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政府の原発費用計算は過小評価、「もっとも高い」可能性も(エネルギー市民評価パネル)

2011-10-21 22:46:56

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FOE Japan ,WWF、Greenpeaceなどの環境NGOで構成する「エネルギーシナリオ市民評価パネル(エネパネ)」は、既存の論文・情報を踏まえた原子力発電の費用評価についての報告書をまとめた。これまで政府の試算では、原発は「もっとも安い電源」と宣伝されてきたが、報告書では、これまでの政府の原発費用には電気料金に含まれる様々な費用や、環境・事故などの外部費用を含んでいない。それらを含めると、原発費用はもっとも高くなる、としている。

 

<報告書の要 約>

1 発電にかかる費用の考え方
発電にかかる費用については、発電事業に直接かかるコストのほか、電気料金に含まれるさまざまな費用、環境や事故などの外部費用(外部経済、外部不経済)、すでに起こってしまった福島第 一原発事故の損害賠償費用を含めて検討することが重要である。

 

福島第一原発事故を踏まえ、発電のエネルギー選択の際には、費用面だけではなく、「安全性」、「核不拡散」、「持続可能性」、「国際平和」の原則に合致するエネルギーを選択するべきである。これまでの発電コスト試算は、電力会社の立場に立った狭義の「発電コスト」としてとらえられ、 電力料金を支払う消費者の立場に立ったものではなかった。

 

実際には、電力料金には、電力会社の送配電コスト、広告宣伝費や地方自治体への寄付金などが総括原価方式に組み込まれているし、税金として支払われる行政コストも含めて、消費者は負担している。さらに、費用には、気候変動や大気汚染などの環境費用、原子力事故のコストなどは想定外として含まれていない。逆に、環境改善効果や、化石燃料依存を下げることによるエネルギーの安定化、産業や雇用創出効果などのさまざまな便益(メリット)についても考慮されてこなかった(図A)。

 

2 福島第一原発事故の教訓
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環境・社会影響や将来の健康影響をも含めた莫大な事故損害に鑑みれば、原子力発電の「費用」 は、いかなる計算方法によっても他の発電方法と比較にならないものである。

 

福島第一原子力発電所事故は、環境・人間生活・社会・経済に途方もなく大きな被害をもたらし
ている。当事国として、事故の検証と被害への正当な賠償、そして将来世代にわたる健康・遺伝被害も含めた予測とその対応について、議論の大前提として共有しなければならない。その際、それらの損害が、貨幣価値に換算できるものだけではないこと、またその大半がいかなる賠償によっても取り返しのつかない「不可逆的損害」であることを無視することはできない。

 

また、「事故リスクコスト」算出に用いられる「事故発生確率」についても、現行の確率論的評
価を改め、現実の事故発生率を考慮した形で検討しなければならない。

 

原子力損害賠償の観点からも、従来の原子力損害賠償法に定められた責任保険(賠償措置額1200億円)、および補償契約(1200 億円、補償料年間3600 万円)は今回のような大事故に対して到底見合わない少額であり、見直しの必要があることも考慮されなければならない。

 

3 既存の発電コスト分析の評価

狭義の発電コスト試算について、最近の試算(実績方式)で、これまでの政府の原子力発電コス
ト試算より実際はもっと高かったことが示されている。また、モデル発電所方式・実績方式ともに、行政コスト、揚水発電コスト等を加えれば、原子力発電のコストはより高くなる。さらに、過小評価されたバックエンドコストなどの要素を加味していけば、原子力発電は、火力発電や風力発電などよりも高い。これに事故リスク、環境外部費用などを考えれば、費用面から原子力発電を推進する意義はない。

 

狭義の発電コスト分析には、(1)モデル発電所方式と(2)実績方式とがある。

(1)は、典型的な発電所を想定することで将来の発電コストを分析する手法であるが、想定の置
き方次第で結果が大きく変わる。既存の試算では、原発の運転年数を40 年にするのか60 年にするのか、原発の設備利用率を80%にするのか60%にするのかによって、原発のコストは、火力発電よりも安くなったり高くなったりしている。福島第一原発が稼働後40 年で事故を起こしたことからも、30 年以上の原子炉に追加の安全対策を取らずに高い設備利用率を見込むことは現実的ではなく、運転期間を30 年とし、設備利用率を実績に近い値(2008 年度実績:60.0%)にするなど実態に合わせると、原発は火力発電よりも高くなる。

 

(2)では、1970~2007 年を総計した原子力発電のコストが高いのに対し、最近の2006~2010 年のコストが安い傾向がみられるが、近年の建設はほとんどなく建設コストなどがかからないことなどが影響していると考えられる。

 

4 原発停止による短期のコスト影響

原発を再稼働せず、すべて止めてしまう場合に、コスト負担面から大きな影響があるかどうかは、燃料価格の想定、省エネの想定によって異なり、必ずしも膨大なコストになるとは限らない。
原発停止の短期的な影響試算として、2012 年に原発がすべて止まり、火力発電で代替される場合の発電コストの試算が複数あるが、結果は大きく異なる。政府試算では、総額で数兆円にも及ぶ費用負担、NGO試算では、逆に負担減(利益獲得)になりうることが示されている。その差は、(1)コスト増加要因として考えられる燃料費(化石燃料、核燃料+再処理+放射性廃棄物)の単価の設定 の差、(2)省エネ・再生可能エネルギーの想定の差として表れている。

 

(1)では、政府試算では、核燃料費が1 円/kWhときわめて安く設定され、再処理費なども含まれ
ておらず、原発代替コストをより大きくする要因となっている。 (2)では、政府試算は、この夏実
施されたような省エネ効果を全く見込んでいないことから、負担総額が大きくなっている。実際に
は、原発の燃料費に再処理費などを含んだ金額とし、実績に沿って省エネと再生可能エネルギーの導入を見込めば、コスト増はほとんど問題にならない。また、ピークカットとして需要側の対策、揚水発電の効率的活用を行うことでコストは抑えられる。

 

5 これからの電気料金への影響
再生可能エネルギーの電力料金への影響は、今後上昇が予測される化石燃料の調達コストと比べると小さく、今後化石燃料を削減する利益の方が大きくなると指摘される。また、系統対策コストも、蓄電池以外で対応すればコストを抑えられる。さらに、再生可能エネルギーの普及は、環境改善効果に止まらず、経済効果も生み、二重の配当をもたらす。

 

再生可能エネルギーには、設備投資費用がかかる。投資を促し、事業採算性を担保する制度として、今夏、再生可能エネルギー全量固定価格買取制度が法制化された。これによる電力の買取価格が電力料金に上乗せされるが、将来的には、量産によるコスト低減効果によって下降する。

また、再生可能エネルギーの系統安定化費用が高額になることも指摘されるが、実際には、広域化による平準化、天気予報による火力出力調整、需要側管理などにより、蓄電池以外で対応できる 部分も大きく、その分コストは抑えられると考えられる。

 

発電にかかる短期の費用・中長期の費用は図B(上記)のように表せる。

 

6 中長期のメリット
化石燃料の調達コストを削減し、省エネ・再生可能エネルギーに投資を振り向けることは、国内
の設備投資や金融に資金が循環し内需が拡大することを意味する。中長期的な視点に立って、社会的な費用、環境、CO2削減、地域の活性化、雇用拡大などの展望を持ち、主力産業を育てる方向で、制度を整備していくことが必要である。
省エネ対策・再生可能エネルギー普及対策は、気候変動被害の回避、化石燃料コストの削減、国内投資の誘発と雇用拡大など、さまざまなメリットがある。これらそれぞれの便益を大まかに試算したものがある。気候変動被害額は長期的に膨大になると予測されるが、その費用に関しては、便宜上、炭素価格等であらわされており、適切に環境外部費用として評価されてはいない。
化石燃料の調達コストは近年上昇傾向にあり、多額のお金が国外に流出している。これを再生可能エネルギーの導入や省エネ設備の導入などで削減し、国内の事業に投資すれば、国内設備投資や金融・経済・雇用の好循環が生まれる。

なお、北海道・東北地方は、風力発電を中心に再生可能エネルギーのポテンシャルが大きい。そ れを生かし、震災復興と地域産業振興を進めていくことが可能である。

http://www.foejapan.org/energy/news/pdf/111021_2.pdf