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原発に非常用冷却施設を義務付け 規制委が新基準原案  今月末に公表へ(日経)

2013-01-09 10:02:13

nikkeishingenpatsukijyun96958A9C93819691E2EAE2E2948DE2EAE2E3E0E2E3E19F9FEAE2E2E2-DSXBZO5038901008012013I00001-PN1-9
nikkeishingenpatsukijyun96958A9C93819691E2EAE2E2948DE2EAE2E3E0E2E3E19F9FEAE2E2E2-DSXBZO5038901008012013I00001-PN1-9原子力規制委員会が原子力発電所に新たに適用するための安全基準の原案が明らかになった。津波や地震、航空機の墜落などを考慮した厳しい規制を導入し、原発が機能を失った場合に備え原子炉を冷やす非常用の冷却施設の新設を義務付ける。一基当たり数百億円のコストがかかるとみられる。ただ、こうした冷却施設の設置は欧米ではすでに実際されており、地震多発国の日本の場合、これだけで安全が保たれるか疑問だ。

 

日経の報道によると、規制委は11日にこの新しい基準案の議論を行い、早ければ今月末にも基準案の骨格を一般にも公表する。パブリックコメントの手続きを実施、一般の意見を募った後、7月に新基準を決める予定という。再稼働の審査は、その後に、新基準に基づいて実施することになる。


新設が義務付けられる非常用の冷却施設は、東京電力福島第1原発の事故を教訓に「あらゆる過酷な事故は起きうる」との認識を基礎にしたもので、どの原発にも想定外の事故が発生するとの前提で、非常用施設の設置義務化を行うもの。これにより、万一、想定外の事態が起きても、放射能漏れを最小限に抑える体制を維持できるとみている。




 義務化される非常用の冷却施設は、原子炉の建屋から100メートル程度離し、原子炉と同時に壊れないようにする。原子炉にはこれまでと同様、通常の冷却装置がつけられ、それが福島事故のように事故等で機能不全に陥った場合でも、この非常用施設が機能することで、被害を最小限度に食い止めることを担保する。




 ただ、米同時テロなどをきっかけとして、欧米ではすでにこうした緊急時に稼働する独立型の冷却施設の設置は義務化されている。ドイツやスイスにそうした義務化規定があるほか、フランスは昨年6月、旅客機などの衝突に耐えるような頑強な建屋で、原子炉を覆うことも求められている。米国も同様に、原発の大部分が火災などで失われても冷却機能は維持できるシステムが原発には設置が義務化されている。

今回の規制委の基準案は、こうしたすでに欧米諸国で一般化している基準に、ようやく日本も追いつくことを意味するに過ぎないともいえる。地震多発国の日本が抱える地震リスクや津波リスクに対しては、原発ごとに「基準津波」を設定し、防波堤や防水扉を整備して建屋内に水が入らないようにするほか、高台に置いた非常用電源やポンプで冷却を続ける設備の設置も併せて求める。ただ、活断層上に立地した原発や、近くに活断層がある原発についての対応策については、明確な基準を示せるかどうか不明だ。

福島事故では、ベント(排気)により大量の放射性物質が漏れたことから、放射性物質を除きながら格納容器内の圧力を下げるフィルター付きの排気設備を義務化する。規制委はこれによって、炉心溶融が起きた場合でも、外部への放射能汚染の拡散を抑えるのに役立つとしいる。

こうした基準に合致するようにするには、電力各社は現行の原発について新たな設備投資が必要になる。一基当たり数百億円が追加的に必要との指摘もある。福島事故で廃炉時の廃炉費用も増大しており、原発コストはこれまでよりも相当かさむことになる。とりわけ40年廃炉の対象になりそう、あるいは数年のうちに対象になる、という原発にいては、こうした膨大な追加コストがかかるとなると、早めに廃炉に踏み切ったほうが経済的に合理的な場合も出てくる可能性がある。

米国ではすでに、原発の事故対応等のコストがかさみ、新設原発の採算が合わなっているとの指摘がある。たとえば、米電力大手ドミニオン・リソーシズは今年、米ウィスコンシン州にあるキウォーニー原子力発電所を閉鎖する。米国のシェールガス生産が急増し、価格が下落したことで、石炭火力発電所の閉鎖に続き、原子力業界にも影響が出始めている。より小規模で使用年数がより長いキウォーニー原発が最初の標的となった。

天然ガスとの競争に敗れて閉鎖に追い込まれる原発が今後さらに増えるとの見方が出ている。キウォーニー原発は1974年に商業運転を開始。2011年4月から売りに出されていたが、2033年までライセンスが更新されたにもかかわらず、買い手は見つからなかった。