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国際便再開めど立たず 福島空港 存続に危機感も(福島民報)

2011-09-07 18:03:32

国際便が長期運休し、閑散としている中国東方航空とアシアナ航空のテナント=福島空港ターミナルビル
国際便が長期運休し、閑散としている中国東方航空とアシアナ航空のテナント=福島空港ターミナルビル


福島空港発着の上海、ソウル国際定期便は東日本大震災が発生して以降、運休したままで再開の見通しは立っていない。東京電力福島第一原発事故に伴い中国、韓国両国政府が本県への旅行自粛を国民に要請していることが背景にある。運休は長期化する可能性があり、関係者は地域経済への影響とともに空港存続への危機感を強めている。

【写真】国際便が長期運休し、閑散としている中国東方航空とアシアナ航空のテナント=福島空港ターミナルビル

■鈍い反応

 大震災の被災県には明るい空のニュースが届き始めている。宮城県の仙台空港は今月25日、青森県の青森空港は10月30日にそれぞれソウル便が復活する予定だ。

 津波で壊滅的な被害を受けた仙台空港に海外への翼が戻ることは、復興の大きなシンボルになる。本県の空港交流課職員は隣県の「朗報」に接し、焦りを募らせる。

 県は中国東方航空とアシアナ航空に対し、それぞれ上海便、ソウル便の早期の運航再開を再三要請してきた。福島空港周辺の放射線量が福島第一原発の周辺地域に比べて格段に低いことや、原発事故収束に向けた工程表が順調に進んでいることなどをアピールしているが反応は鈍い。

 福島空港は日本航空の撤退や国内便の利用低迷などで厳しい運営が続いている。担当者は「国際路線が撤廃された場合の打撃は大きい。何としても回避したい」と声を振り絞る。

■深まる懸念

 上海、ソウル両便の昨年度の利用者は5万人を超えている。昨年1年間に本県に宿泊した外国人観光客は延べ7万8千人で、このうち中国、韓国両国は延べ4万5千人で半数以上を占める。

 「韓国人は原発事故をまだまだ恐れている。今年どころか来年も飛ぶかどうか分からない」

 大玉村の大玉TAIGAカントリークラブなどを運営する「大河」の崔●津社長は、恨めしげに空を見詰める。同社が県内で経営する三つのゴルフ場には年間合わせて約8千人の韓国人プレーヤーが訪れていた。震災後はゼロで、同社は国内向けの割引サービスを続けるなどして急場をしのいでいる。

 多くの温泉やスキー場などを抱える会津地方の観光地からは秋・冬観光への懸念の声が上がる。会津若松・磐梯地区国際観光振興推進協議会の関係者は「原発事故の風評被害と国際便運休のダブルパンチを受けている。今年は中国、韓国からの入り込みは期待できない」と嘆く。

 県は海外の富裕層を県内の病院などに招く医療ツーリズムを推進している。中国を大きなターゲットにしているが、誘客への影響は避けられない状況という。

※●は日の下に火

■外交ルート

 中国、韓国両国政府が本県への旅行自粛を解除する大きな判断材料が原発事故の収束状況だ。

 韓国大使館関係者は「被災県を支援したい。ただ、国際社会は今も原発事故を不安視している」と話し、中国国家観光局職員は「(原発事故への)中国国民の不安は根強い」と明かす。

 原発事故の収束作業が途上にある中、早期の運航再開を実現するには、県単独の働き掛けだけでは限界がある。

 野田内閣で就任した玄葉光一郎外相(民主、衆院本県3区)は海外からの誘客に福島空港を積極的に利用する考えを示している。佐藤雄平知事は「推進する外交項目に福島空港の利活用を入れてほしい。玄葉外相の誕生を機に、国際会議の誘致も検討したい」と、外交ルートにも活路を求める。

■背景

 福島空港の利用は年々落ち込み、昨年度の国内・国際便利用者は計28万6375人で、過去最多だった平成11年度の約75万人から47万人近く減少している。今年度7月末現在の国内便の利用者は、震災が起きたにもかかわらず札幌便が3万5428人、大阪便が4万2348人で、前年度同期より1600~3千人余り増えている。国際便が震災や原発事故の直撃を受けた格好で、空港の利用を促進する上での課題になっている。空港周辺の環境放射線量は毎時0・2マイクロシーベルト程度で推移している。

■地元、空港ビルにも暗雲 打開策見えず 県、緊急時拠点空港も模索

 福島空港発着の上海、ソウル国際定期便の長期に及ぶ運休は、地元経済団体の計画にも影響を及ぼしている。空港ターミナルビル内の免税店は売り上げが減少し、ビルを管理する第三セクターの福島空港ビルは東京電力に損害賠償を求める準備を進める。

■頓挫

 上海、ソウル両便の利用は平成21年度が計約4万9千人だったのに対し、昨年度は計約5万1千人に持ち直した。空港のお膝元・須賀川市の須賀川商工会議所などでつくる福島空港利用促進研究会は今年度、両国の観光客向けに市内の商店街などを巡る旅行商品を売り出し、利用に弾みをつける予定だった。

 震災前の上海の旅行業者との打ち合わせでは、好感触を得ていたが、震災と原発事故で計画は宙に浮いたままだ。県内のゴルフ場や観光地に向かう富裕層を市内にとどめ、地元産品の購買を促す狙いもあっただけに、関係者は唇をかむ。

■賠償請求

 「この痛手は大き過ぎる。取り返しがつかない事態だ」。福島空港ビルの井戸沼育夫総務部長は、封鎖されたままの国際線ロビーを力なく見詰めた。

 震災前、空港内の免税店は中国や韓国からゴルフや観光に訪れる富裕層でにぎわった。カレー粉やごま油、酒、お菓子、化粧品などが人気を集め、一カ月の売り上げが600万円に上ったこともある。しかし、今は店を閉じ営業再開の見通しは立たない。免税店の閉鎖で福島空港ビル全体の売り上げは、前年同期の1億1300万円から3割近く落ち8400万円となった。

 照明の明るさを落とすなど、経費削減に努める一方、県内の隠れた逸品の販売に力を入れているが、今のところ収益増につながっていない。上半期の減益分として3千万円を東電に損害賠償請求する方針だ。

■存続の道

 県は先月まとめた復興ビジョンに、福島空港を緊急時の交通ネットワークや救援物資輸送の拠点に位置付け、災害時の機能を強化する方針を盛り込んだ。

 福島空港は地震の被害をほとんど受けず、震災後は道路や鉄道など交通インフラが寸断された中、県外からの緊急物資輸送の拠点として機能した。自衛隊の航空機や防災ヘリの発着拠点となったほか、羽田、名古屋を結ぶ臨時便も飛んだ。

 こうした実績を踏まえ、県観光交流局は「福島空港を県民空港として存続させるため、空港の新たな活用法も研究したい」としている。

http://www.minpo.jp/view.php?pageId=4147&blockId=9886016&newsMode=article