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東電、「想定外」「予見不可能」を16連発 原発事故裁判で、責任回避の答弁に終始(東洋経済)

2013-07-21 20:54:34

裁判所に向かって行進する、原告と支持者たち
裁判所に向かって行進する、原告と支持者たち
裁判所に向かって行進する、原告と支持者たち


福島県や宮城県など5つの県の住民800人が3月11日に起こした福島第一原子力発電所事故に関する原状回復・損害賠償請求訴訟で、被告の国と東京電力が、住民の訴えを退けるべきだとの主張を展開した。

住民は裁判を通じて、原発事故以前の環境に戻すことや、それまでの間に1人当たり1カ月に5万5000円の賠償金を支払うことを国と東電に求めたが、7月16日に福島地裁で開かれた第一回口頭弁論で、国と東電はそれらの訴えを棄却するように主張。両者が真っ正面から激突する構図となっている。

「史上最悪の公害」の責任問う


原告団事務局長を務める馬奈木厳太郎弁護士によれば、「今回の裁判は国や東電の不作為によって引き起こされた史上最悪の公害の責任を問うもの」。損害賠償のみならず、もとの平穏な暮らしや環境の回復を求めているのが特徴だ。

原告による訴状では、最悪の公害を引き起こした原因が国や東電の不作為、重大な過失にあったと述べられている。いわく、「2002年時点で東電は福島県沖の巨大地震を予見していた」「06年に原子力安全・保安院などが主催した『溢水勉強会』で、10メートルの高さの津波によって非常用海水ポンプが機能を喪失し、炉心損傷に至る危険があることや、14メートルの高さの津波により、建屋への浸水に伴い全電源喪失に至る可能性があることを東電が報告した」。

しかし、重大事故が起こる可能性について「02年または遅くとも06年には認識していた」とする原告の指摘に対して、東電は「予見できなかった」と答弁書で反論。前出の勉強会でのやりとりについても「一定の想定外津波が発生するとの仮定に立って、『あくまで仮定という位置づけで』プラントの耐力という施設面にかかわる技術的検討を実施したもの(に過ぎない)」と抗弁した。

要は、東日本大震災のような巨大地震はまったくの想定外であり、対策を怠った事実はないというのが東電の主張だ。東電の答弁書では、「予見できなかった」「想定外」などの言葉が16度も繰り返されている。

「東電に津波対策実施を命じるなどの規制権限を行使しなかったのは違法だ」として住民が国の責任を追及したのに対して、国側も責任の所在を真っ向から否定している。

原告が過去の公害裁判の判決から導き出した「平穏生活権」についても、今回の事故で「権利の根拠となるものではない」などと答弁書で述べている。

国、東電の主張は予想されていたものとはいえ、その姿勢はきわめてかたくなだ。ただ、自らの反論についての具体的な根拠は示していない。原告が「国の責任」とする多くの論点について、認めるか否かについて述べなかったことから、裁判所は次回の裁判期日までに見解を示すように国に指示している。

国や東電が不作為を否定する理由


東電の首脳は6月26日の株主総会で次のように述べている。

「事故前の津波対策については、知見が十分とは言えない津波に対して、想定を上回る津波が来る可能性は低いと判断し、自ら対策を考え、迅速に深層防護の備えを行う姿勢が足りなかった」(内藤義博副社長)。

「福島第一原発の事故に際しては、深く反省すべきところがあった。人智を尽くして事前の備えをしていれば、この災害は防げたのではないかという質問に対して、防げたのではないか、これがわれわれの考えであります」(相澤善吾副社長)。

このように東電は事故を防げなかったことに「深い反省」を述べる一方、事故をいまだに「想定外」とすることで不作為や重過失をきっぱりと否定している。不作為や重過失があったと認めた場合、原子力損害賠償法の無過失責任原則に基づく現在のルールは根底から見直しを迫られるとともに、賠償額は従来と比べても大幅に膨らむことが必至だからだ。原発の稼働にも支障が出かねない。

国と東電の責任を正面から問う今回の裁判は、9月10日に次回期日が予定されている。国や東電の反論の中身や根拠が注目される。

 

http://toyokeizai.net/articles/-/15780