を始める。中部電力などは名古屋港周辺の発電所や工場から出るCO2をインドネシアで貯留する実現可能性の調査に着手した。
住友商事やJFEスチールなどは、瀬戸内・四国地域からの排出CO2をオーストラリアに運んで、現地で貯留することを目指す。大阪ガスなどは鉄鋼や化学といった産業の国内工場のCO2をアジア太平洋地域で貯留することを想定する。
ただ、日本政府や企業の思惑通りにCO2輸出計画が進むかどうかは見通せない。環境NGOのFoEマレーシアは3月、日本政府や三菱商事などへの抗議文を公表し「日本がなすべきことは排出削減であり、他国への輸出や投棄ではない」と批判した。他の地域でも、「廃棄物輸出と同じ」といった反発が広がっている。
抗議文を受け取った三菱商事は「地元の住民の理解をいただいたうえで取り組む」としている。地元の反発だけではない。輸出と現地でのCCS建設に伴うコストをめぐっては、火力発電とCCSを組み合わせた場合、発電単価が太陽光や風力の1.5倍~7倍程度になるとの分析を米シンクタンクが公表している。コストアップ分は、電力だと電気料金に、鉄だと鉄鋼製品に加算され、結局は国内の消費者負担を増大させることにつながる。